[カタール・ワールドカップ・グループステージ第3戦]日本 2-1 スペイン/12月1日/ハリファ国際スタジアム

 思えば、これこそが森保一監督及びサンフレッチェ広島スタッフの真骨頂なのかもしれない。

 広島がJ1で2連覇をした頃も、関東エリアでのアウェー戦は平然と守備的で退屈な試合を繰り返した。メディアもライターも関東エリアに固まっているから、大半の記者が守備的に戦う広島ばかりを目にすることになる。聞けば、なかなか攻撃的に戦うホームゲームを見てもらう機会がない広島の選手たちからは、愚痴が漏れていたという。

 今回のW杯でも、どうやら世界中から日本には積極策を求める声が集中していたようだ。グループEで日本の立ち位置は、ドイツやスペインに比べれば明らかに格下だ。客観的に力が劣るなら、先に驚かせて優位に進めようとするのが常道である。

 まして森保監督は、この大会に入る前に逆転勝ちを収めた試合はなかったし、手を打つのが遅れて、見せ場も作れずに敗れるゲームが目についた。必ず強調する「勇敢に」という言葉とは裏腹に、失望させる戦いが少なくなかった。

 しかし、それでも明暗を大きく分ける一戦で、森保監督は我慢の選択をした。もちろん、森保監督の全ての決断に賛同をするわけではないが、この指揮官の度胸と忍耐力には感服する。そういう意味では、上に立つ指導者の資質は備わっている。

 いずれにしてもスペイン戦で勝機を見出すのは、世界中の指揮官にとって無理難題だ。反面、攻略のヒントは、ドイツが示してくれた。つまり後半立ち上がりから見せたリスク覚悟の積極プレスである。

 ところが森保監督は、その積極策を後半のために引き出しにしまった。それは前田大然の先発起用と矛盾するが、案の定、スペインが80パーセント近くポゼッションを占めるなかで、低い位置での5-4-1で構える戦略を選択した。序盤はスペインの最終ライン4枚のパス回しには静観を保ち、コスタリカ戦では短時間でのプレーに止め、温存させた頼みの伊東純也は、完全に自陣右角でダニ・オルモ番に徹した。
 
 11分には早々とアルバロ・モラタに均衡を破られるが、プランには変化がなかった。日本は、全体の10パーセント前後しかボールに触れる機会がなく、守備ブロックを組み、相手に合わせて動くだけの消耗戦を強いられ、気がつけばCB3人全員がイエローカードを受けていた。

 日本は逆転が必要なのに、CBの誰が2枚目を受けても致命傷になる。そんな崖っぷちに追い込まれた。

 だが後半開始からの一転したプレッシングで、日本は唐突に覚醒する。前田がGKウナイ・シモンを追いかけてスイッチを入れ、後半頭から交代出場した三笘薫と、先発の鎌田大地で相手右サイドでの展開を阻むと、シモンは逆戻りしてきたボールを受けて左サイドへと逃げる。

 この精度を欠く浮き球のパスを左SBのアレックス・バルデが収めきれず、伊東が奪取して堂安律へと繋げた。先制したわずか3分後に追加点を奪うと、今度は調子の上がらない鎌田を下げて右ウイングバックに冨安健洋を入れ、守備力の安定を確保し、代わりに伊東を前に出した。

 結局、森保監督は完全に本大会用の采配にシフトした。総力戦に嘘はなく、必要なら適性とは限らないポジションでの起用もいとわず、臨機応変にカードを切っている。実際、三笘などは守備者としても相手の縦への仕掛けを許さず、レフティのマルコ・アセンシオが対面に回ってきても、しっかりと要所で身体を張りシュートブロックをした。

 不安要素の大きな右SBをもう1人招集しようとしなかったのも、もし冨安の調子が上がらなければ、5バックにして伊東のウイングバック起用で対応するシナリオまでは用意していたに違いない。ここまで故障が連鎖する状況なのに最後に招集したのが起用予定のない町野修斗だったのは、もう25人で戦い抜くという覚悟の表われだったはずだ。

 逆にスペインは前半で決着をつけるシナリオを描いた。だからターンオーバーも予想されるなかで、開幕戦とスタメンを変えたのは2人だけ。ベストを先に出してしまっただけに、後半の攻撃は精度を落とした。あるいは準々決勝でのブラジル戦を避けられる「2位通過が得策」のイメージが共有されていたのかもしれない。

 もう十分に歴史は変わった。それだけにベスト8への挑戦は、今度こそ積極果敢に日本の攻撃的長所が光る試合に挑んでほしい。

文●加部究(スポーツライター)

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