カタールW杯2022。この世界最大のスポーツ祭典に、日本代表は7大会連続7度目の出場を果たした。1998年フランスW杯から2018年ロシアW杯まで過去6回の戦績は、グループリーグ突破が3回。突破率は50%。最高戦績はベスト16である。
初めてW杯に出場したときは0勝3敗だった日本は、当時同じグループに同居した国々からは「オアシス」「ご馳走」と呼ばれていた。
だが今の日本は、各国から「厄介な存在」「タフな相手」「油断できない」と評されるまでに成長した。これまでのW杯での代表での活躍が、個人の選手としての地位やポジションを上げていき、その個人の集合がまた代表を強くしていったのだ。
今回はそんな日本代表のプレースタイルと成長を、直近3大会(南アフリカ2010、ブラジル2014、ロシア2018)を中心に振り返っていこう。
【フォーメーション】
「フォーメーション」は「システム」と呼ばれるときもあるが、その言葉の違いを少し説明しておこう。フォーメーションとは基本的にはスタートピッチに立つ選手の配置であり、「これから行うゲーム」のゲームプランの意思表示のようなものである。そしてシステムとは、戦術に沿った選手の動きとプレースタイル(パスの長さ、ドリブルの距離、プレスの激しさ)のことである。
フォーメーションはシステムの原型であり、システムはフォーメーションからくる戦術の中核を表わす。そこは表裏一体のものだ。それでは日本代表が過去にW杯大会本番で採ってきたフォーメーションを見ていこう。
・2010年 南アフリカW杯(2勝1敗 グループリーグ突破 ベスト16パラグアイPK負け)監督:岡田武史 「4-1-4-1」(4-3-2-1)
大会直前に韓国に大敗して、それまでのボールが動く連動するサッカー(オシムサッカー)から一気に専守防衛に舵を切って大会に臨んだ。ダブルボランチの下にアンカーを置き、7人で守って3人で攻めた。ある意味もっとも戦術的に「ハマった」大会である。
・2014年 ブラジルW杯(1分2敗 グループリーグ敗退) 監督:アルベルト・ザッケローニ 「4-2-3-1」(4-3-3)
戦術家ザッケローニが4年の歳月を掛けて醸成したチームは、従来の日本代表にはない攻撃性を備えていたが、結果は惨敗。世界の壁を痛感し、長友の涙が印象的だった。
・2018年 ロシアW杯(1勝1分1敗 グループリーグ突破 ベスト16 対ベルギー敗退)監督:西野朗 「4-2-3-1」
ハビエル・アギーレから継いだヴァヴィド・ハリルホジッチで戦ったアジア予選後に、西野朗監督に大会本番直前で交代。攻撃的サッカーを目指しながらも、基本はバランスを重視した堅守速攻型のチームだった。最も印象に残ったベルギー戦のラスト5分が、もっともリスクを取って攻め入り、そしてベルギーの超高速カウンターに沈んだのは、まだ記憶に新しい。
【フォーマットの歴史】
この流れを受けて、カタールW杯の基本フォーマットを考えてみよう。
W杯出場1~2回目までは3バック(3-5-2)を敷いていた日本代表だが2010年のドイツ大会でジーコ監督が4-2-2を敷いたときから、日本代表は4バックが中心だ。
過去では相手を押し込めるアジア予選では4-3-3も採用していたが、本大会の基本は4-2-3-1だろう。
選手の配置とポジションは右図である。番号とポジションの呼称は次の順番だ。従来、選手の背番号は担うポジションを表していたので(ブラジル代表はいまだにこの習わしに重きを置いているようだ)選手の背番号を見ればおおよそのポジションがわかるのだが、最近は「自分の背番号」を付けて戦うので少し分かり難くはなっている。
(1)がGK、(2)(5)がSB(サイドバック)、(3)(4)がCB(センターバック)で、この4人がバックラインを形成する。バックラインの前に(6)(7)の2人のボランチ、そして(8)と(11)のサイドハーフが両翼に、トップ下(10)が真ん中に位置してワントップの前で仕事をし、ワントップ(9)が最前線に張る。
この4-2-3-1の利点は、①中盤を手厚くでき、人数を掛けやすい。②選手同士の距離感もほどよく、たとえ中盤でボールを失ってもプレスも掛けやすい。③そして4人の最終ラインと2人のボランチで安定感のある守備網を敷くことができる==どこでもバランスが取れるのが4-2-3-1の最大のメリットだ。
逆に欠点としては①ワントップでFWが薄い。②相手に2ボランチの横のサイドを狙われる。③2ボランチの裏(バイタルエリア)を狙われやすい==などであるが、欠点のないフォーメーションなどはないので、要は「何を取って何を捨てるか」だ。
非常にレベルの高い相手の脅威を認識しつつも、日本の長所(特徴)である“素早さ”と“巧さ”そして連動したパスワークを前面に押し出すのであれば4-2-3-1は現在の日本代表にふさわしいフォーメーションと言えるだろう。
【システム(戦術)】
サッカーで最も語られるのが戦術、システムだ。カルチョ(サッカー)の国「イタリア」では、小学生の男の子は休み時間になると「カルチョ戦術論」を熱く語り合うという。サッカーを語るうえで、サッカーを楽しむうえで、システム・戦術論は欠かせない。
・「どうせ最後は(相手の)ボールはゴールに向かってやってくるのだから、ゴール前に人を集めてそこでボールを奪えばいいじゃないか。そして奪った時には相手の裏には広大なスペースがある」という考え方【カウンター戦法】
・「ボールを持っているときは絶対に失点しないのだから、出来るだけボールを持って試合を支配しよう」という考え方【ポゼッションサッカー】
・「自陣から出来るだけ遠い地域(相手陣地)でゲームを運ぶほうが負けにくいはずだ」「相手の陣地のビルドアップ時にボールを奪えば、相手は守備陣形が整っていないので攻めやすいはずだ」という考え方【ハイプレス戦法】
細かく言えばまだまだ千差万別のシステム論や戦術があるが、分かりやすく整理すると「どうやって守るか(どこでボールを奪うか)」と「どうやって攻めるか」とを考えることに他ならない。
では、我々日本代表はどうやって戦ってきたのか?を振り返ってみよう。
【システム(戦術)】
「身体の小さい日本人は個の力では及ばないので、組織で守って組織で攻めよう」というのが、元来の日本サッカーの考え方だった。「常に相手より数で優位に立って試合を進めよう」というプレースタイルである。
「専守防衛(南アフリカW杯)」→「連動したパスサッカー(ブラジルW杯)」→「堅守速攻(ロシアW杯)」という流れだ。
ドイツやスペイン、そして世界のトップレベルとはまだまだ差がある日本としては、相手ボールのときには数的優位を使いながら組織力で奪い取り、ボールを持てば連動した動きとパスワークで相手マークを剥がしながら、最終ラインでは俊敏性(アジリティ)で相手DFを翻弄しようとする戦いを仕掛けてきた。
時に「アント(蟻)」と揶揄されても、日本人の勤勉性をベースに「組織で守り・組織で攻める」という戦術が日本の柱だ。
だが、今大会ではこれに少し変化が生じるかもしれない。
ドイツで2年連続デュエル王に輝いたボランチ。世界のトップクラスが集うプレミアリーグで相手エースを押さえ込むディフェンダー。そしてヨーロッパリーグで何度も相手陣形を切り刻むドリブルを仕掛けられるFWたち。
日本の選手が「個の力」で相手に勝つようになってきている。そうなれば==このカタールW杯でヨーロッパのトップリーグで活躍する選手たちが、その身につけた個のプレースタイルを変えずに、青いユニフォームを着て、代表での活躍する姿を、我々に見せてくれるかもしれない。
日本の戦術に、そして日本のプレースタイルに、初めて「個の力」と「組織力」の融合が生まれるのではないか?そう思える大会がこのカタールW杯である。
【ユニフォーム】
ここで趣向を変えて、我々の戦いの象徴である、「代表ユニフォーム」の歴史も見てみよう。1998年から2022年の今日まで、サムライブルーの言葉どおり代表ユニフォームの基本色は「青」だ。ホームが青、アウェーが白、を基調とした組み合わせの中にアクセントとして日の丸の「赤」が入るデザインを多く取り入れてきた。サプライヤーは、1992年のPUMAを最後に、以降は現在までadidasが担っている。
ユニフォームについては個人的な趣味が大きく影響するだろう。人によっては「格好いい」と思うものも、ある人にとっては「???」となることだってあるかもしれない。ただ、ユニフォームは代表での活躍で印象度が変わる。強い代表のユニフォームは格好良く見えるものだし、良い思い出がない大会のユニフォームは、見返すと苦い思い出までもが蘇ってくる。
なので、ここは独断と偏見で、歴代ユニフォームから、ベスト3を筆者が選んでみた。みなさんと意見が合えば幸いだ。
『3位』1999~2000 モデル。モデル名「風」
2002年の自国W杯開催を前に、トルシェ率いる代表が武者修行で各国と対戦したモデル。襟付きユニフォームは少数派ながらも根強い人気を持つ。小野伸二、稲本潤一、遠藤保仁など、 “アジア最強”と謳われたワールドユース黄金時代の面々を、このユニフォームを見ると思い出す。
『2位』2010~2011 モデル。モデル名「革命の羽」
“世界を驚かす”“革命を起こせ”をコンセプトに掲げたモデル。南アフリカのベスト16、その後のザッケローニのアジアカップ優勝時の着用モデルで、現在の最高記録代表16連勝を成し遂げた「最強モデル」。
首元の「赤」に批判が集まったりもしたが、筆者的にはシンプルなデザインと赤のコントラストが好印象なモデルだ。
『1位』2017~2018 モデル。モデル名「勝色」
ロシアW杯着用モデルで、まだ記憶に残っている人も多いだろう。武将が戦いに赴くときの鎧下に着た藍色生地のイメージと、「刺し子」デザインが非常に印象的で、シンプルに力強くそしてカッコ良い。このモデル、戦績的には良い印象はないが最も日本らしさを感じさせるデザインで1位に選んだ。
【まとめ】
W杯のグループリーグは3試合しかない。なので、一試合一試合の結果が、勝つか負けるかが、天国と地獄の差を生む。しのぎを削る戦術と戦術のぶつかり合いが、1分・3分・5分毎に繰り返される。その醍醐味は戦術やプレースタイルを理解するとより大きくなっていくはずだ。そんな醍醐味を味わえる幸せを噛み締めながら、冷静に、そして熱く、血液が沸騰するモードで選手と一緒に戦おう。
photo:徳丸篤史 Atsushi Tokumar