相手を切り裂く日本の剣。森保ジャパンの武器・三笘薫

『戦術・三笘薫』。

カタールW杯を2カ月後に控える日本代表において、高速ドリブラー・三笘薫の存在は、欠かせない強烈な武器になっている。なぜここまで重宝されているのか。それは三笘がただの高速ドリブラーではないことに起因する。

スピード自慢のドリブラーはたくさんいる。そういった選手たちは、フリーや1対1の状況でボールを持つことができれば、その力を発揮できる。一方で、複数のマークがついたり、研究をされてカバーリングやスライドなどの対策を練られたりすると、途端に持っている力を発揮できなくなる。

三笘のプレースタイルはそういった選手たちとは全く違う。筑波大学時代、多くの強豪大学が『三笘シフト』として三笘がいるサイドの守備を分厚くしたり、パスを通させないように中盤を厚くしたりと、文字通りあの手この手で対策を練ってきた。しかし、それでも一瞬のキレと抜群のコース取り、そして両足の滑らかなボールタッチをトップスピードの中でも繰り出し、次々と相手を交わしていく。

また、一度ドリブルを開始したら、そのままペナルティーエリア内までボールを運んで、アシストやゴールを決めてしまうところが、他の高速ドリブラーと一線を画すところだ。ただ相手を交わすだけではなく、ゴールに向かって直線的に前進をしていくことが、三笘の最大の特徴であり、日本にとっては相手を切り裂く『剣』だ。

9月23日のアメリカ戦(ドイツ・デュッセルドルフ)でも、『日本の剣』は鋭く相手を切り裂いた。1-0の日本リードで迎えた68分に投入されると、88分に勝利を決定付ける圧巻のゴールを決めた。

左サイドタッチライン沿いでパスを受けると、ボールを細かく3回タッチしながら前に運び、対峙したDFの背後を取った瞬間に右アウトサイドでボールを前に出して、カバーリングにきたもう一枚の間を一気に加速。ステップのフェイントだけで相手の動きを止めて、もう一度右アウトサイドのワンタッチで持ち出した。そして、もう1枚カバーにきたDFと、その奥にいるGKの重心とポジショニングを見極めてから、右足インフロントでコントロールシュートをゴール右隅に突き刺したのだ。

 

戦術・三笘薫。日本代表を支える高速ドリブラーはなぜ止められないのか?

経験を積み重ね、磨かれてきたドリブル。カタールでも光り輝く

このゴール、三笘はスピードで相手を打ち抜いたというより、対峙したDF、そしてカバーリングしてきたDF、その先にブロックを敷いてきたDFの3枚の動きを、最初の3タッチの段階で見極め、予測し、あとは最小限のボールタッチで最短距離を辿っていった。こうしたゴールは川崎フロンターレU-18、筑波大、川崎フロンターレでも見せてきた。しかし年齢とともに経験を積み重ね成長をしてきたことでさらに磨かれた。

「自分で勝負を決めてしまうことができる選手にならないと、トップ・オブ・トップにはいけない。結局、最終的にはその個の打開力が『戦術』になるんですよね。その選手の存在自体がチームとしての1つの戦術にまでならないと生き残れないと思っているし、それこそが僕が今後プロとして上にいくために必要なものなんです」。

これは三笘が4年前の大学3年生の時に、U-21日本代表としてアジア競技大会に出場をした後に口にしていた言葉だ。そう、4年の歳月を経て、見事にこの言葉を具現化しているのだ。

『戦術・三笘薫』が意味するもの。それはチームの戦術の中に食い込まれても、いざというときにその戦術を凌駕する個を持っている選手であることにある。もちろん三笘は今、4年前に思い描いた自分になれたとは一切思っていないだろう。まだまだ目の前に山積する課題に向き合って、より大きな将来像を描きながら、一歩ずつ前進を続けている。その過程にあるのがカタールW杯。1つの重要な節目に向けて、三笘はよりストイックに自らの、かつ森保ジャパンとしての武器を磨き上げる。

文・安藤隆人


Photo:徳丸篤史