かつてコリンチャンスをブラジルチャンピオンに導き、アトレティコ・ミネイロではロナウジーニョとプレーし、マンチェスター・シティやエバートンにも在籍した元ブラジル代表FWジョーは、すっかり「裏切り者」のイメージが定着してしまった。

 彼は名古屋グランパス、コリンチャンスという2つのチームを裏切り、サポーターを裏切り、最近では愛人が妊娠し、妻も裏切っていたこともわかった。

 その得点力は35歳となった今も衰えていないし、彼は今季のカンピオナート・ブラジレイロ(ブラジル全国選手権)で4試合しかプレーしていないため、国内の他のチームでリーグを戦うことも可能だ(6試合以上出場するとそのシーズンは他チームでのプレーは認められない)。それでもブラジルでは、もうどこのチームも彼を欲しいとは思わないだろう。
 
 ジョーの選手生命はもう終わったと多くの人が思っている。ただ、本人はサッカーを続けたい気持ちが大きいようだ。ブラジルの『Radio 365』でも、「俺はなにも人を殺したわけじゃない。こんなに責められるのはおかしい」と主張している。

 そんなジョーの唯一の希望と噂されているのが日本の2部リーグに属するV・ファーレン長崎だ。ブラジルでは「悪名高きジョーを長崎が救う」と話題になっている。私が取材した中でも、彼の長崎入りの可能性を示唆する証言がいくつかあがってきている。

 コリンチャンスの幹部は、ジョーは現役を続けるために問題解決に向けて前向きだと明かした。

 ジョーの代理人ブレーノ・タンムーリは、ジョーから「これからは長崎以外のクラブと新たなコンタクトをとるな」と言われたという。

 そして何より一番大きいのは長崎の新監督、ファビオ・カリーレの存在だ。彼は2017年にコリンチャンスを率い、カンピオナート・ブラジレイロで優勝を果たしているが、その時の得点王がジョーだった。彼がクラブにジョーのことを勧めたとも言われている。

 カリーレは数日前、前出の『Radio 365』でもはっきりこう語っている。

「私は本気だ。もちろんまだクラブと話を始めたばかりだが、今朝もジョーの話をした。移籍市場は7月15日に始まるが可能性はある」
  
 もし長崎が彼を獲得してくれるなら、ジョーにとってはまたとない話だろう。だがたとえその意志があったとしても、残念ながらそう簡単に話は進まない。

 ジョーは名古屋に無断でブラジルに帰国し、コリンチャンスと契約を結んだことで、今月15日にスポーツ仲裁裁判所(CAS)が出した裁定で、45日以内に260万ドル(約3億5000万円)の賠償金を名古屋に払うことが科された。

 これをしない限りは、他のどのチームにも新たに登録することができない。そしてもし期限内に支払いが行なわれなければ、直ちに半年間の出場停止となる。
 
 つまりジョーが全額を支払うか、名古屋と交渉して減額か支払い期限を延ばしてもらうかをしなければ、万事休すとなる。いや、あともうひとつだけ方法がある。ジョーを獲得したチーム(長崎)が賠償金を肩代わりすることだ。だがこれはかなり現実性が低いだろう。

 CASの裁定が出た日から計算すると、支払のタイムリミットは7月30日となる。

文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。

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