日本代表はスタジアムを去る時、ロッカールームをきれいにしていくが、それは彼らが「礼儀正しい」からなのだとずっと信じていた。しかし、私はそれを少し疑っている。日本はロッカールームにポケモンやドラゴンボールでも隠していて、それを見つからないために掃除しているのではないか。そうでなければハーフタイム後の劇的な変身ぶりはどうにも説明できない。まあ、それは冗談としても、またもや日本は前半と後半で全く違うプレーをした。これで3試合連続だ。

 日本はスペインより強かったわけではない。ただ、25分間はスペインを圧倒的に凌駕するプレーを見せた。まるでスペインが乗り移ったかのようにボールを巧みに操り、パスを回し、勇敢に攻め、ゴールを脅かした。チームは安定し、自信を持ち、共通の目標に対する強い気持ちを感じさせた。スペインの選手を恐れさせ、そして絶望させたのだ。

 堂安律の同点ゴールは美しかった。田中碧の逆転弾は日本の果敢な攻撃が実を結んで生まれたものだった。VARのおかげで正義が行われたのは本当によかった。

 吉田麻也と長友佑都の闘志は、まさに日本人というものを語っていた。それはウルグアイの有名な“チャルーア”にも勝るとも劣らないと思った。

 世界は2-1というスコアはそのうち忘れるかもしれないが、完全にスペインを圧倒した25分間を誰も忘れないだろう。日本の戦いぶりに、世界中が衝撃を受けたのだ。
 
 私のすぐ横にはTVの解説をしていた元アルゼンチン代表のハビエル・サネッティが座っていたが、彼は試合中「Noooooo!」「神よ!」を連発していた。彼が試合を楽しんでいたのは明らかだった。

「これからどうなるかはわからないが、日本のおかげで面白いワールドカップになったのは確かだよ」

 試合の24時間前、スペインのルイス・エンリケ監督は「スペインより上のチームなど存在しない」といった。しかし彼はそれを言うべきではなかった。「スペインが上」であることを証明するために、彼は何が何でも勝たなくてはいけなくなってしまったからだ。この日本をリスペクトできない者は、誰もリスペクトできない者だろう。

 それにしてもスペインに勝利できたのは大きい。ドイツに勝ったのとはまるで意味が違う。スペインは優勝候補だ。それに勝てたということはファイナリストの実力があるということだ。もちろんスペインより上ではないが、少しでも気を抜けば足をすくうことができる。
 
 これまで日本の3試合を全て会場で見たが、なかなか個々の選手には触れられなかったので、ここでスペイン戦の寸評をしたいと思う。

権田修一:彼がチームの屋台骨であるのは確か。素晴らしいセーブ見せた。本物のプロで、チームメイトは安心して彼にゴールを任せられるだろう。

板倉滉:今回はDFの中で一番弱さを見せたが、闘志は素晴らしかった。

吉田麻也:初戦のドイツ戦から彼は私のアイドルだ。審判にもきちんと抗議できる姿はさすがにキャプテンだ。

谷口彰悟:イエローを出されたプレーは浅はかだったが、試合はパーフェクトだった。

伊東純也:「ブラボー!」の一言。セレソンに欲しいくらいの選手だ。

守田英正:彼の資質を高く買っているだけに、この試合は残念だった。コスタリカ戦より一番良くなかった。

長友佑都:ピッチではまるで活火山のようで、ベンチでも仲間を一番に鼓舞していた。いったいどこからあのエネルギーが来るのかを知りたい。

久保建英:ひどかった前半の日本の中で一番光っていた。創造性、才能、相手を脅かす勇気、どれも素晴らしかった。

鎌田大地:十全十美、全てにおいて高い能力を持った選手。だが、もっと彼の活躍が見たい。

前田大然:素直に好きなタイプの選手だ。ポジショニングセンスは素晴らしい。彼があと10%ほど集中力を上げることができれば、世界のトップレベルの仲間入りができるだろう。

堂安律:才能にあふれた選手。いったい彼はどこでこんなサッカーを身に付けたのか。

三笘薫:堂安がテクニカルに優れた選手なら、彼はサッカー的インテリジェンスに優れた選手。プレービジョン、スペースやタイミング取り方、どれも素晴らしい。

浅野拓磨:前出の2人がつけた火は彼が入ったことでより大きくなり炎となってスペインを襲った

冨安健洋:ベストコンディションではなかったようだが、それでもやるべきことをしていた。最高の彼のプレーが見たい

遠藤航:時間がなくこの試合では何もできなかったが、彼も日本を支える重要な一人だ。
 
 次の相手、クロアチアはとても冷静なチームだ。また歴史的背景から愛国心が強い。もともと実力のある選手たちが、代表のユニホームを着るとさらに力を発揮するのだ。

 決勝トーナメントに入ってからは、後半だけでいいという戦い方はではやっていけない。なにより先に失点しないことが大事だ。そのためには前半から中盤を強固にし、クロアチアの動きを封じなければならない。

 日本の方が若くエネルギーがあるから、後半もしくは延長戦で疲れてきた相手を一挙に襲うのが大切だ。ただスピードだけでは、クロアチアのゴールは割れないだろう。日本は縦のパスが多すぎる。スペイン戦の25分間で見せたように、ボールを回してチャンスを狙うべきだろう。とにかく時間をうまく使うのが重要だ。

取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。

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