●サッカー日本代表にとって最悪の70分
サッカー日本代表は23日、FIFAワールドカップカタール・グループE第1節でドイツ代表と対戦し、2-1で勝利を収めた。歴史的な逆転勝利に沸いたが、悲惨な戦いだった70分間にはこれまで日本代表が抱え続けてきた問題が凝縮されている。このままでは、グループリーグ敗退の危機に陥る可能性すらある問題だ。
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日本代表は途中出場の堂安律と浅野拓磨のゴールにより、ドイツ代表から歴史的な勝利を収めた。試合終盤の見事な攻勢は素晴らしかったが、そこまでの時間帯については反省すべき点がある。70分までの戦いは「最低」「最悪」と呼ばざるを得ないほど悲惨な戦いぶりだった。
ドイツ代表は試合を通じて26本のシュートを放った。試合の大半でボールを保持し、日本代表陣内でプレーしている。日本代表は成す術なくゴール前まで侵入を許していたが、シュートの局面でなんとか身体を張り、ピンチを凌いでいた。
問題は「なぜこれほどまで押し込まれた」かである。試合開始直後と開始10分の4バックの位置を見れば明らかだ。キックオフ直後、ドイツ代表の最終ラインがボールを持った場面で、吉田麻也と板倉滉のどちらかは常にセンターサークル内にいた。つまり、ディフェンスラインはハーフウェイからおよそ10m。最前線の前田大然と最終ラインの距離はざっと30mで、コンパクトな距離感だった。
それを見たドイツ代表は日本代表の2トップの脇を起点に攻撃を組み立てようとした。CF(トップ下)とサイドハーフの間でパスを受け、ゾーンの間、間でパスを繋いでいく。トーマス・ミュラーがサイドに開いてボランチの田中碧をつり出し、遠藤航をサポートするために伊東純也が下がらざるを得なくなる。
●吉田麻也の足は止まっていた
日本代表の守備はずるずる下がり、6-2-2のような形になっていた。8分に日本代表はショートカウンターから前田大然がゴールネットを揺らしたが、オフサイドでゴールが認められず。
この直後のディフェンスラインはペナルティーアークの前方から3~5mほどまで下がっていた。中盤がスカスカなので、押し込まれた際は1トップの前田が降りてスペースを埋めなければいけない。ディフェンスラインが下がれば全体は間延びしてプレスがかからなくなり、ショートカウンターが成立するシーンも減っていった。
ドイツ代表はウイングか左サイドバックのダヴィド・ラウムが高い位置のタッチライン際まで開いていたが、ディフェンスラインの裏を取るような動きはそこまで多くなかった。1トップのカイ・ハフェルツとミュラーもライン間を浮遊しているので、裏へのケアは比較的容易なはずだった。
しかし、ボールが前に出ると日本代表のディフェンダー(特に吉田麻也)は易々と下がってしまう。そしてラインを上げられるタイミングがあるにもかかわらず、センターバックの足は止まっている。
これではラインコントロールとは呼べない。ラインがズルズル下がれば、ボランチがカバーする範囲が広くなり、サイドハーフもサイドバックをサポートすべく下がらざるを得ない。押し込まれればカウンターも機能しない。PKを与えたシーンもズルズルと下がったディフェンスラインが引き起こしたものと考えられる。
●それでも後半に持ち直した理由
日本代表はハーフタイムに交代カードを切り、最終ラインを5枚に替えた。5バックになったことで、センターバックがラインを捨てて前で潰せるようになった。これに呼応するようにラインを上げられればコンパクトな陣形を作り出せるのだが、そうできないのが日本代表。ウイングバックが高い位置でひっかけてもディフェンスラインは上げない。そうするとスペースがあるのでボランチのサポートも遅れ、奪いきれずに守備の時間が続く。
転機になったのは交代策だった。三笘薫が左ウイングバックに入り、伊東純也が右ウイングバックにポジションを下げた。このあたりから冨安健洋や板倉が前で潰すシーンが「さらに」増えてくる。すると、三笘と伊東は高い位置で堂安と南野、浅野拓磨に関われる。ボランチに下がった鎌田大地も前を向いて彼らを見ることができた。
こうして前向きに守備できるようになったFWとMFに引っ張られるように、吉田麻也を中心とするディフェンスラインは高い位置を取れるようになった。それでもラインコントロールとは呼べないような受動的な上げ下げは続くのだが、ドイツ代表の拙攻もありそれが致命傷になることはなかった。
ドイツ代表の攻撃がまったく機能していないこともあり、最小限の失点に抑えられた。そして、布陣変更と交代策により状況が好転し、日本代表が素晴らしい逆転勝利を収めたのもまた事実。ただ、その一方で日本代表が最低の70分を過ごしていたという現実を忘れてはならない。
●久保建英は言った
少なくとも、このような消極的な守備の仕方で、スペイン代表に対抗できるとは思えない。人を替えるのか、それとも現代的なプレッシングを浸透させるのか。何もしなければドイツワールドカップのブラジル代表戦のように、ブラジルワールドカップのコロンビア代表戦のように、サンドバックのようにやられてしまうだろう。
ハーフタイムでの修正が遅すぎるという見方もある一方で、前半途中に修正してしまうとハーフタイムに相手に修正されてしまうという考え方もある。
サッカーはレベルが高ければ高いほど修正が早いわけで、数字の羅列では表せないような細かい修正をいたちごっこのように繰り返していく。日本代表がベスト8に入りたいのであれば、前半のうちに、最初の10分で修正しなければならないが、それを先導するのが誰かは外側からは分からない。
勝利の喜びに水を差すつもりはないが、ドイツ代表戦から既に1日半が経過しようとしている。目線は先に向けるべきだろう。
「次の試合だけにみんなでフォーカスして、今日だけはひとまず喜びたい」
久保建英は試合後、こう語っていた。まずは勝利を喜び、次の試合に備える。コスタリカ代表戦のキックオフは刻一刻と迫っている。