「代表に入りたいという気持ちでサッカー選手を始めたので、(3月のオーストラリア戦のメンバーに)入れなかったのは悔しい。でも感謝している。落選したことによって今の自分がいると思う。1日1日、頑張って、ワールドカップ(W杯)に辿り着けたらいいなと思っています」
2022年カタールW杯最終予選最大の山場でまさかの日本代表落ちを強いられた堂安律(フライブルク)。彼は6月4連戦で復帰した際、実に清々しい表情を見せていた。
「自分がうまくいかない時に文句を言う選手は多い。でも律は絶対にそういうことを言わない選手。器の大きいところは(本田)圭佑に似ていると思います」とガンバ大阪ジュニアユース時代の恩師・鴨川幸司監督(ティアモ枚方アカデミーダイレクター兼ジュニアユース監督)も教え子のポジティブシンキングには太鼓判を押していた。
こうしたメンタリティが新天地・フライブルクでのブレイクにつながっているのだろう。今季の堂安は公式戦初戦となった7月31日のDFBポカール1回戦・カイザースラウテルン戦でいきなり決勝弾を叩き出し、鮮烈なデビューを飾った。続く8月6日のブンデスリーガ1部開幕戦・アウクスブルク戦でもダメ押しとなる4点目をゲット。「点の取れるアタッカー」として強烈なアピールをしてみせる。
その後もスタメンに名を連ね、9月突入後も3日のブンデス・レバークーゼン戦と8日のUEFAヨーロッパリーグ(EL)グループステージ・カラバフ戦で連続得点。早くも公式戦4ゴールとハイペースで数字を積み重ねているのである。
カラバフ戦の堂安は[4-4-2]の右サイドアタッカーで出場。前半15分に挙げた決勝弾は右からの鋭いドリブル突破で相手マーク2枚の真ん中を割り、さらにゴール前で1人をかわして左足を振り切ったもの。ある意味、最も得意とする得点パターンだ。その鋭さが戻ってきたのは、日本代表にとっても朗報。現在、欧州視察中の森保一監督の評価もうなぎ上りではないだろうか。
そもそも指揮官は2018年9月のチーム発足当初から堂安の才能を高く買い、重用してきた。ご存じの通り、彼と南野拓実(モナコ)、中島翔哉(アンタルヤスポル)は「三銃士」とも呼ばれ、凄まじい推進力と爆発力で日本の新たな攻撃を構築していた。
2019年まではその流れが続いたが、コロナ禍で代表活動が中断した2020年あたりから流れが変わり始める。中島が代表から外れ、南野も世界最高峰クラブ・リバプールで出番を得られず、堂安も2019-20シーズンに在籍したPSVで活躍しきれなかったからだ。
堂安自身は2020年夏にビーレフェルトへレンタル移籍し、復調していったが、それ以上に伊東純也(スタッド・ランス)や鎌田大地(フランクフルト)らの急成長ぶりが目立った。それとともに代表攻撃陣の陣容も大きく変化する。そして迎えた2021年9月の最終予選初戦・オマーン戦(吹田)。そこで自分がスタメン入りできないとは、堂安も全く想像していなかっただろう。
ご存じの通り、日本はこの初戦に敗れ、序盤3戦2敗と崖っぷちに立たされることになった。それでも堂安が先発に浮上することはなく、終盤まで行ってしまった。同じポジションを争う伊東が最終予選全12点中7点に絡む大活躍をしたのを見れば、本人も焦燥感を覚えたに違いない。
苦境が続く中、24歳になった堂安は自分に矢印を向け、頭の中を整理し、自己研鑽に励んだ。それが6月4連戦やフライブルクでの好パフォーマンスにつながった。以前の彼は「自分が自分が」とエゴを押し出し過ぎる傾向が強かったが、ここ最近は明らかに「周りを生かして自分も生きる」というスタンスに変化。献身的な守備も大いに光っている。今の彼ならば、森保監督も「ぜひ使いたい」という気持ちにさせられるはずだ。
加えて言うと、伊東が今夏赴いたスタッド・ランスでFW起用されているのも追い風。大迫勇也(神戸)や浅野拓磨(ボーフム)らFW陣がケガや得点力不足で苦しむ中、森保監督がカタール本番で伊東の最前線起用という奇策を採らないとも限らない。となれば、堂安の右サイド先発復帰、伊東との併用という道も見えてくるかもしれない。
短期決戦のW杯は「コンディションの良い選手を使う」というのが鉄則。それは2010年南アフリカの本田や松井大輔(Y.S.C.C.横浜)、2018年ロシアの乾貴士(清水エスパルス)や原口元気(ウニオン・ベルリン)らを見ても明らか。今、絶好調の堂安を使わない手はないということになる。過去の実績と序列を重視しがちな森保監督が思い切った決断を下せるかどうかは未知数だが、予想外の采配をしなければ、ドイツやスペインという世界的強豪から勝ち点を奪えないのもまた事実だ。
今や堂安は日本の成否を左右するキーマンになり得る存在といっても過言ではない。いずれにしても、彼にはこのままゴールラッシュを続け、「ここ一番で点の取れる選手」として信頼を高めていくことが肝要だ。そんな理想像を目指して、11日のブンデス、ボルシア・メンヘングラードバッハ戦、15日のEL・オリンピアコス戦、そして23・27日の代表のアメリカ・エクアドル2連戦とさらなる上昇気流に乗ってほしいものである。
【文・元川悦子】