●マンツーマンで嵌められたらどうする?

 サッカー日本代表は、FIFAワールドカップカタール・グループE第3節でスペイン代表と対戦する。コスタリカ代表を7-0で撃破し、ドイツ代表とも激しい攻防を繰り広げたスペイン代表は、どのような特徴を持つチームなのか。かつてベガルタ仙台などで監督を務め、2022シーズンからピーター・クラモフスキー監督率いるモンテディオ山形でコーチを務める渡邉晋氏が、スペイン代表の戦術的特徴と日本代表が狙うべきポイントを分析する。(文:渡邉晋【モンテディオ山形コーチ】)
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 出し手のスキルにも巧みさが内包されています。まずはボールの置き所が良い。複数あるパスルートに対してどこへでも蹴れる場所に置くから相手は予測し辛い。加えて、相手を外して自分で運び相手を置き去りにすることもできるから、相手は不用意に飛び込めない。こうしてまずは局面で、少しずつ相手に迷いを生じさせプレスを無力化させるのです。

 勿論こうした技術は簡単ではありません。しかしこれができないと、この配置の旨味が苦味に変わってしまう。スペイン代表の選手達が事もなげにこうしたプレーをし続けることにこそ、技術の高さが凝縮されているのです。

 配置のずれが少ないと先に述べましたが、時には局面でローテーションを行うことで相手を外していくシーンも見受けられます。IHがCBの脇に下り、SBが高い位置へ。WGが中に入ることで相手の守備の矢印をずらしていくやり方です。マンツーマン気味に嵌めてくる相手に対してはこの方法で前進していくことも行っていました。

 WGが高い位置を取れなくなるという弊害もありますが、相手のプレスを回避して前進していくという観点から見れば効果的でしょう。オプションの一つであると推測しますが、相手を観て立ち位置を変えるこうした行動が実にスムーズで合理的でした。

●相手の圧力を逆手に取ってゴールを目指す

 また、CFが下りてヘルプするのも一つのやり方ですし、後方に構えるゴールキーパー(GK)の関わりも見逃すことはできません。特にGKは、特別なプレーをしている訳ではありませんが、Build up時のプレーは実にシンプルで秀逸です。GK自らに時間があれば一つ奥への展開を視野に入れつつ早い判断とテンポで展開する。自身にプレッシャーが掛かればフィールド上に必ず生まれる「フリーマン」を使えるようにボールを動かす。

 その際、ANとのパス交換が肝になりますが、仮にANに相手が付いていてもパスを付ける足を間違わない為、そこのプレスをも利用して「フリーマン」に展開することが可能になるのです。このANへのパスをミスしてしまえば大きな代償を払うことになるでしょう。しかし、そのパスを当たり前に出す。そしてそれを当たり前に通す。こうしたシーンにスペインのこだわりや哲学、長い歴史を感じずにはいられません。

 そして、前述した通り、左右のWGは高い位置で幅と深さを確保しながら、常にそこからの背後を狙っています。同サイドのライン際、角度が無い状況でも、タイミングを合わせて背後を突く。または、一気に逆サイドへ展開してスピードアップを図る。

 相手の圧力を利用して広大なスペースを突いていくのか、それを恐怖と感じた相手はズルズルと下がってしまうのか。「いつ、どこで」相手にナイフを突きつけるのか、という駆け引きをチーム全体で共有しながら攻撃を構築していることがヒシヒシと伝わってきます。実に面白く、見ていて楽しいポイントです。

 相手陣に押し込んだ際も、「幅」をしっかりと確保しつつ、サイドの数的優位を生かしたインナーラップやオーバーラップ、カットインからのコンビネーションや逆サイドへのインスイングクロスで相手の背後を狙っていきます。

●どう背後を取るのか? 「間」の意識とは?

 ここで注目したい点が背後を取る際のランニングのコースです。基本的には、相手の背中に一度隠れてから相手の間を走る。その動きに相手が対応すれば前に入る。その作業を細かく何度も繰り返しています。

 いわゆる「ライン間」という「間」だけでなく、相手DFラインの「間」(これを私は「レーン」と呼んでいます)を意識して背後を狙っていく。これを続けられると相手のサイドの守備者は中に絞らざるを得なくなるので、最後は「幅」を確保している選手(WGか SB)がフリーになるのです。逆サイドへのインスイングクロスが通るのもこうした構造の元に成立していると考えられます。

 勿論それらを成功に繋げる為のスキルが重要であるのは言うまでもありませんが、もう一つアタッキングサードの攻防でキーになるのが守備への切替、カウンタープレスです。

 今のスペイン代表はこの強度と速さが群を抜いています。相手の11人が人数をかけ、自陣でコンパクトに守るのをこじ開けるのは至難の業です。だからこそ、現代サッカーの主流は「縦に速く」といったものにシフトしている側面もあります。この切替を速くして、いわゆる即時奪回を可能にしてしまえば再びチャンスが訪れます。

 奪い返したその瞬間から「一気に仕留めよう」というプレーは、今ではどこのチームも目指していることでしょう。スペイン代表はまさにそれを体現しているチームです。

 しかし彼らの特徴はもう一つあります。それは、仮にそのショートカウンターが成立しなかったとしても、もう一度攻撃をやり直す。何度も何度もそれを繰り返し、相手を揺さぶる中で得点の機会を窺う。攻撃時の粘り強さや辛抱強さがあり、そこで焦れないメンタリティが備わっているからこそ、真綿で首を締めるかの如く相手を追い込んでいくことが可能になるのです。

 さて、そんなスペイン代表と対峙する日本代表はいかにして戦い、勝ち点を奪いにいくのか。

●日本代表が狙うべきは…

「良い守備から良い攻撃」というコンセプトはそのままに相手の嫌がることを全面的に出していくのであれば、やはり相手陣でのハイプレスは必須であると考えます。特に、相手の2CBとANに対しては同数で嵌めに行く。ここで相手の自由を奪わないと易々と前進されてしまいます。

 前に人数を掛ける分、最終ラインからは勇気を持った縦ズレ・横ズレが必要になりますが、4バックからそれを行うのか、3バック+2WBの配置から最終ラインの人数の担保を持った上で出て行くのか。攻撃への繋がりも含めて幾つかプランは考えられるでしょう。

 また、スローインの攻防も一つのポイントになりそうです。スペインボールのスローインはそれぞれのエリアやゾーンで使い分けされていて、一つ一つがしっかりとデザインされています。特にディフェンシブサードからミドルサード付近でのスローインは、逆サイドへ解放する為に、CBが深さを取り、ボールサイドのIHとWGがスイッチする中でボールを引き出すというパターンが主流となっています。

 日本代表はここをしっかりと管理することでボールを奪い、相手ボールの時間を減らしていきたいところです。特に日本代表側から見た高い位置でのスローインでは、逆サイドへ解放されないようにコンパクトに人を配置しながら球際の強さと巧みさでボール奪取し、そのまま相手ゴールへと迫ることができれば得点への期待も膨らむはずです。

 スペイン代表の試合を見れば見るほど途轍もなく強力な相手であると感じます。しかし、ドイツ代表相手に歴史的勝利を挙げた日本代表に期待せずにはいられません。

 大一番に臨む森保監督、そして選手、スタッフの皆さんの奮闘を心から願っています。我々は信じて応援するのみです。グループリーグ最後のスペイン代表戦、楽しみにしています!

(文:渡邉晋【モンテディオ山形コーチ】)

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