【FIFA ワールドカップ カタール2022・グループB】イングランド6-2イラン(日本時間11月21日/ハリーファ国際スタジアム)

 カタール大会開幕前のイングランド代表は、評価のし辛いチームだった。クオリティの高い選手は揃っている。一方で戦術は守備的過ぎなど賛否両論だ。しかしスリーライオンズはその前評判を覆し、初戦では6発快勝をおさめた。この大量得点の鍵となるのは、サプライズ先発となったMFサカ(アーセナル)だった。

【映像】スタジアムが沸いたサカの圧巻ゴール

 この日のイングランド代表は通常利用することが多い3-4-3から4-2-3-1にシステムを変更。攻撃的な人選で試合に臨んだ。ワールドカップ初戦ゆえ、探り探りの部分もあっただろうが、スタメンに選ばれたイレブンはクラブチームでもパスサッカーを経験している若い選手が多い。グループステージの段階では、大きな問題なく攻撃が進行するかに思われた。

 しかし時間が経つにつれ違和感に気づき始める。右サイドのサカにボールが渡ると、味方選手のサポートが少ないのだ。たしかに右サイドでボールを持った際のイングランド人アタッカーは、体幹の強さとボールコントロールの上手さを見せつけて、カットインしていくプレーが得意だ。今季のプレミアリーグでは何度もドリブル突破で存在感を見せつけてきた。とはいえそれができたのは、サイドバックが背後を走り抜けるなどの味方のサポートを囮にしていた面もあった。

 この日のイングランド代表では、サイドバックのトリッピアー(ニューカッスル)やボランチのベリンガム(ドルトムント)がサポートのため近くに寄る場面もあった。ただ前線のケインやトップ下のマウントが、近づいてこない場面も多かった。結果、味方が1〜2枚足りずサカが孤立し、強引に仕掛けてファールをもらうことで孤立を脱する場面が目立ったのだ。

キーマンは冨安の同僚“サカ” 6発快勝のイングランド、W杯初戦から戦術的狙いを分析

■戦術的選択なのか選手のミスなのか

 この事象は果たしてわざとなのか。もちろんサカの突破力を期待してあえて孤立させるという選択肢もある。サイドのボールホルダー周辺に人数をかけない分、ボックス内に人を固めることができるからだ。結果、サイドの選手がドリブルで突破さえできれば、ボックス内で優位な状態を作ることができる。

 ケインは本来、こういうサイドで孤立する選手をサポートするプレーが得意だ。ただしイングランド代表では最前線に残ることが求められるため、ルールとして高い位置に残っていた印象がある。

 そうなると右サイドのサポートに行くべきはトップ下のマウントだ。しかしそもそもマウントはよく動き回る選手だが味方のサポートというより、ゴール前で自身が試合を決定づけるプレーをするほうが得意な選手。加えて左サイドでボールを持つことを好む傾向にある。

 こう考えるとサカの孤立は予めわかっていた事象に思える。それでもこの人員で臨んだということは、「それでもサカはボールを失わない」という、監督からの信頼があったのかもしれない。

 実際サカは、その監督からの期待に答えてこの試合2ゴールをゲット、マン・オブ・ザ・マッチにも輝いている。どこまで計算かはわからないが、監督の采配は結果的に当たったことになる。

キーマンは冨安の同僚“サカ” 6発快勝のイングランド、W杯初戦から戦術的狙いを分析

■サウスゲート監督の采配はいかに?
 
とはいえ今後の大会でサカにも手が負えない展開は出てくるだろう。さらに激しい密着マークがついたり、複数のDFに潰される場合もある。ただその場合はマウントを外して、パスワークのサポートと展開を得意とするマディソンをトップ下に配置するなどの選択ができると監督としてはベストだが、サウスゲート監督はどこまで練習などで準備できているのか。

 イングランドには素晴らしい才能を持った逸材たちが数多く在籍するが、一癖も二癖もある選手たちが多い。彼らの武器をどう活かすかは監督次第である。今後の采配にも注目だ。

文・内藤秀明

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