[カタール・ワールドカップ・グループステージ第1戦]日本 2-1 ドイツ/11月23日/ハリファ・インターナショナル・スタジアム

 カタール・ワールドカップのグループステージ初戦で、日本はドイツに2-1で逆転勝利を収めました。

 前半は、なかなかドイツの選手を捕まえきれず、日本の右サイドで、相手のダビド・ラウム選手とジャマル・ムシアラ選手に自由を与えてしまいました。

 中盤でも遠藤航選手と田中碧選手の背中に常に相手がいて、なかなか前にも行けなかった。ボールを奪う場所が定まらなかったため、ビルドアップがほぼできない状態で、GKの権田修一選手がロングボールを選択することが多くなってしまいました。前半だけでは前向きなコメントが難しい展開でした。

 しかし、後半は冨安健洋選手を投入して3バックにチェンジしたことで、ドイツが窮屈にプレーをしている印象を受けました。相手のディフェンスラインでのボール回しでも困っているように感じました。

 後半頭のワンプレーで、トーマス・ミュラー選手が抜け出して個の力を見せましたが、それ以外の場面では、個々で対処できていて、日本の選手たちに迷いがなくなったようでした。

 前半のような戦いを終えて、選手たちも後半どうするのか? と疑問を持ってロッカールームに戻ったはずです。このままではまずい状況で、監督が3バックに変える決断をして、選手たちも納得できたことが、後半に迷いなく戦えた大きな要因でしょう。

 なぜ、迷いが出るとダメなのか? 選手たちはプレーしながら、状況ごとに判断はしています。ただ、判断する材料が多すぎると、いろんなところでミスが出てくる。例えば中盤では、前のヨシュア・キンミッヒ選手やイルカイ・ギュンドアン選手のところにアプローチに行きたいけれど、背中にはミュラー選手やムシアラ選手がいて、どうしようかと背中を気にしながらプレーすると、効果的なプレッシャーは与えられません。
 
 さらにこの試合の前半では、スペースを上手く使われて、次々とバイタルエリアに入って来られたことで、今度はサイドも空いてきてしまいました。相手の攻撃の距離感も良く、ペナルティエリア幅で攻撃をされていたので、クロス対応に待ち受けているだけでは、ゴールに直結するプレーをされてしまう。中と外の使い分けをずっと相手にやられていたことで、守る側が厳しい判断を強いられる状況になっていました。

 しかし、後半のシステムチェンジで自分たちがまず「どこに」「誰が」付くのかがハッキリしたので、高い位置からプレッシャーがかかるようになりました。

 そのため、個々の能力が高い相手のディフェンスラインでもGKのマヌエル・ノイアー選手に大きく蹴らせたボールを奪えるようになり、日本が前半、ドイツにやらされていたことを自分たちもできるようになった。

 3バック自体の効果よりも、日本の狙いや、前から行く気持ちがこの試合にすごくマッチしたということでしょう。

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 システム変更よりも、森保一監督が先手を打てたのが大きかったと思います。57分に、三笘薫選手と浅野拓磨選手を送り出すと、さらに日本のチャンスが増えました。選手交代にもメッセージ性を感じ、この戦い方で行くとハッキリと伝わりました。

 左ウイングバックの三笘選手は、プレミアリーグであれだけの強度のなかでプレーしているので、守備でも不安なくやれた。ドイツ相手にウイングバックでもプレーできたのは、今後のワールドカップの戦いを考えると大きなメリットだったと思います。長い距離を持ち上れるのも、日本の大きな武器になりそうです。

 また、右サイドでは、前半は高い位置を取れていたラウム選手を下げさせることができ、酒井宏樹選手をはじめとした積極的な守備が日本の勢いをもたらしました。

 中盤では遠藤選手の存在感が際立っていたと思います。プレーでも、前向きに守備ができるようになって、攻撃でも守備でも日本の中心になっていました。

 ほんのわずかな立ち位置を変えただけかもしれませんが、その少しの違いが選手たちの力を引き出せます。やはりドイツの選手たちは上手さを感じましたが、選手個々のデュエルやアジリティ、スピードでは日本も決して負けておらず、むしろ勝っている部分も多かったはずです。

 さらに、選手交代のタイミングと前後して、ドイツの運動量が落ち始めたのも日本にとっては好機でした。自分たちが志向することに、システムがマッチした。こちらの狙いと相手の問題点が上手くリンクし、それが結果には大きく影響したと思います。いろんなところで上手くかみ合ったのでしょう。

 そういう勝負の機微もありますが、初戦で苦しい状況から勝点3を奪った結果は大きな自信になりますし、それがドイツ相手だったのは、さらに大きな手応えを感じるでしょう。
 

 僕の経験でも、2002年の日韓大会で、初戦のベルギー戦を引き分けたことで、その後のグループステージ突破への足掛かりを得ました。今回は0-1からの逆転で、それ以上の勢いをもたらしてくれそうです。

 今後に向けては不安材料もなくはないでしょう。負傷明けの選手も多く、多くの選手がフル出場するのは現実的ではないかもしれません。

 ただ、初戦の勝利で周囲からの後押しも得られ、メンタル面での回復も良くなり、疲労度も軽減されるはずです。

 また、試合中からも日本の選手のまとまりがハッキリと見えました。出場していなかった選手たちが「今度は俺の番だ」と思っているようにも感じます。誰が出ても活躍できる、そんな森保監督が言う“総力戦”で今後の戦いを勝ち抜いて欲しいですね。

【著者プロフィール】
市川大祐(いちかわ・だいすけ)/1980年5月14日、静岡県出身。現役時代は日本代表の右サイドバックとして活躍したクロスの名手。1998年に17歳でA代表デビューすると、2002年の日韓W杯でも活躍。アカデミー時代から過ごした清水ではクラブ歴代3位となる325試合に出場した。2016年に現役引退後は指導者の道に進み、現在は清水エスパルスジュニアユース三島U-13監督として活躍中。さらに、ワールドカップ期間中は、日本戦をニコ生で徹底分析! アナリストとともに戦術・フォーメーションなどにフォーカスにした解説放送を行なう。