スペイン代表にこれほどの若さを感じたのはいつ以来のことだろう。7−0と大勝したコスタリカ戦で躍動した選手のリストを見てあらためて考えた。
ルイス・エンリケが招集し、最初の試合でピッチに送り込んだ選手には、フル代表だけでなくパリ五輪でプレーできる若手たちも多い。コスタリカ戦、アウトサイドできれいに合わせ得点を決めた18歳のガビにはじまり、左サイドバックのアレハンドロ・バルデは19歳。ペドリとニコ・ウィリアムス、アンス・ファティ、ジェレミ・ピノが20歳で、21歳のエリック・ガルシアもいる。バレンシアでのデビューが早かっただけに中堅の感すらあるフェラン・トーレスですら、まだ22歳だ。
「ペレがいた。ロサスがいた。そしてガビがやってきた」(スペイン最大のスポーツ新聞『マルカ』紙)
コスタリカ戦でゴールを決めたガビは、ワールドカップ史上3番目に若い得点者となった。マン・オブ・ザ・マッチにも選ばれたガビは、この年齢ですでにスペイン代表キャップ数は14試合にのぼる。コスタリカ戦を含め3点を決めており、得点率はバルサでの数字を大きく上回る。4−3−3のインサイドハーフでありながら、ゴール前の最後の仕事までしっかりとこなす。
歴代スペイン代表との違いとは?
これらの選手が軸になったルイス・エンリケのスペインはドイツ戦にどう挑むのか。
近年の主要大会でのスペイン代表には欠けていた、この若さがもたらす躍動感と、ある意味で物怖じしないメンタルは鍵のひとつとなる。
歴代の代表チームと比較しても、特に前線の運動量と献身性は顕著だ。基本的には4−3−3をベースにしている中で、フェラン・トーレス、ダニ・オルモ、マルコ・アセンシオの3枚は高い位置から連続的にプレスをかける。この強度での前線からの組織的守備は、ワールドカップを制した2010年のチームにも、それ前後のユーロ覇者となったチームにもなかったものだ。イニエスタやビジャら、当時は別のスタイルの選手が配されていたこともあるが(この類の選手はペドロくらいだった)、この点はルイス・エンリケの要求だろう。
若く走れる選手を置くという指揮官の嗜好は如実にあらわれている。スペインは、センスだけなら国内でも有数のFWイアゴ・アスパスと、ポストプレーに長けた好調のボルハ・イグレシアスも外した。センターフォワードはアルバロ・モラタだけ。マルコ・アセンシオを9番のポジションに配するなど、独自の選抜と起用を続けている。
ドイツ戦でも前から仕掛ける、激しいプレスが見られるのは間違いない。
与えられるタスクは変わらない。しかしここで難しいのは、ドイツ戦に誰が出るのか、という点だ。
出場を予想できるのは3人だけ
「このスペインは誰が出るかがまったく分からないんだ」
『マルカ』紙のスペイン代表番記者、ミゲル・アンヘル・ララは嘆いていた。
「もちろん何人かは想像がつく。特に中盤はブスケツ、ぺドリ、ガビはベースとなっているからね。でもそれ以外は、我々のように普段から追いかけている人間でもなかなか想像できない」
これはルイス・エンリケのチームマネージメントの上手さでもある。モラタやエリック・ガルシアなど、予選や強化試合で、彼が好んで起用していた(と思われる)選手もコスタリカ戦では控えだった。CFには本来ウイングのアセンシオが入り、CBには本来はアンカーのロドリが入った。
アセンシオはドイツ戦を前にこんな話をしている。
「代表での初日から、ルイス・エンリケは僕に『お前はいくつものポジションでやれる』と言っていた。『FWでやると死ぬほど疲れるからな』とも言っていたけど、たしかにそのとおり。求められるのは相手へのプレス、走ること、相手のマークを外すタイミングだ」
ドイツを相手に高い位置からプレスをかけ、奪取後は2人目、3人目の動きを連続的に続け早めに仕留める。現在のスペインには、ボールを持って単独突破をできる選手は少ない。その点ではムシアラやニャブリを抱えるドイツの方が個の優位はある。ビジャやフェルナンド・トーレスを抱えていた過去と比べ、得点面で依存できるようなストライカーもいない。ルイス・エンリケはそれを、独自の采配と集団の力で補うアプローチを続けている。
元来は才能とセンスの10番的選手だったアセンシオはその象徴でもある。アセンシオが続ける。
「このチームは攻守にかなりの連動と連係が求められる。ルイス・エンリケは選手に自信を与えてくれるから、とても気持ちよくやれている」
中3日での試合が続く大会を総力戦と捉える傾向が強く、そうであるならばドイツ戦ではある程度メンバーを変えてくるのではないか。ソレールやバルデ、カルバハル、モラタら、初戦ではベンチスタートだった選手の抜擢もあるかもしれない。4−3−3という形も変えてくる可能性もある。もちろん、初戦でも輝きを見せたぺドリはスペインの宝であり続けるだろう。
揺るぎないスペインの戦い方
『ムンド・デポルティボ』紙のバルサ番、エドゥ・ポロは言う。
「このスペインは全体で戦うチーム。ドイツ戦はこのグループ3試合の最大の山場だ。いまは皆ドイツ戦について議論しているが、たしかなのはルイス・エンリケのサッカーはドイツを前にしても、やることは変わらないということ。攻守のプレスに、縦に速い攻め。あとは最後に、ぺドリという才能が何かを見せてくれるだろう」
スペインはドイツに勝てばグループ突破はほぼ確実になる。休みの少ない特殊な今大会、3戦目は休ませたいはずで、ここで決着をつけようとするのは間違いない。鍵となる試合で、ルイス・エンリケはどんなサッカーを見せてくれるだろうか。