日本代表が強豪ドイツを2-1で下した23日の歴史的白星は、日本国内のみならず、世界中に衝撃を与えた。
日本のワールドカップ史上初の逆転勝利の原動力となったのが、75分の堂安律の同点弾。三笘薫の左サイドのドリブル突破からのスルーパスを受けた南野拓実が左足を一閃。名手、マヌエル・ノイアーが弾いたボールを豪快に押し込んだのが、原口元気から背番号8を継いだ24歳のアタッカーだった。
「こぼれてきた瞬間? ごっつぁんですって(笑)。ありがとうって感じで」と本人は目を輝かせたが、実に代表でのゴールは2019年1月のアジアカップ準々決勝のベトナム戦以来、3年10カ月ぶりの出来事だった。
「長らく代表戦から遠ざかっていましたし、こぼれ球がなかなか転がってこない3、4年だったので、こうやって決めることができて、トレーニングを積んできてよかったと思います」と喜びを爆発させた。
ご存じの通り、堂安は2018年9月の森保ジャパン発足時からエース候補の1人と位置づけられてきた。当時は南野拓実、中島翔哉との“新2列目トリオ”が凄まじい推進力と機動力を発揮。新時代の到来を予感させた。
森保一監督も期待を寄せてアジアカップに参戦。中島はケガで欠場したものの、他の2人はコンスタントに出場。堂安は初戦のトルクメニスタン戦とベトナム戦で2ゴールを奪う活躍を見せたが、日本は決勝でカタール敗れてタイトルを逃してしまう。この挫折を機に、若きアタッカーは長い長い停滞期突入を余儀なくされたのである。
「この4年間で折れそうになった時期? やっぱりフローニンゲンからPSVに移籍した1年目(19-20シーズン)。代表で言うと、アジアカップ決勝に負けてからの2年くらいですかね。(2020年夏に)ビーレフェルトに移籍するまでの1年間は、『自分ってどんなサッカーをしたっけ』と思うくらいのプレーしかできていなくて、当時が一番辛かった。自分の感覚が戻る感じがしなくて、自信が一気になくなってしまった感じでした」
本人も述懐する通り、2019年後半に始まったW杯アジア2次予選では停滞感を打破できず、ヘンクからUEFAチャンピオンズリーグに初参戦し、ハイレベルな経験値と自信を積み重ねる伊東純也に大きく水を空けられてしまう。
コロナ禍突入後の2020年も序列は覆ることがなく、堂安は右サイドのサブという扱いに甘んじた。2021年夏の東京五輪にエース級の1人として参戦した直後に始まった最終予選でもレギュラー奪還が叶わないどころか、2022年3月のオーストラリア戦でまさかの落選。本人は奈落の底に突き落とされた気分を味わったことだろう。
「いろんな選手が輝く姿を見て、悔しさしかなかったですね。チームメイトなので嬉しさ反面、『ふざけんな』という気持ちで試合を見ていました。特にドイツ戦のスタジアムは(2021年9月の最終予選)中国戦を戦ったところ。その時、僕は1分も出なくて、試合後に1人で走ったことを思い出しました。そこで逃げずに戦った結果があのゴールにつながったのかな。ここまで長かったけど、楽しかったですね」としみじみと振り返った。
ようやく1つの高い壁を乗り越えた堂安。ただ、まだまだやるべきことが数多くある。目下、最大のタスクは日本を勝利へ導くゴールを奪い続けることだ。
27日には今大会の成否を左右するコスタリカ戦が迫っているし、12月1日にはスペイン戦も控えている。ラウンド16進出が決まれば、さらに試合は続いていく。そこで堂安が立て続けにゴールを奪ってくれれば、森保監督もチームメイトもどれだけ楽になるか分からないのだ。
現時点での堂安の代表通算得点数は「4」。10代の頃から“和製メッシ”と称された才能あるアタッカーにはあまりにも物足りない数字である。しかし、今の調子ならワールドカップ複数ゴールも十分、考えられる。
日韓大会2ゴールの稲本潤一、南アフリカ、ブラジル、ロシアの3大会で4得点を挙げた本田圭佑らガンバ大阪アカデミーの先輩たちの系譜を継ぐ意味でも、堂安はここで一気に畳みかけるべきだ。
「図々しいメンタルの持ち主の人が関西人、ガンバには多いと思うので(笑)、それが大舞台でも気負わずプレーできる自分の良さだと思っています。おそらく先輩方もそういうことをガンバで教わったのかなと思うので、少しは関係しているのかなという気がします」と本人も共通点を感じている。
特に本田はジュニアユース時代の恩師である鴨川幸司監督が「自分がうまくいかない時に文句を言う選手は多いけど、律は絶対にそういうことを言わない子。器の大きさは圭佑に似てると思います」と太鼓判を押すほど。だからこそ、本田越えの期待が寄せられるのだ。
「自分は人と比べて目標を立てるのがあまり好きではないけど、(本田さんは)本当にリスペクトしている方なので、越えたいなと思います。まずはチームが勝つことを意識して、プラスアルファで自分も活躍したいです」
野心溢れる物言いをしている方が堂安らしい。伸び伸びと自分らしさを押し出し、ゴール前の凄みをこれでもかと見せつけてほしいものである。
取材・文=元川悦子