FIFAワールドカップカタール2022初戦となるドイツ戦まで約2週間。日本代表は対戦国に先駆けて11日から決戦の地となるドーハでトレーニングを開始した。日中は35度超の猛暑と乾燥という中東特有の気候に慣れるべく、国内組7人が精力的に汗を流している。

 集団をけん引するのは、フィールド最年長となる36歳の長友佑都。ワールドカップ仕様の金髪ヘアをお披露目した大ベテランの横にピタリとくっついて、世界基準や帝王学を全身で吸収しようとしているのが、相馬勇紀だ。

「佑都さんから学ぶことはいろいろありますけど、プールでのコンディション作りや練習前のランニングとか、一つひとつ細かい。フィジカル的なところを一緒にやったりしています」と4度目出場の大先輩に追いつけ追い越せで目の色を変えている。

 相馬が闘争心をみなぎらせるのも、何としても世界の大舞台に立って、爪痕を残したいから。実際、7月のEAFF E-1選手権でMVP&得点王を手にするまで、彼にとってワールドカップは夢のまた夢だった。「自分は当落線上より下」と厳しい立場を承知のうえで限られたチャンスに掴み、カタールへの道を切り開いたのだ。泥臭く這い上がった“26番目の男”だけに、もっともっと高いところに上り詰めたいと願うのも、よく理解できる。

「森保(一監督)さんが自分を選んだのは、戦えるところを評価してくれたからかなと。それと局面打開。左サイドには(久保)建英や(三笘)薫のようにドリブルがうまい選手がいますけど、僕はまず裏を狙って背後へのランニングをすることが多い。そこは他の選手との違い。相手を切り裂けるのかなと思っています」と相馬は自信をのぞかせた。

 ピッチに立つとしたら、27日のコスタリカ戦、あるいは12月1日のスペイン戦が有力視される。ドイツ戦は久保や三笘が出場する確率が高いが、結果次第では違ったタイプの切り札が求められると目されるからだ。

 相馬ならば、本人が言うように裏への抜け出しも期待できるし、プレースキックや強烈なシュートという武器も持ち合わせている。コスタリカのように自陣に引いて強固な守備を徹底する相手だったら、セットプレーや外からのミドルの重要性が増す。パンチ力のある相馬は使い勝手のいいピースなのだ。

 スペインと対峙する場合も、2021年夏の東京五輪準決勝の貴重な経験を生かせる。あの試合の相馬は65分から出場し、延長まで戦い抜いた。試合の明暗を分けるギリギリの局面を肌で感じたことは本当に大きい。あの敗戦をムダにしてはいけないのだ。

「五輪でスペイン戦をやってみて、チームがまとまってボールを取りにいかないと簡単に外されることが分かった。あの時は結構、低いブロックを敷いていたので、ボールを取ってもなかなかカウンターを仕掛けられなかったけど、ブロックの位置をもう少し前にして全体としてボールを奪えたら、カウンターは効くと思います」

「とはいえ、最後は(マルコ・)アセンシオの個の左足一発でやられた。選手個人個人の武器は改めて警戒しなければいけない。そういったところを一つひとつやっていけば、勝てるんじゃないかと思います」

 相馬は目を輝かせながら、下剋上を誓った。

 正直言って、Jリーグで戦っている立場からワールドカップ優勝候補の強豪にどこまで通じるかは未知数と言うしかない。「僕が国内組で経験不足と言われてしまうのはしょうがない」と本人も素直に認めている。

 それでも、9月のエクアドル戦などを踏まえ、「瞬発力やフィジカルのところは負けないと思っている」と堂々と発言。ピッチに立ったら敵を驚かせるような切れ味鋭いパフォーマンスを遺憾なく発揮する構えだ。

「結局は点を取ったら一気に評価は変わる。肝心なのは、試合で何ができるかだと思います。結果で経験不足という見方を覆したい。本当に一発やってやろうという気持ちでいます」と野心を前面に押し出した。

 振り返ってみれば、12年前の長友も国内組の未知数な存在ながら、初参戦の2010年南アフリカ・ワールドカップでカメルーンのサミュエル・エトオ、オランダのエルイェロ・エリアらキーマンを続々と完封。エースキラーの名をほしいままにした。そこから一気に世界へと駆け上がり、4度のワールドカップ出場という偉業を果たすまでになったのだ。

 誰にでも最初の一歩はあるし、むしろ何も考えずに思い切りぶつかった方がプラスの方向に転ぶ可能性も少なくない。それは長友と同じ4度目出場の川島永嗣も語っていたこと。対戦国からそれほど研究されていない相馬には、何か大仕事をやってくれそうな予感が確かに漂うのだ。

「僕は国内から入っているので、他の選手に比べたら情報が少ないと思う。特に1つ目のプレーを大切にしたい。一気に畳みかけて得点を取るところは意識していきたいです」

 その狙い通りにカウンターパンチを食らわせるためにも、残り10日あまりの活動を充実したものにして、コンディションをベストに引き上げることが肝要だ。

 カタールでラッキーボーイとなり、長年の夢だった海外移籍の布石を打つ…。相馬にとって理想的なシナリオが現実になることを願ってやまない。

取材・文=元川悦子