11月20日に開幕するFIFAワールドカップカタール2022。ブラジル、スイス、セルビア、カメルーンが同居するグループGを展望する。

本命◎:ブラジル
対抗◯:スイス
3番手▲:セルビア
蓮下△:カメルーン

ブラジル、スイス、セルビア。まさかの2大会連続同組に

ブラジル、スイス、セルビアの3カ国は、前回のFIFAワールドカップロシア2014でMO同組だった。もうひとつはコスタリカだったが、結果はブラジルが勝ち点7で首位突破、スイスが勝ち点5で2位。セルビアは初戦でコスタリカに勝利したが、スイス、ブラジルに敗れて3位に終わった。3カ国ともチーム力はおそらく4年半前よりアップしている。その力関係もあるが、鍵を握るのは唯一いなかったカメルーンかもしれない。

優勝候補の大本命とされるブラジルが首位突破する可能性は高い。ただし、スイス、セルビア、カメルーンともにラウンド16以上の地力を持ったチームで、個性的なカラーもある。名将チッチ監督が率いるブラジルでも、ひとつ間違えると食われる危険がある。FIFAランキング15位のスイスを2番手としたが、23位のセルビア、43試合のカメルーンも大きな差はない。

FWアレクサンデル・ミトロヴィッチの劇的ゴールでポルトガルに勝利し、ストレートインでW杯出場を決めたセルビア。“ピクシー”ドラガン・ストイコヴィッチ監督が率いるチームはタレント集団でありながら、まとまりがある。中盤から攻撃を操る大型MFセルゲイ・ミリンコヴィッチ・サヴィッチ(ラツィオ)を起点に、2トップのデュシャン・ヴラホヴィッチ(ユヴェントス)とアレクサンデル・ミトロヴィッチ(フルアム)が迫力あるフィニッシュで相手ゴールを襲う。

4-4-2と3-5-2を使い分けるが、ブラジル相手には守備を意識した4-5-1で、中盤のフィルターを厚くしてくるかもしれない。ブラジルはスロースターターのイメージもあるが、前線の調子も関わってくる。エースのネイマール(パリ・サンジェルマン)と誰を組み合わせるかで、前線の形や配置も変わってくる。ネイマールを2トップの一角に置く基本ポジションに、左サイドや4-3-3のインサイドハーフもできるので、リシャルリソン(トッテナム)、ルーカス・パケタ(リヨン)、ハフィーニャ(バルセロナ)、ヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリード)など、綺羅星のごとアタッカー陣の組み合わせは多彩だ。

もちろんカゼミーロ(マンチェスター・ユナイテッド)を擁する中盤の強度も高く、4バックの中央にはマルキーニョス(パリ・サンジェルマン)とミリトン(レアル・マドリード)の双璧が、さらに守護神アリソン(リヴァプール)が牙城を築く。タレント力にハイレベルな組織力を加えたブラジルにセルビアが勝利するのを見出すのは難しいが、セットプレーの攻撃力ではセルビアが上回る。

ブラジルもディフェンシブな選手の平均身長は低くないが、リスタートの守備はボールウォッチャーになりやすいことが数少ない弱点だ。左利きのチャンスメイカーであるドゥシャン・タディッチ(アヤックス)の正確なキックに、長身2トップに加えて194cmのDFストラヒニャ・パヴロヴィッチ(ザルツブルク)や195cmのスルジャン・バビッチ(レッドスター)がジャンプヘッドで合わせたら、ブラジルのディフェンスも防ぎきれない。

安定感あるスイスは、アフリカの雄・カメルーンと初戦で激突

アフリカの雄カメルーンと対戦するスイスは欧州予選で安定した強さを見せて、イタリアが本命とされたC組を首位突破。結果的に欧州王者を予選敗退に追いやるきっかけになった。個のタレント力だけなら、セルビアより下回るかもしれない。しかし、伝統的なチームの一体感は過去の大会に増して強く、司令塔でチームリーダーのMFグラニト・ジャカ(アーセナル)を軸に、攻守のバランスは非常に高い。唯一の懸念材料だった前線も身体能力抜群のブレール・エンボロ(モナコ)が成長。9月に行われたネーションズリーグのスペイン戦で1-1から決勝ゴールを叩き込んで株を上げた。

普通に考えればムラト・ヤキン監督が率いるスイスがカメルーンを攻守両面で上回る。熟練したサイドアタッカーのジェルダン・シャキリ(シカゴ・ファイアー)などのクロスにエンボロが合わせる形などでリードを奪い、そのまま逃げ切る展開も予想できるが、“伝説のDF”リゴベール・ソング監督が率いるカメルーンも侮れない。ニコラ・ヌクル(アリス・テッサロニキ)を中心に統率が取れており、ゴール前には神反応を誇るGKアンドレ・オナナ(インテル・ミラノ)が構えている。

そして守勢からでもオナナのキックを起点に、左サイドの名手カール・トコ・エカンビ(リヨン)からのクロスに“ダブルエース”ヴァンサン・アブバカル(アル・ナスル)とマキシム中チュポ=モティング(バイエルン)が迫力あるフィニッシュで合わせれば、ブンデスリーガ屈指のビッグセーバーとして知られるスイス守護神ヤン・ゾマーからもゴールを破れるかもしれない。レジェンド監督対決としても話題を集めそうな対戦だが。両軍が誇るGKの競演はこのカードの重要ポイントだ。

ブラジルvsスイスは4年前の決着となるか?

2試合目はやはりブラジルとスイスの大一番が世界的にも注目されるだろう。前回も同組に入った両雄は1-1で引き分けており、ネイマールとジャカなど、現在の主力で試合に出ていた選手も多い。ブラジルがチャンスの数では大きく上回ったが、スイスが1失点でしのぎ、サイドアタックから少ないチャンスをMFシュテフェン・ツバー(AEKアテネ)が決めた。おそらく似た試合展開になるが、ブラジルもスイスも4年半前よりアタッカー陣が充実しているだけに、どう影響してくるか。セルビアとカメルーンは個性的なタレントが揃い、システム的にもミスマッチになる可能性が高く、全グループでも一番読めない試合のひとつだ。

3試合目はブラジルがすでに突破を決めていればわかりやすいが、セルビア、スイスと難敵が続く中でそう簡単にいかないかもしれない。そのブラジルに挑むカメルーンは一発の魅力を秘めており、やはり侮れない。スイスとセルビアは前回2-1でスイスが逆転勝利したが、かなりイーブンとなった内容だっただけに、今回もギリギリの勝負になるはず。ただ、やはり2試合目までの結果で、どういう状況にあるかでプランも変わってくる。大会全体の盛り上がりを考えればブラジルが順当に突破した方が良いかもしれないが、シビアな戦いになると予想できる。

文・河治良幸

写真:AP/アフロ