「エクアドル代表のユニホームを着てプレーすべきではない選手を彼らは使った」

 チリのサッカー連盟(FFC)はカタール・ワールカップの南米予選終了後からそう訴えていた。

 問題の選手はバイロン・カスティージョ。メキシコのクラブ・レオンでプレーする24歳。右SBだが右サイドのすべてのポジションをカバーでき、南米予選では8試合でプレー、エクアドル代表のレギュラーだった。

 しかし、FFCは彼の生い立ちは全て偽物だと主張する。

 彼のエクアドルの身分証明書には1998年にプラヤス・サン・ロレンソで生まれたとあるが、実際は1995年にコロンビアのトゥマコで生まれ。また身分証の名前はバイロン・ダヴィデ・カスティージョ・セグラだが、本名はバイロン・ハビエル・カスティージョ・セグラ。あるエクアドルの実業家でクラブのオーナーでもあった人物が、エクアドルでプレーしやすくするためにバイロンに新しい身分を与えた。エクアドルのサッカー連盟は数年前カスティージョに聞き取りをしており、これらは彼らも知っていたことだ。

 そしてカスティージョが出場した南米予選はすべて無効だと主張した。仮に8試合がすべて敗戦となれば、チリにカタール行きのチャンスが回ってくる可能性が出てくるからだ。

 FFCは、最高の弁護士をそろえ、何か月にもわたって国際サッカー連盟(FIFA)にこの件を訴えてきた。しかしFIFAはこれを却下。納得できないFFCは、今度はスイスのCAS(スポーツ仲裁裁判所)に訴えたが、この11月8日正式に、「エクアドル政府がカスティージョに正式にパスポートを発行しているのなら問題ない」という答が出された。
 
 ただ、この判決の後ろには政治と大きな経済的理由が絡んでいる。

 エクアドルがもし失格となれば、別のチームがW杯に行くことになる。それがチリなのか、大陸間プレーオフまでに残っていたペルーなのかはわからないが、すでに売られてしまったチケットのチーム名を変え、新たなチームを出場させるのはFIFAとカタールの組織委員会にとってはとんでもない労力だ。

 それに、もしここでエクアドルの不出場を認めてしまったら、やはり出場停止を求められている2つのチーム、イラン(国内人権問題とロシアへの武器援助問題)とチュニジア(政治のサッカー介入)の件も見直さなくてはいけない。直前になって3つのチームを入れ替えるのは不可能だ。唯一の解決策は出場を認めることなのだ。

 しかも、エクアドルを罰するということは、予選の間、選手の身分詐称を見抜けなかったFIFAが過ちを犯したと認めることになる。
 おかしなことに、CASは身分証明書の申告に過ちがあったことに関しては、エクアドルに処罰は与える。2026年南米予選で3ポイントマイナスからのスタートと10万スイスフラン(約1500万円)の罰金。彼らはこの金でW杯行きの切符を買ったようなものだ。そしてまさにそのエクアドルが11月20日、カタールと共に開幕戦を飾るのだ。

 しかし、そこには当事者のバイロン・カスティージョはいない。これまでチームの主力だったにもかかわらず、彼はW杯の登録メンバー26人には選ばれなかった。その理由は「怪我」。イランとの親善試合で負傷したのだという。

 ただ、それが本当の理由なのかは疑問が残る。代表メンバーが決まる前に、在カタールのエクアドル大使がかなりは正直なことを言ってしまっている。

「残念だが、これ以上の問題を避けるためにカスティージョは外れるだろう」
 
 エクアドルはこれ以上のいざこざは避けたい。もしW杯で対戦するほかのチームも、カスティージョはプレーすべきでないと訴え出したら……。チリの弁護士たちも判決には納得できず、彼らは別な証拠も持っていて、これを見ればCASも考えを変えるだろうと言っている。

 また南米サッカー連盟(CONMEBOL)とFIFAの幹部からも内々にエクアドルに「アドバイス」があった。バイロン・カスティージョはカタールに連れて行かないほうが「望ましい」と。

 選手と連盟は罰せられるが、チームはW杯に出場する。どうにも不思議な裁定となってしまった。

文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。