11月20日に開幕するFIFAワールドカップカタール2022。イングランド、ウェールズ、イラン、アメリカが同居するグループBを展望する。

本命◎:イングランド
対抗◯:ウェールズ
3番手▲:イラン
蓮下△:アメリカ

本命はイングランドも盤石とは言えず

非常に予想が難しい組だ。「死の組」とまでは言わないが、どこが突破してもおかしくないし、本命イングランドも絶対的とは言うほど盤石ではない。欧州で行われているネーションズリーグではハンガリーに連敗するなど、リーグAからリーグBに降格してしまうなど、攻守両面に課題を抱えている。サウスゲート監督が採用している3-4-3はグランダーでパスを回しながら、相手のディフェンスとミスマッチを作りやすいが、リズムが崩れると相手に背後のスペースを狙われやすい。

イングランドにとって危険なのは初戦がイランであること。前回のFIFAワールドカップロシア2018でスペインを追い詰め、ポルトガルと引き分けたイランは粘り強いディフェンスから縦に鋭い攻撃を繰り出すことに長けている。しかも、大会の2カ月前になってロシアW杯まで8年間率いたケイロス監督が再任した。4-3-3の3トップはサルダル・アズムン(レバークーゼン)、アリレザ・ジャハンバフシュ(フェイエノールト)、そしてチャンピオンズリーグで得点量産中のメフディ・タレミ(ポルト)と大国から得点を奪うためのタレントは揃っている。

イランは9月のウルグアイ戦でタレミのゴールにより1-0の勝利を飾った。まさしくイングランド戦のシミュレーションになりそうな試合だった。イングランドはやはりエースでキャプテンのハリー・ケイン(トッテナム)が頼りになるが、彼の決定力をゴール前で生かすためにも、ラヒーム・スターリング(チェルシー)やフィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)が良い連係を築きながら、相手ディフェンスの脅威になっていく必要がある。もちろんエリック・ダイアー(トッテナム)がリベロを担う3バックの安定も鍵になる。

ウェールズはベイル、アメリカはプリシッチに注目

もうひとつのカードはウェールズとアメリカだが、チームの総合力では一概にウェールズが上とは言えない。ただ、ウェールズはエースのガレス・ベイル(ロサンゼルスFC)を3-4-2-1(守備時には5-4-1)の頂点として、堅守速攻のコンセプトがはっきりしている。一方のアメリカは4年後の自国開催(メキシコとカナダが共催)に向けた非常に若いチームで、後ろからビルドアップをベースにボールを動かしていく基本スタイルだ。ウェールズは欧州でアメリカに似たスタイルのハイレベルな相手と戦ってきており、タイトな守備から抜け目なく速攻を仕掛けやすいのではないか。

ただし、アメリカもエースでチームリーダーでもあるクリスチャン・プリシッチ(チェルシー)をはじめ、リベリアの英雄にして大統領のジョージ・ウェアを父に持つ快速FWティモシー・ウェア(リール)など、個人で違いを作れるタレントもおり、高い位置で何度も起点を作られると危険だ。大型リベロのジョー・ロドンを中心としたバックラインのディフェンスはもちろん、いかにプレッシャーをかけて、アメリカに自由に回させないことも重要になる。

アメリカも中盤の底に構えるタイラー・アダムズ(リール)など、守備の強度は高い。それだけにウェールズの速攻がポイントになるが、もしかしたらスコアレスの緊迫した展開の中で、千両役者であるベイルの直接FKなどがゴールこじ開ける最も有効な鍵かもしれない。2試合目のイングランドアメリカ、ウェールズイランの試合は初戦の結果で意味合いが大きく変わってくる。イングランドが順調にイランを破っていれば、波に乗ってアメリカを地力で上回れるかもしれない。しかし、初戦に躓いていれば、余計なプレッシャーで不安定になったところをアメリカに突かれてもおかしくない。

アメリカは総勢50人のスタッフで大会に臨むと伝えられており、分析体制も充実している。特に攻守のリスタートでは細かいところまで準備してくるはずなので、イングランドが圧倒する様な展開に持ち込めないと、罠にハマる危険がある。イランとウェールズは細かくスタイルは違うが、守備の強度を持ち味とするチームで、前線を効率良く生かすコンセプトも似ているだけに、お互い難しい試合になるだろう。80分過ぎて同点なら、お互い無理をせずに勝ち点1を分け合うことも想定に入ってくる。

さまざまな要因が絡む注目の第3節

3試合目はイギリス同胞であるイングランドとウェールズ、政治的に犬猿の仲であるアメリカとイランという因縁深いカードになるが、グループステージ突破がかかる試合でもあり、かなり激しい試合になることは間違いない。イングランドも悲願の優勝を果たすためには、できれば2試合でほぼ突破を決めて、ウェールズ戦はターンオーバーできていれば良いが、勝利が必要な場合は余計なプレッシャーがかかってくるかもしれない。

ラウンド16で当たるA組にはオランダがおり、2019年のネーションズリーグ準決勝で完敗したイングランドとしては、できれば当たりたくないだろう。しかし、次のことを考えている余裕が無いほど、混戦になってくる可能性が極めて高いグループだ。

文・河治良幸


写真:ロイター/アフロ