【識者コラム】W杯を楽しむには十分な環境 2人の日本人ファンを直撃

 カタール・ワールドカップ(W杯)でファンの宿泊施設として用意された「ファン・ビレッジ」はどういう環境なのか。実態を知るべく、宿泊しているサポーターに話を訊いた。

 松崎重樹さん(31歳)と杉中俊太郎さん(27歳)はフットサル仲間。松崎さんは海外には20か国以上行っているがサッカー目的での渡航はなく、杉中さんは海外旅行そのものが初めてだった。11月20日の開幕戦当日の朝に到着し、27日にチェックアウトして日本vsコスタリカを観戦したあと、帰国する予定になっている。

 2人が泊まる「ファン・ビレッジ」は地下鉄「フリー・ゾーン」駅から徒歩10分程度のところにあり、駅から見えていてすぐ場所が分かる。中にベッドが2つとトイレ、シャワー、冷房、小型冷蔵庫、電気ケトルなどが設置されているコンテナが宿泊所だ。

 そのコンテナ群は190以上、部屋数は7500以上で、食堂、屋台、寝そべってパブリックビューイングができる場所が2か所、スーパー、リクレーション施設などがある。

「正直かなりハードルを下げて(ドーハに)来たので、そこからすると広さで設備的にも十分です。外に行ったら食べるところもあるし、スーパーもあるので食糧に問題はないので個人的に不便はないです」(松崎さん)

「寝られればいいという感覚だったので、不便は感じていません」(杉中さん)

 自炊はできないが、「スーパーのパンが充実していて、サンドイッチが600〜800円ぐらい」(杉中さん)で、外の屋台だと1食1000円ぐらい。水は1日2本配られる予定になっていたが、部屋に1人だけでいた時に1本しか渡されなかったこともあったそうだ。

 部屋に付いている空調は「部屋が狭いのでこれだけでもLOWでも十分効きます」(杉中さん)。ベッドは「家のベッドよりいい」(松崎さん)「固めだけれど問題はない」(杉中さん)「お湯も問題ない」(松崎さん)と、話を聞いている限りでは設備面に問題はなさそうだった。

「個人的はサッカーW杯を楽しむという意味では十分。寝られればいい、試合をたくさん見られればいいということからすると、移動も便利だし、チケットを持っていない試合はパブリックビューイングでゴロゴロしながら見られるので、試合を見る、サッカーを楽しむ環境としては素晴らしいんじゃないかと思います」(松崎さん)

「空調が壊れているとか、お湯が出ないなどの設備の不具合はほとんどない。私も不満はなくて、住居以外の環境もW杯のお祭り感がすごく感じられるので割と満足しています」(杉中さん)

中東をゆとりを持って旅する場合にはマッチせず

 2人の満足感は高そうだったが、この宿を選ぶ時に考慮すべき点はあるだろう。

 W杯を楽しむためだけに来た人には必要十分な設備が揃っているように見える。だが、せっかく中東に来たのだからとか、ゆとりを持った旅を楽しみたいと思う層にはマッチしない。

 そんな人には同じ公式業者の別のアパートメント系の施設のほうがいいだろう。実際、同じような値段でゆったりとした2LDKを借りることができる。ただし、アクセスはファン・ビレッジのほうがいいし、外食のためには歩き回らなければならない。同一の値段なら、サッカーのための利便と部屋のゆとりはトレードオフの関係になっている。

 また、ファン・ビレッジの半額以下の値段で手配できる宿もある。ただし、最寄り駅までは25分ほどバスに乗らなければならない。ただし、そのバスは24時間、地下鉄と宿泊施設をひっきりなしに往復していて、時間がかかることを除けばベッドとシャワー、トイレのある部屋に泊まることができる。

 この大会の特長は非常に狭い範囲で大会が開催されていること。行こうと思えば1日に2試合が可能だ。松崎さんは11試合、杉中さんは9試合に行く予定だという。それだけサッカーに浸ろうと思うなら、交通の便がよく、施設内で食事ができたり、食料の買い出しができるファン・ビレッジは悪い選択ではなさそうだ。(森雅史 / Masafumi Mori)