11月20日に開幕するFIFAワールドカップカタール2022。ドイツ、スペイン、日本、コスタリカが同居するグループEを展望する。
本命◎:ドイツ
対抗◯:スペイン
3番手▲:日本
蓮下△:コスタリカ
ドイツとスペインの二強も侮れない日本とコスタリカ
優勝候補にもあがるドイルとスペインの“二強”という見方は強く、日本が3番手、コスタリカはさらに離れた4番手という下馬評が大手ブックメーカーなどから見て取れる。こうした風潮が危険だというのは、ドイツやスペインの関係者がよくわかっているだろう。
日本に関してはドイツでプレーしている選手が多く、昨シーズンのヨーロッパリーグ優勝を果たしたフランクフルトのMF鎌田大地のことはよく知られている。そのほかヒザの負傷から回復中だが、王者バイエルン・ミュンヘン相手に獅子奮迅のディフェンスを見せたDF板倉滉(ボルシア・メンヒェングラードバッハ)、“デュエル”遠藤航(シュトゥットガルト)など。
スペインは久保建英(レアル・ソシエダ)がラ・リーガで活躍していることもあるが、やはりロンドン五輪での日本の勝利は、スペインのサッカー関係者の記憶にも強くあるだろう。昨年の東京五輪では日本に地の利があるとはいえ、準決勝でA代表6人を数えるスペインを延長戦まで追い詰めた。W杯での対戦はないが、3試合目に対戦することもあり、油断をする理由が見当たらない。
一方のコスタリカはFIFAワールドカップブラジル2014でイングランド、イタリア、ウルグアイが揃ったグループで“三強一弱”の下馬評を覆し、ケイロル・ナバス(パリ・サンジェルマン)を中心として粘り強いディフェンスと鋭いカウンターで、2勝1分で首位突破を果たす。さらにギリシャを破ってベスト8に進出した。そしてベスト4がかかったオランダ戦も、PK戦での敗退だったのだ。
イレギュラーなスケジュール。勝負のアヤが起こる可能性
それでも1試合目はドイツが日本、スペインはコスタリカと対戦する上で、第2戦の直接対決に向けて、初戦は少なからず“試運転”の様相も出てくるだろう。欧州の主要リーグが中断して、わずか1週間で開幕するイレギュラーなW杯のスケジュールは勝負のアヤが起こる可能性が少なからず潜んでいるのではないか。
コスタリカはナバスなど欧州組をのぞき、早めに集合して国内合宿を行い、11月10日に首都サン・ホセでナイジェリアとテストマッチを行う。そこから中東のイラクで欧州組と合流して、17日に同国と試合してからカタール入りするという。同じく17日にドバイでカナダと対戦する日本にも増して、コスタリカは良い状態でスペインに挑める公算になる。
スペインは優勝したFIFAワールドカップ南アフリカ2010でも初戦でスイスに敗れるなど、スロースタートの伝統もあるが、2018年からチームを率いるルイス・エンリケ監督(一時、家族の事情で辞任したが、のちに復任)が4年間見てきた選手たちを短い準備期間でいかにまとめて、初戦に入っていくか。スペインも18日にヨルダン戦を組んでおり、4-3-3をベースとしたポゼッションから引いた相手をいかに崩すかというテーマを少しでも共有して、コスタリカ戦に臨むはずだ。
コスタリカの注目は何と言ってもワールドクラスの守護神ナバスだが、192cmのフアン・バルガスとブラジルW杯のメンバーであるオスカル・ドゥアルテがセンターバックのコンビを組むディフェンスは強固であり、W杯出場を決めた大陸間プレーオフもニュージーランド相手に、エースのジョエル・キャンベル(クラブ・レオン)が開始3分にあげた先制点をそのまま守り切って、1-0の勝利だった。
4-4-2のタイトな守備ブロックから18歳の新鋭ジュイソン・ベネットなどが鋭く仕掛けて、短い攻撃時間で攻め切る。FIFAワールドカップドイツ2006でエクアドルをベスト16に導いたスアレス監督も、そうした“弱者の戦い”を心得ている。スペインはおそらくボールを握る時間が70%前後になる中で、セルヒオ・ブスケツ(バルセロナ)を中心に、ペドリ(バルセロナ)などがアクセントを付けて、いかにコスタリカの防御網を破れるか。
もしかしたらコスタリカはスペイン対策として、ブラジルW杯と同じ5バックにするかもしない。アルバロ・モラタ(アトレティコ・マドリー)などアタッカー陣のゴールはそう簡単ではないだろう。そうなると鍵を握るのはセットプレーだ。191cmのパウ・トーレス(ビジャレアル)なども攻撃参加できるシチュエーションは、最初のゴールをこじ開ける格好のチャンスだ。ただ、コスタリカはCKからのカウンターを得意としている。キャンベル、ベネットはもちろん、22歳のFWアントニー・コントレラスも俊足なので、スペイン側のカバーが生命線となる。
日本の突破の鍵を握るのは第二戦のコスタリカ戦
ドイツと日本はお互いに高い位置からボールを奪い、ショートカウンターを狙う戦いになることが想定されるが、総合的な強度ではやはりドイツに分がある。日本はそうした押し込まれている時間帯こそ裏側にチャンスがあるとも考えられるが、そうした戦い方をここまであまりやってきていない。基本は90分間の中でも比較的、高い位置を取れている時間帯に右の伊東純也(スタッド・ランス)や中央の鎌田大地(フランクフルト)を起点にディフェンスの間を突いていきたい。どうにか接戦で後半を迎えれば、三笘薫(ブライトン)など勝負のカードを切っていける。
第二戦は二強のドイツとスペイン、ダークホースの日本とコスタリカというわかりやすい構図になる。ただ、これも初戦の結果がどうなっているかで大きく状況が変わってくる。ひとつ踏まえたいのはドイツとスペインの相性だ。トータルの対戦成績はドイツの3勝3分4敗だが、W杯ではスペインが1勝1分で、2008年の欧州選手権予選でもスペインが勝利している。ドイツはハイプレスからのショートカウンター、スペインはポゼッションからのパスワークという戦いになるが、おそらく後半勝負になってくる中で、ドイツのハンス・ディーター・フリック監督とスペインのルイス・エンリケ監督が5枚の交代枠をどう使っていくかが鍵になる。
日本は初戦のドイツ戦と大きく変わるコスタリカ戦で、スタメンがどうなるかも注目される。森保一監督はドイツ戦で、普通の90分とは違う疲労負荷がかかることも想定している。11人と言わないまでも、コスタリカ戦を勝つためのスタメンはある程度、大会前から準備して臨むと考えられる。コスタリカのスアレス監督も日本戦を「勝ち点3を取るべき試合」と位置付けており、堅守速攻をベースとしながらもある程度、前に人をかけて点を取りにくるはず。ある意味、ベスト16をかけて3試合目に挑む権利を取る試合になる。
日本がスペイン、コスタリカがドイツに挑む3試合目は他のグループと同じく、現時点で読むのは非常に難しいが、少なくとも日本かコスタリカのどちらかは突破の可能性を残してのグループ最終戦となるだろう。もちろん、大混戦になっていれば面白いが、その意味でも初戦の結果が大きなウェイトを占める組だ。
文・河治良幸
写真:AP/アフロ
photo:徳丸篤史 Atsushi Tokumaru