サッカー日本代表は現地時間23日、FIFAワールドカップカタール・グループE第1節でドイツ代表と対戦し、2-1で勝利した。日本代表は後半途中まで苦戦を強いられながら、試合終盤に逆転した。その中でも、三笘薫の働きは大きい。同点ゴールに直結した動きには、三笘の意図が込められていた。(取材・文:元川悦子【カタール】)
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●跳ね返すのが精一杯だったサッカー日本代表
2011年のAFCアジアカップ決勝・オーストラリア代表戦で李忠成が劇的決勝弾を決めたハリファ・インターナショナル・スタジアムで、23日に行われた2022年カタールワールドカップ(W杯)初戦・ドイツ代表戦。日本代表にとってゲンのいい場所での一戦だけに、ミラクル再現の期待が大いに高まった。スタンドの熱気も最高潮に包まれ、森保一監督と選手たちのモチベーションもかつてないほど高まった。
そんな彼らは奇襲攻撃を仕掛け、前田大然の一刺しが開始早々に決まったかと思われたが、オフサイド判定で幻に。そこからは逆にドイツ代表に押し込まれ、ブロックを作って跳ね返すのが精一杯の状況に陥ってしまう。
それでも、何とか耐え続けていたが、31分に権田修一がダヴィド・ラウムをひっかけてPKを献上。これをイルカイ・ギュンドアンに決められ、早くも1点をリードされてしまう。
前半はその他にも危機一髪のピンチが続出したが、終了間際のカイ・ハフェルツの2点目がオフサイドで取り消されるなど、何とか運を味方につけて、しのいでいる印象が強かった。
迎えた後半。森保一監督は意外な策に打って出る。後半頭から久保建英に代えて冨安健洋を投入。3-4-2-1へと布陣変更し、攻めの姿勢を鮮明にしたのだ。
●「ぶっつけ本番のところは正直ありました」
「トミが入って3枚に並べることで強さが出ますし、横で壁を作れる。その分、ウイングバックが攻撃的な選手でも行けるのは分かっていましたけど、僕たち自身はここで3バックをやるとは思っていなかった。監督は可能性を示唆していたけど、ぶっつけ本番のところは正直ありましたし、(後半の)最初から3バックで行ったこともなかったので。決断した監督は本当に素晴らしい」と三笘は神妙な面持ちで語っている。ここ一番で勝負に出るという森保采配が選手たちに強いメッセージを与えたのは間違いない。
そして後半12分。満を持して三笘が長友佑都と代わって登場すると、場の空気が一変する。16分には彼がドリブルで中央から攻め上がり、浅野拓磨の決定機を演出。これは惜しくも枠を越えて行ったが、いきなりビックチャンスをお膳立てし、存在感を示した。
「まずは失点しないことが大事なので、中を締めながらボールを持ったらカウンターで出ていくことを意識していました。高い位置を取ることで相手を引き付け、後ろのスペースを作ろうと思っていたので。そして自分たちの流れに持っていくことを考えました」
左の切り札は守備第一を頭に入れつつ、攻守のバランスを取りながら、ドイツの弱点である背後を虎視眈々と狙い続けた。
この積極的なトライが、後半30分の堂安律の同点弾につながる。
●「戦術・三笘? いや、日本だけだと思いますよ。そう言ってるのは」
冨安から縦パスを受けた三笘は、ゆっくりと加速しながらペナルティエリア付近まで侵入。ニクラス・ズーレが寄せてきて、さらに中にいたレオン・ゴレツカもカバーに来た瞬間を見逃さず、彼らの背後に絶妙のパスを送った。そこに南野拓実が反応。角度のないところからシュートを放った。次の瞬間、名手のマヌエル・ノイアーが弾くと、飛び込んだのが堂安。背番号21は左足を振り抜いて豪快にネットを揺らし、試合を振り出しに戻したのだ。
「最初のズーレ選手の対応を見て、縦を警戒するのは分かっていた。次も縦を切ってましたし、中に食いついてくる瞬間にギャップができたので。そこを拓実君が素晴らしい動きをしてくれた。その後は僕の力ではないですし、拓実君のシュートの可能性を信じて律も入りましたし、チームとしての結果だと思います」
三笘はあくまで黒子に徹した結果だと強調する。にもかかわらず、得点に直結するプレーを見せてしまうから「戦術・三笘」と評されるのだ。
「戦術・三笘? いや、日本だけだと思いますよ。そう言ってるのは」と本人は軽く流したが、ブライトンで先発出場の機会を増やし、確固たる自信を身に着けたことが、余裕あるプレーにつながったのだろう。
この8分後に浅野拓磨の値千金の逆転弾が生まれ、日本代表はついに1点をリード。終盤は相手の猛攻を受けたが、三笘は決して動じることはなかった。守備面では対面がヨナス・ホフマンに代わったため、昨季1シーズン在籍したウニオン・サンジロワーズ時代の経験を踏まえ、前向きの守備とボール奪取という2つのポイントを心掛けたようだ。
攻撃面も縦に急ぎ過ぎず、あえてボールを持ってボールキープを選択し、時間を作ることも忘れなかった。彼のところで落ち着きどころができるとチーム全体が一呼吸できる。体力消耗の終盤にこういった頭脳的なプレーを入れられる選手は本当にありがたい限り。それも含め、三笘がもたらす安心感は大きかった。
●「次の試合で勝つか負けるかでガラッと変わってしまう」
今回の彼は体調不良で出遅れ、17日のドーハ入りから調整期間はわずか5日しかなかった。本人も「100%に戻しきれていない」と本音を吐露する。が、ピッチに立った40分程度は攻守両面で高い強度を維持し続けることができた。その一挙手一投足は今後に向けて非常にポジティブな要素。27日のコスタリカ代表戦はスタメン抜擢もあり得るだけに、自身の状態をより引き上げていくことが肝要だ。
「次の試合で勝つか負けるかでガラッと変わってしまう。この流れをうまく持っていけたら3戦目も余裕が出てくる。そこでチームも休めるし、ベスト16にもつながってくる。それだけこの1試合は意味があると思います。
0-1から入って逆転したところはチームとして100点満点だったけど、個人としてはもっとコンディションを上げないといけない。途中でもスタメンでも、どちらもやることは変えないといけないですけど、しっかりと合わせていきたいです」と本人はまだまだ高い領域を貪欲に追い求める覚悟だ。
いずれにしても、ドイツ代表のような最高峰の相手に対しても「戦術・三笘」が通用したことはプラス要素以外の何物でもない。もともとメンタル面や体力面に課題のあったドリブラーが、世界トップ相手に堂々と渡り合えることを実証したこの一戦は非常に大きな意味がある。この調子で劇的な成長曲線を辿り、日本代表を8強へと導いてほしいものである。
(取材・文:元川悦子【カタール】)
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