[キリンカップサッカー2022]日本0-3チュニジア/6月14日/パナソニックスタジアム吹田

 極端に活動時間が制限された代表活動では、実験と結果のバランスが求められる。対象選手が溢れているので、丹念な検証を待っていると伸びゆく新芽を活用しきれず、低迷を招く危険性がある。そういう意味で代表監督は、クラブチーム以上に大胆さや柔軟性が求められる職業なのかもしれない。

 過去を振り返れば元日本代表監督のフィリップ・トルシエ氏は、指揮を執った2002年日韓ワールドカップ本番、ベスト8を懸けたトルコ戦(●0-1)で、自らの閃きに即して未検証の博打に出た。逆に森保一監督は、対極に位置するほど実験には慎重を期してきたわけだが、さすがに6月を迎えてみると、そのツケが溜まりすぎた印象だ。
 
 痛恨だったのは、上田綺世や守田英正といった重要な検証対象者たちが次々に故障離脱をしてしまったことだ。長く大迫勇也に依存してきたセンターフォワードは、古橋亨梧、前田大然、浅野拓磨ら優秀なスプリンターに機会を与えてきたが、彼らの欲しいスペースへボールが供給されるシーンはほとんど見られなかった。

 そうなると両翼からの崩しを完結させるには、エリア内で収めて高さと強さを出せる上田が最右翼になるはずなのだが、チュニジア戦を前に途中離脱したために最適解の調査は先送りになった。

 ただしチュニジア戦の後半には、遠藤航と田中碧をダブルボランチ気味にして南野拓実をトップ下に置く形も試しており、これがヒントとなる可能性もある。もともと森保体制のスタート時点でも南野はトップ下でプレーしており、サイドでチャンス創出が可能なら、中央に得点源を増やす選択肢が浮上してくるのが自然だ。例えばエリア内でフリーになる駆け引きに長けた古橋と、フィニッシュ精度に優れた南野を中央に置けば得点の確率は高まる。

 一方で守田が不在だったことも影響し、中盤の中央で「遠藤が狙われた場合にどうするか」(森保監督)という課題も浮上しており、少なくとも4-3-3以外のオプションを即座に引き出せる状況は整えておく必要がある。とりあえず6月シリーズは、平等な競争に重きを置いた様子だが、それ以前に鎌田大地、古橋、前田ら、いまが旬な選手たちの最適な活用法を探り出せていないのが実情だ。
 
 また最終ラインでも、本来重要なカギになる冨安健洋が負傷により出場できなかったことも痛かった。板倉滉、伊藤洋輝が定着し、反面、チュニジア戦で失点に関与した吉田麻也の連戦での不安が露呈しただけに、冨安の起用法も見極めたいところだった。

 そして改めて6月シリーズで最も不可解だったのが、この時期になってシュミット・ダニエルを重用し始めたことだ。

 森保監督は語っている。

「世界で勝つためにはマイボールを大切にする戦い方が絶対に必要になる。それができずに簡単に相手にボールを渡してしまえば、最後は力尽きてしまう」

 しかしいったいそれはいつ気づいたことなのだろうか。世界で勝つための肝になるコンセプトなら、チーム立ち上げ当初から挑戦を続けてくるべきで、いまさら強調するようなことではない。後方からしっかりと繋いでいくスタイルを目ざすなら、少なくとも足もとの技術のあるシュミットはトレーニングでも見本になる選手なので、常時メンバーには入れておくべきだったはずだ。
 
 結局、W杯アジア最終予選で後手に回った影響は、いまになって露呈し始めている。おそらく日本代表を構成する選手層は底上げされている。だがそのなかで多くの選手たちが適正ポジションに巡り合えず、所属クラブでの活躍を再現しきれていない。

 また同時に、世代交代の流れも想像以上に加速しているように映るが、指揮官は実績や信頼関係に重きを置くタイプだ。もはや次に進むために丁寧な検証を待っている時間的な猶予はない。せめて強豪国と同居し失うものがない抽選結果を味方に、未来を見据えた冷徹な決断を望みたい。

取材・文●加部 究(スポーツライター)

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