「最後までもがきますよ。どうやったらワールドカップのドイツ戦のピッチに立てるかってことを今、考えているし、最後のスタメン発表の前までもがきながら、そこを目ざしてやるだけなので。

 個人的にはかなり悔しい思いをこの4年間してきたので、終わり良ければ全て良しじゃないけど、監督が使いたくなるようなプレーをするしかない」

 9月27日のエクアドル戦前日、原口元気はこう語気を強めていた。

 だが、翌日のゲームは出番なし。結局、日本代表の9月シリーズは23日のアメリカ戦で、86分から鎌田大地と代わって4分程度、ピッチに立っただけ。

 しかもポジションは5-4-1の右ウイングバック。「サイドのポジションはあまりイメージが湧きやすくない」と言う本人にとっては、不完全燃焼感の強い終わり方だったと言うしかない。

 アジア最終予選から「クローザー」的な起用が続いていることもあり、一部ではメンバー26人から落選危機もささやかれる原口。今の日本代表において、彼の起用法には難しい部分があるのも確かだ。

 森保一監督が昨年10月のオーストラリア戦以降、ベースにしていた4-3-3の中盤は、遠藤航、守田英正、田中碧といったボランチを本職とする3枚のMFが中心。原口も6月シリーズではインサイドハーフで起用され、強度や球際の強さは体現していたものの、攻撃面で圧倒的な存在感を示したとは言い難いところがあった。それでも、本人は「ウニオンでやっていることを持ち込めばいい」と意欲的になっていたはずだ。
 
 だが、9月シリーズから4-2-3-1にシフトしたことで、問題はより深刻になったと言える。というのも、全ての中盤のポジションができる分、どっちつかずになってしまう傾向が強いからだ。

 ご存じの通り、原口はもともとボランチでもトップ下でもない。2015年に赴いたヘルタ・ベルリン、あるいはヴァイッド・ハリルホジッチ監督時代の日本代表ではボランチなどもやっていたことはあったが、森保監督は今現在、この2つの位置では考えていないだろう。

 そうなると、やはり左右のサイドのいずれかということになる。しかしながら、「4-2-3-1になったら僕的には厳しい。『やれ』と言われればできるとは思いますけど、(伊東)純也のように突破していくのは簡単じゃない」とどこか消極的になっている以上、指揮官としては使いづらくなってしまうのである。

 2018年のロシアW杯では、爆発的な推進力と献身的なアップダウンで敵を凌駕した原口を目の当たりにして、森保監督は「まだまだサイドで行ける」と考えているだろう。ただ、所属するウニオン・ベルリンでインサイドハーフを主戦場にするようになってからの原口は、「自分は外では勝負できない」という思いを強めている。そのミスマッチが代表での序列低下の一因になっているようにも映る。
 
 実際、今の原口は伊東や三笘薫のように強烈な個の力と打開力を売りとする選手ではないかもしれない。が、その走力やスプリント能力は30代になって衰えるどころか、より研ぎ澄まされている。

 それは、10月9日のシュツットガルト戦(ブンデスリーガ)の83分間、13日のマルメ戦(ヨーロッパリーグ)の67分間を見ても明らか。とりわけ後者では守備の強度のみならず、ゴール前への迫力ある侵入、外に開きながらの豪快なドリブル突破を見せるなど、攻撃面でも大いにアクセントになっていた。

 W杯になれば、それだけのハードワークが必要になってくるし、伊東や三笘だけに頼っているわけにはいかない。そんな現状を原口には改めて認識して、今一度、サイドで戦う覚悟を固めてほしい。かつて浦和時代に見せていたヤンチャな部分を表に出すことなく、内に秘めたままでは、本当にもったいないのだ。

 本人としては、今季のブンデスリーガで首位を走るウニオンでインサイドハーフ争いの真っ只中にあり、8月末から9月にかけてのリーグ戦はほぼ出番のない状態を強いられた。ここ最近になって前述のシュツットガルト戦、マルメ戦と出場時間が増えているが、少しでも気を抜くとベンチ外もあり得る。

 熾烈な争いを強いられているため、代表でサイドプレーヤーとして戦うことを考える余裕がないのかもしれないが、31歳の経験豊富な選手として大舞台にピークを持っていく術は持ち合わせているに違いない。
 
 それが、本人の言う「監督が使いたくなるようなプレーをする」ということにつながるのではないか。

「『大一番は彼だろう』と思われるプレーをしないといけない」と強調した通り、4年前のベルギー戦で先制弾を叩き出したような強烈なインパクトを残すことに集中するしかない。原口は、必ずそれができる選手に他ならない。

「ポジションに関しては、奪う時も奪われる時も一瞬。その一瞬を虎視眈々と狙うだけ。必ず自分のタイミングが来ると信じています」と話していた通り、ようやくウニオンできっかけを掴みつつある。

 このまま調子を上げて、約1か月半後のドイツ戦に突き進むしかない。苦しかった4年間を乗り越え、4年前にあと一歩で果たせなかった8強入りの原動力となること。そこに集中してほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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