FIFAワールドカップ・カタール2022で連日繰り広げられる熱戦を、ABEMAは全試合無料&生中継で放映中。一方、W杯期間中に限定開設した「Number渋谷編集室 with ABEMA」では、サッカーファンの“もっと知りたい欲”に応える記事の数々をNumberWebを通じて好評配信中。今回は渋谷編集室のスペシャル編集メンバーでスポーツライターの二宮寿朗さんが、グループステージ突破をかけた日本対スペインの展望を担当デスクと議論した。

デスク サッカー解説者の戸田和幸さん、フォトグラファーの近藤篤さんとのコスタリカ戦レビューの動画を拝見しましたが、0−1で敗れた直後とあって、ちょっと沈んだ感じが伝わってきましたよ。

二宮 試合を観た後すぐの収録でしたからね。ミスからの失点にはなりましたけど、ゴールをこじ開けられなかったことが敗因だとは思います。5バックにしてブロックをつくって構えるコスタリカの堅守をどのように崩せば良かったか、など、戸田さんが的確な見解を示されていますからぜひ観ていただければと思います。

《スペイン戦はどう戦う?》森保監督が「カウンターは参考になった」と語っていた、バルサの“あの試合”とは?

デスク 逆転勝ちしたドイツ戦から中3日。どういうスタメンで臨むのかが、注目されました。前田大然→上田綺世、伊東純也→堂安律、久保建英→相馬勇紀、田中碧→守田英正、酒井宏樹→山根視来と5人交代したわけですが、二宮さんはどのように捉えましたか?

コスタリカ戦敗戦の要因

二宮 選手たちのコンディションを把握できているわけではないので言及に難しい部分はありますが、戸田さんが言うようにドイツ戦と基本的には同じメンバーで行くパターンか、もしくは9月のアメリカ戦とエクアドル戦でテストしたようにもっと入れ替えて大幅なターンオーバーにするか、そのちょうど間を取るような形になりましたよね。

 個人的には日本のほうがボールを保持する戦いを想定するならば、たとえば攻撃を組み立てられる柴崎岳を配置するパターンもあるのかなとは思いました。ボールを持って、崩して勝つぞというチームに対するメッセージにもなりますから。それともドイツ戦のようにカウンターを軸に置くのか、模索したままで前半を使ってしまった印象がありました。

 一方、スペイン相手に7点も奪われて負けているコスタリカは4バックをやめて5バックにして、日本のスピードを殺しながら自分たちのペースに引きずり込んでいくという狙いがはっきりしていました。狙いが定まらない日本と、逆に定まっているコスタリカ。このコントラストが勝敗に直結した形になりました。

デスク 戸田さんは「(先発した)前めの選手はフレッシュだとして、そのフレッシュな感じが出なかった」と感想を述べていました。これ、試合を観ている方の多くが思ったんじゃないかって感じたんですよ。狙いが定まっていなかったことで選手のフレッシュさを引き出せなかったんでしょうか?

二宮 もちろん要因としてあったでしょうし、初めてワールドカップの舞台に立つプレッシャーも少なからずあったのかもしれません。ただ個人的にちょっと気になったのは、選手たちのコンディション調整そのものがうまくいっているのかな、と。

デスク どういうことでしょう?

気になるのは3戦目のコンディション

二宮 まずドイツ戦で90分間出場したメンバーのなかで鎌田大地、遠藤航も2試合続けての先発でしたが、やはり体が重いように感じました。100%以上を出し切ったドイツ戦の消耗が予想以上にあったんじゃないかな、と。中3日はどのチームも同じ条件としても、初戦に合わせてきたことでその反動もあったはずです。ここの選手起用のマネジメントが気になったのが一つ。

FIFA発表のデータで、鎌田の2試合合計の走行距離とスプリント数はチーム1位だった ©Getty Images
FIFA発表のデータで、鎌田の2試合合計の走行距離とスプリント数はチーム1位だった ©Getty Images

 そしてもう一つが、フレッシュな状態であるはずの選手のコンディションです。ドイツ戦には出場せずにコスタリカ戦で先発したのは上田、相馬、守田、山根の4選手。森保一監督はこのドイツ戦の6日前、カナダとの強化試合でケガ明けの守田は別として、相馬はフル出場、上田、山根は45分出場させています。全体のコンディションにはかなり気を配っているはずなのに、あくまで可能性の話ですが、出場時間の少ない選手でもフレッシュな状態をつくれていないかもしれないということ。3戦目のスペイン戦に向けて、ここはメチャメチャ気になっています。

デスク 今回、トレーニングパートナーとしてドーハに入る予定だったスペイン遠征中のU−19日本代表に新型コロナウイルスの陽性者が出たこともあって、感染拡大防止の観点から合流が見送りになったという報道がありましたよね。

二宮 渋谷編集室の企画で、前回ロシア大会まで日本代表のコンディショニングコーチを務められた早川直樹さんにインタビューした際、「(ロシア大会では第2戦の)セネガル戦の翌日には出場機会の少ない選手がトレーニングパートナーとして帯同していたU−19代表チームとフルコートで試合形式のトレーニングを行なえたことで、サブ選手のコンディションを高いレベルで維持することができた」と語っていたのがとても印象的でした。今回は欧州各国のリーグの中断から時間が空いてないとはいえ、代替策がないとなるとスペイン戦でその影響が出てこないか心配ですね。

デスク そのスペイン戦の話に移っていきましょう。状況としてはどのチームもラウンド16進出の可能性が残されているとはいえ、スペインは得失点差を考えると、たとえ日本に負けたとしても大差でない限り、突破は間違いありません。仮に日本が引き分けた場合、コスタリカがドイツに勝てばコスタリカの突破が決まるし、ドイツが2点差以上で勝てばドイツの突破が決まる。つまり日本が確実に自力突破するためには、ドイツ戦に続くアップセットを起こす必要があります。

気にかかるのはチーム全体のコンディショニング。決戦を前に、どこまで回復できるだろうか ©Getty Images
気にかかるのはチーム全体のコンディショニング。決戦を前に、どこまで回復できるだろうか ©Getty Images

スペイン戦の基本戦術とは?

二宮 昨夏、東京オリンピック準決勝で対戦したときもペドリはちょっとした動きでフリーになるし、パウ・トーレスはそこを見逃すことなく狭いところでもパスを通してくるし、どう封じこめようとしてもなかなかに難しい。オリンピックは90分間何とか無失点で切り抜けられましたが、今回はフル代表相手です。

 スペインはその先の戦いも見据え、多少なりともメンバーを入れ替えてくるとは思いますが、1点で済めばいいくらいに思っておいたほうがいい。そう考えると2点は取らないといけません。相手はパスの本数も多いわけですし、ブロックのなかに向こうのほうから入ってくることになるので、なるべく高い位置で網に引っ掛けて素早く攻めに転じたいですよね。

デスク 日本は、ここまでの2試合と同じように4−2−3−1でスタートすると思いますか?

二宮 いきなり3−4−2−1もあるんじゃないでしょうか。今年4月、森保監督にインタビューした際、鎌田が出場したEL準々決勝フランクフルト対バルセロナのファーストレグ(スコアは1−1)を現地で視察しているんですよ。バルセロナを仮想スペインとして見立て「ビルドアップをうまく止めて攻撃に出ていくカウンターは参考になった」と語っていましたから。

 3−4−2−1のフランクフルトは守備時5バックにして、高い位置をキープし、全体をコンパクトにしていました。そこで奪って迫力を持って出ていくことで、セカンドレグはアウェーながら3−2で勝利しています。冨安健洋が起用できる状態なら、ドイツ戦のように左ストッパーに入れる形を考えているんじゃないか、と。冨安からの精度の高い左足からのパスはチャンスを捻出できますから。

スタジアムの熱をあげる攻撃、守備ができるかも大きなポイントだ ©Getty Images
スタジアムの熱をあげる攻撃、守備ができるかも大きなポイントだ ©Getty Images

デスク 冨安の話がでましたけど、日本のメンバーはどうなりますかね?

再び世界を驚かすために

二宮 コスタリカ戦で先発から外れた前田大然、久保建英、伊東純也、田中碧はスタメンに戻ってくるんじゃないでしょうか。遠藤は右ひざ痛で厳しいという報道が出ていますし、鎌田も疲労からどれほど回復できるかですよね。本当ならコスタリカ戦の前半でリードして、ドイツ戦でフル出場した2人を後半早めに交代させたかったのではないでしょうか。それができなかったのは誤算だったはずです。

 スペイン戦は前半耐えて後半勝負という見方もあるとは思いますが、ドイツ戦のように1点で済まなかった場合、前半だけで勝負が決まってしまう可能性だってある。三笘薫のドリブルはスペイン相手にも非常に有効だと感じるので、「前半から勝負」というスタンスならスタートからもあり得るのではないでしょうか。

デスク 1トップは浅野拓磨ではなく前田ですか?

二宮 浅野は復帰したカナダ戦からコンディションを上げてきたとはいえ、森保監督は長い時間プレーさせることを考えていないようにも感じます。前田で行けるところまで行って、浅野投入というプランなのではないでしょうか。

デスク 前半の入り方が凄く重要になりそうな気がします。ここはドイツ戦、コスタリカ戦の反省も踏まえて戦ってもらいたいですよね。

二宮 コスタリカ戦の消化不良をすべてぶつけてほしいですし、勇敢に戦って再び世界を驚かせてほしい。ドイツから勝ち点3を奪ったのだから、スペインからだって不可能ではないはずですから。