精度抜群のフィニッシュワークでフランクフルトの中心選手に

ついにここまで駆け上がってきたかという印象だ。

ドイツブンデスリーガのフランクフルトで攻撃の中枢となっているMF鎌田大地は、いつも飄々とした表情でプレーしている姿が印象的だ。中盤から前線を浮遊し、ボールが入ると性格無比なボールタッチと、最小限のステップワークで相手の急所をえぐっていくドリブルでDFラインを一瞬にして切り裂いていく。

京都・東山高校時代から不思議な選手だった。言葉で表現すると『前振りがない選手』、『予兆がない選手』。鎌田のプレースタイルは、ピッチ上で脱力しきっている印象を受けるが、そう見せているだけで、内実は常にアンテナを張り巡らせ、相手の動き、味方の動きの予測を行い、チャンスとなるスペース、パスを受けるべきポイント、パスを出すべきポイントを模索している。常に頭をフル回転させているが、それを周りに悟らせない。ピッチ上を浮遊しているように映るが、相手が気を抜いた瞬間、その隙を突いて狙い定めていたスペースにポジションをとる。相手が鎌田の動きに気づいても、もう時すでに遅し。精度抜群のフィニッシュワークで味方にゴールをもたらす。

2トップの一角として高校2年生の時にはプリンスリーグ関西で得点王を獲得。高校3年生ではプレミアリーグWESTでスケールの大きなストライカーとして躍動した。高卒で加入したサガン鳥栖でもそのスタイルは磨かれ、1年目から不動の存在として躍動すると、プロ3年目の2017年7月にフランクフルトに完全移籍。ヨーロッパ1年目は思うように出番を掴めずに苦しんだが、2018年8月にベルギー1部のシント=トロイデンへレンタル移籍をしてレギュラーを掴み、キャリアハイとなるリーグ12得点をマークした。

1年でフランクフルト復帰を果たすと、そこからはトップ下に加え、ボランチ、左サイドと複数のポジションで効果的なプレーを発揮し、冒頭で触れた通りフランクフルトにとって、なくてはならない存在にまで駆け上がった。

そして今季、夢だったチャンピオンズリーグのピッチに立った。サッカー選手であればW杯とともに憧れを抱くCLの舞台だ。

フランクフルトは昨季のリーグ戦で12位と低迷し、CL出場権を逃していた。しかし、ヨーロッパリーグ(以下・EL)で優勝をしたことで、王者に与えられるCL出場権を手にした。ELでの鎌田は、トップ下でプレーしテンポの良いパスとボールキープでゲームを作るだけではなく、フィニッシャーとしても抜群の存在感を発揮。鋭い飛び出しとゴール前での冷静沈着なプレーで、5ゴール1アシストをマークした。特にグラスゴー・レンジャーズ(スコットランド)との決勝では延長戦までフル出場。PK戦でも冷静にゴールに沈めるなど、優勝に大貢献をした。

今季もその勢いは止まらない。初のCLではグループリーグ第2戦のマルセイユ(フランス)戦でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれるなど、チームの今CL初勝利の立役者となり、リーグ戦では6試合で早くも4ゴール3アシストと大車輪の活躍を見せている。

この目を見張る活躍ぶりに、他のヨーロッパのクラブが黙っているはずがない。今ではプレミアリーグを中心とした複数のクラブが獲得に興味を示しているというニュースが報じられている。

 

アメリカ戦での先制弾。鎌田らしさが際立った『前振り、予兆のないプレー』

日に日に選手としての価値が上がっている鎌田は、日本代表のヨーロッパ遠征でもずば抜けた存在感を示した。キリンチャレンジカップ・アメリカ戦(2-0で勝利)。4-2-3-1のトップ下でスタメン出場をした鎌田は、交代を告げられた86分まで日本のチャンスを創出した。

25分の決勝弾はまさに『前振り、予兆のないプレー』からもたらされたものだった。右サイドで仕掛けた右サイドハーフの伊東純也と、そのフォローに行ったボランチの守田英正に、相手守備陣の目が行った瞬間を見逃さず、ボールサイドに引き付けられたCBの左脇のスペースに前振りもなく潜り込んだ。伊東のパスが守田に渡った瞬間、鎌田はオフサイドラインを冷静に見極めてポジションを取ると、守田のスルーパスをダイレクトでゴール右隅に突き刺した。予兆のない動き出しにアメリカの守備陣は、彼を完全フリーにさせてしまった。そしてボールが鎌田に渡った時はもう勝負有りだった。

試合後のフラッシュインタビュー。表情はいつも通りの飄々としたものだったが、「もっとチャンスはあったし、もう1点早めに取れていたら楽になっていた」とゴールを決めた喜びよりも悔しさ滲ませていた。

その表情の裏側には燃え上がる情熱と冷静沈着かつフル稼働している頭脳がある。日本の攻撃の中枢として、カタールの地でも世界トップレベルまで引き上げられた『前振り、予兆のないプレー』を見せてくれることを期待したい。

文・安藤隆人


Photo:徳丸篤史