カタールW杯2022。日本代表がグループリーグ突破を狙う上で最も重要な初戦。その相手がドイツだ。W杯優勝4回。スイスW杯1954からブラジルW杯2014まで16大会連続(なんと60年間だ!)でW杯ベスト8以上、1982年から1990年まで3大会連続のW杯決勝戦進出という「代表での活躍」なんてセリフが陳腐に聞こえるほどに、とんでもない実績を誇る強豪中の強豪である。

このドイツ代表を表わす有名なセリフを紹介しよう。それはW杯得点王にもなったゲリー・リネカーのコメントだ。

「フットボールとは22人がボールを奪い合い、最後はドイツが勝つスポーツ」

「友達を失くすフットボール」「無慈悲な試合運び」「高性能な規律と合理性」「芸術性は皆無」そして「最後まで勝利を疑わない強い精神力(勝利者の哲学)」は、ゲルマン魂と呼ばれている。

今回はそんなドイツ代表のプレースタイルと戦術を、直近3大会(南アフリカ2010、ブラジル2014、ロシア2018)を中心に振り返っていこう。日本代表が戦うヒントが見えてくるかもしれない。

【ドイツ代表 カタールW杯2022メンバー】

GK
マヌエル・ノイアー(バイエルン)
マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン(バルセロナ)
ケビン・トラップ(フランクフルト)

DF
マティアス・ギンター(フライブルク)
ティロ・ケーラー(ウェストハム)
ダビド・ラウム(RBライプツィヒ)
アントニオ・リュディガー(レアル・マドリー)
二コ・シュロッターベック(ドルトムント)
ニクラス・ジューレ(ドルトムント)
アルメル・べラ=コチャプ(サウサンプトン)
クリスティアン・ギュンター(フライブルク)
ルーカス・クロスターマン(RBライプツィヒ)

MF/FW
レオン・ゴレツカ(バイエルン)
イルカイ・ギュンドアン(マンチェスター・C)
ジョシュア・キミッヒ(バイエルン)
カイ・ハヴァーツ(チェルシー)
ヨナス・ホフマン(ボルシアMG)
ジャマル・ムシアラ(バイエルン)
ユリアン・ブラント(ドルトムント)
セルジュ・ニャブリ(バイエルン)
トーマス・ミュラー(バイエルン)
レロイ・ザネ(バイエルン)
カリム・アデイェミ(ドルトムント)
ニクラス・フュルクルク(ブレーメン)
ユスファ・ムココ(ドルトムント)
マリオ・ゲッツェ(フランクフルト)

【フォーメーション】

「フォーメーション」と「システム」。よく使われる言葉だが、その違いを少し説明しておこう。フォーメーションとは基本的にはスタートピッチに立つ選手の配置であり、「これから行うゲーム」のゲームプランの意思表示のようなものである。そしてシステムとは、戦術に沿った選手の動き(パスの長さ、ドリブルの距離、プレスの激しさ)のことであり、どこでボールを奪うか?ビルドアップはどのように行うか?最終ラインをどうやって突破するか?といった、より具体的な意思を体現するプレースタイルを指す。
フォーメーションはシステムの原型であり、システムはフォーメーションからくる戦術の中核を表わす。そこは表裏一体のものだ。それではドイツ代表が過去にW杯大会本番で採ってきたフォーメーションを見ていこう。

■2010年 南アフリカW杯(2勝1敗 グループリーグ突破 ベスト4 準決勝でスペインに0-1で敗戦)監督:ヨアヒム・レーブ 「4-2-3-1」

長期政権となったレーブ監督の最初のW杯。グループルーグでは苦しんだが、決勝トーナメントに入るとイングランド、アルゼンチンから大量得点を奪う大勝の勢いでグングンと調子を上げていった。しかしユーロ2008決勝の再現となったスペインに準決勝で敗北。当時21歳だったトーマス・ミュラーは、この代表での活躍で一気にバイエルンミュンヘンでの主力の座を掴んだ。

■2014年 ブラジルW杯(2勝1分 グループリーグ突破 優勝)監督:ヨアヒム・レーブ 「4-1-4-1」(4-3-3)

この大会の準決勝、ブラジル戦の7-1での勝利は、いまだに「ミネイロンの惨劇」としてホスト国であったブラジル人の心に深い傷を負わせている。近年では最もドイツサッカーが、レーブの戦い方が輝いた瞬間だ。今も守護神として君臨しているGKノイアーが世界の一流選手の仲間入りを果たしたのもこの大会だ。

■2018年 ロシアW杯(1勝2敗 グループリーグ敗退)監督:ヨアヒム・レーブ「4-2-3-1」

半世紀を超えてグループリーグを突破し続けてきたドイツが一敗地に塗れたのがこのロシア大会。3戦目の韓国戦は、あと1点獲って引き分ければグループリーグ突破というラスト10分。怒涛の攻めで雨霰のようにシュートを浴びせたが、逆にカウンターで決定的な2点目を食らって万事休す。だが、あの10分間は最もドイツの底力と恐ろしさを見せつけた10分間だった。

【フォーマットの歴史】

この流れを受けて、カタールW杯の基本フォーマットを考えてみよう。

奇しくも、1998と2002に3バック(3-5-2)を敷いていた。日本代表とまったく同じ経緯をドイツ代表も辿っている。そして2010年のレーブ監督就任から4バックを採用し、現在までドイツは4バック主軸で組んでいる。

2022カタールW杯のドイツは、国内リーグ(ブンデスリーガ)で驚異の10連覇を成し遂げたバイエルン・ミュンヘンの主力を多用し、そのシステムをそのまま代表に持ち込むだろう。基本は「4-2-3-1」だ。

バイエルン・ミュンヘンでチャンピオンズリーグ無敗優勝を勝ち取ったハンジ・フリック監督が、代表監督就任後にそのやり方をドイツ代表に取り入れ、さらに優秀な選手を使って進化させているように見える。

それは非常に流動的で、ある時は3バックの状況となったり、4-3-3となったり、ゼロトップの4-2-4になったりする。連動が激しく、ボランチが最終バックラインに入ったり、左SBが前線のSHを追い抜いた高い位置に張ったり、トップ下がサイドに回ったりと、動くボールを追いかけていてちょっと目を離すと、一気に選手のポジションが変わってしまっている。

だからドイツ代表では、背番号とポジションが一致している選手は少ない。ミハエル・バラックやあの伝説のゴールゲッター、ゲルト・ミュラーが好んで着けた13番は、今やちょっとしたドイツ象徴の背番号で、ポジション的には(10)番の位置にいるトーマス・ミュラー。

逆に10番を背負っているのは、サイドのプレースタイルが特徴のセルジュ・ニャブリで、実はドイツのゲームを組み立てている実質的な「10番」の選手は、6番を背負っているヨシュア・キミッヒだ。

ではここで、あらためてドイツの戦い方を振り返ってみよう。

【システム(戦術)】

よく「サッカーの戦い方はその国のお国柄をよく現している」と言われるが、ドイツもまさにそんな感じだ。

「効率」と「合理性」。それに「規律」と「精密な連動」が加わり、無駄を省いた勝利のために必要なプレーを、ひたすら90分間継続して行う。一流のボールテクニックを備えた選手達が、派手さや芸術性を排除して、「勝つ」目的のために肉弾戦も厭わず、そして走り続けるのだ。そして常にこの戦いを支える「勝利への執念=ゲルマン魂」が加わる。強いはずだ。
具体的にはボールを保持するビルドアップ時では、GKの足元をしっかり使いながらポジションのズレと、スペースを創る動きで、一瞬のパスコースに綺麗な幾何学模様を描きながらボールを通す。特にダイレクトのワンタッチでダイナミックにボールが動いていく。縦への楔→落とし→楔→落としの連続で一気に前に運ぶ様は圧巻だ。

『ゲーゲンプレス』
ユルゲン・クロップ監督がドルトムントで披露し、リヴァプールで完成形に近づけた「ドイツ産プレス」は、当然この国の代表にもしっかりと採用されている。ゲーゲンプレスはハンジ・フリック監督の重要な戦術の一つだ。「相手DFがボールを持った時が最もチャンスである」という認識がチームに浸透している。

『非対称可変システム』
「4-2-3-1」はゲームの中でアッという間に姿を変える。4-3-3にもなるし、3-4-3にもなる。高い位置付けのサイドバックのプレーでの偏りを使った「非対称可変システム」は、独特の戦術となっていて、ボールを持ったときには、従来のポジションとプレースタイルから大きく離れたボールの動きがダイナミックで且つ精密で、相手ディフェンスはその動きと速度にかなり戸惑うことになるはずだ。

【ユニフォーム】

ここで趣向を変えて、ドイツの「代表ユニフォーム」の歴史も見てみよう。ドイツのユニフォームは(西ドイツ時代も含め)「白・黒・白」の組み合わせが基本だ。それにデザインとして「国旗」に配色されている黄色と赤がアクセントに入る。また90年代にかけてはこの3色を意識的に前面に押し出したデザインも多用された。

サプライヤーは、「エリマ」を使用していたときもあったが、1954年から現在までは、ドイツお膝元のadidas社が提供している。ドイツと言えば(バイエルン・ミュンヘンも)adidasというイメージは誰もが持っているはずだ。

ユニフォームについては個人的な趣味が大きく影響するだろう。人によっては「格好いい」と思うものも、ある人にとっては「???」となることだってあるかもしれない。ただ、ユニフォームは代表での活躍で印象度が変わる。強い代表のユニフォームは格好良く見えるものだ。また人によっては「タウン」に着られるファッション性も重視するかもしれない。

なので、ここは独断と偏見で、歴代ユニフォームから、ベスト3を筆者が選んでみた。みなさんと意見が合えば幸いだ。

3位:2008年ユーロモデル
90年代にかけて3色基調のユニフォームを使用して、この2008年のユーロ用がその最後のユニ。黒が多いので、それほど嫌らしさもなく、筆者的には好きなデザインだ。

2位:2020 ユーロモデル
あくまでシンプルさを基調としながらも、赤と黄色を袖口に配している。adidasの3本ラインも、珍しく「肩」にも「首元」にも入らず、強調し過ぎないぐらいのちょうど良さ。このままポロシャツにしてタウン着にも十分対応できそうなデザインだ。

1位:2022W杯 モデル
斬新なデザインだ。「黒」を真ん中に配した大胆なデザインは非常にドイツの剛健さと頑強さを表わしていて、ドイツっぽい。このユニフォームが10人いると単純に「強そうに見える」という印象だ。ゴールドモノクロームにしたエンブレムとアディダスロゴがまた格好いい。

【まとめ】
2018ロシア大会でグループリーグ敗退を余儀無くされたドイツは、この2022大会で捲土重来を狙ってくるだろう。1年半前に代表監督に就任したハンジ・フリック監督は、ドイツ代表をCL無敗制覇したバイエルン・ミュンヘン化させるべく、チーム戦術に磨きをかけて5度目の世界制覇を狙ってきている。ドイツ代表は、日本代表が最初に越えなければならない、とても強く、とても大きい壁になるだろう。
 

写真:AP/アフロ