アルゼンチンを下したサウジアラビアに続き、日本がカタール・ワールドカップで歴史的な勝利。ドイツにPKで先制される苦しい展開ながらも後半の2ゴールで大逆転した彼らの戦いぶりは、戦術云々だけで語れるものでは決してない。

 むしろ戦術的に語るなら、前半は破綻しかけていた。引き気味のライン設定でドイツの攻撃をモロに受けた日本は防戦一方。前田のゴールがオフサイドになったシーン以外にチャンスらしいチャンスはなく、4-2-3-1システムでのプレスの掛かり具合もいまひとつという体たらくで、まるで勝機を見出せなかったのだ。PKでの被弾だけで前半を終えることができたのは大袈裟ではなく、奇跡と言ってよかった。

 正直、4バックから3バックに変更した後半の試合運びも途中までは巧みではなかった。46分にミュラーのチャンスメイクからニャブリに強烈なシュートを打たれ、51分にはムシアラのドリブル突破からの一撃を浴びる。さらには60分にギュンドアンのミドル、70分には波状攻撃を食らうなどピンチの連続で、いつ2点目を奪われても不思議ではなかった。要するに、相手のミスに助けられたというのが率直な感想だったのである。
 

 しかし、そうしたミスで流れが変わるのもサッカーだ。実際、仕留め切れないドイツの動きが徐々に鈍り、ビルドアップの局面でのミスが増えると、日本は途中出場の三笘を生かした攻撃で決定機を作り出していった。そして、73分の伊東のボレーはGKノイアーのファインセーブに阻まれたものの、続く75分には三笘、南野の連係から最後は堂安が押し込むゴールで同点に追いつくのである。

 実は同点弾が決まる前のシーン、右サイドで伊東が遠藤に落とし、そこから鎌田、吉田、冨安、三笘とボールを繋げる場面での日本はピッチ上に「複数のトライアングル」を形成しており、ドイツの守備を無力化している。言い換えるなら、ここは日本の組織がドイツのそれを上回ったポイントでもあり、その証拠にそこから堂安が決めるまでの日本の動きにドイツはまるでついていけていない。ある意味、あの同点弾は必然の流れから生まれたゴールとも言えたのだ。

 こうなると、焦るのはドイツである。負けるはずのない日本に追いつかれ、体力的にも心理的に追い込まれると、プレーが慎重になるどころか鈍くなった。浅野にあっさりとゴールを決められたシュロッターベックの拙いディフェンスは、混乱ドイツの象徴だったと言える。

 そもそもドイツの弱点は両サイドバックと言われており、そこを突く意味で三笘と伊東をウイングバックに置いた森保監督の采配は正しい。途中出場の南野、浅野がいずれも得点に絡んだ点も含め、この日の采配はズバリ的中したと断言できるだろう。その前提として、やはり0−1のまま試合を引っ張れたのは大きい。

 どんな内容だろうが、1点差なら何が起きても不思議はない。劣勢でも流れを掴んで勝利を掴む。「これぞサッカー」という試合をやってのけたのが、ドイツ戦の日本だった。

構成●白鳥和洋(サッカーダイジェストTV編集長)

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