【FIFA ワールドカップ カタール 2022・決勝トーナメント1回戦】イングランド vs セネガル(日本時間12月5日/アル・バイト・スタジアム)

サッカーの母国、イングランドが変わろうとしている。カタールW杯グループリーグは2勝1分で1位通過。荒れる各グループを尻目に「危なげない」という表現がぴったりの実績を残した。

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グループリーグ3戦で総得点は9。大会屈指の攻撃力をいかんなく発揮している。ただしその内容は戦前の予想と少し違っていた。エースであるハリー・ケインはまだゴール数が0。その代役(脇役?)としてのマーカス・ラッシュフォードが3点。ブカヨ・サカが2点。フィル・フォーデンが1点。ジャック・グリーリッシュが1点。マーカス・スターリングが1点。記念すべきイラン戦でのチーム初ゴールはジュード・ベリンガム。見事に彼らがケインの穴を埋めているのだ。

いままでのイングランドであれば、エースが封印されたら、そのまま活力を失ってグループ敗退という末路を迎えていた。だが今回は全く違う様相となっているのはイングランドが生まれ変わってきたからだ。

世界最高峰のプロリーグ、プレミアリーグを擁するイングランド。1888年に創設されたFAリーグから104年後、幾多の経緯を経たプレミアリーグが新設されて今年で30年となる。生まれて、物心がつき、ボールを蹴っていた男の子が、プレミアでプレーする年代となっているわけだ。

プレミアは世界最高峰とはいえ、その屋台骨を支えていたのは世界から集まってきた一流プレーヤーだった。チームの顔はヨーロッパのビッグクラブから移籍してきたフランス人やスペイン人、南米やアフリカのスター達だった。国内リーグは最高峰だが、代表チームはそのレベルには達することができなかった。

「イングランドの代表選手は、プレミアリーグの脇役達」そんな皮肉まじりの自虐コメントを聞きながら、プレミアネイティブ時代の少年達や青年達は、一流プレーのシャワーを浴びて育ってきたわけだ。

「攻守を切り替えて最後まで走り抜き、身体をぶつけ合って、勇敢に戦う」がイングランドサッカーの哲学だった。

でも今は違う。

古き良きインランドは生まれ変わり、「予測することが困難なトリッキーなドリブル」「プレッシャーを感じさせないファーストトラップ」「自由なプレーを担保するボディバランスやボディーフェイント」そして「多様でバラエティに富むパスコース」や「アウトサイドパス」「ヒールパス」「胸トラップパス」など、いわゆる「お洒落なプレー(この概念もイングランドサッカーには無縁だった)」を自然に、難なくこなす“自国の”プレーヤーが続々と現れているからだ。

グリーリッシュは27歳。スターリングが27歳。ラッシュフォードは25歳。フォーデンは22歳。そしてサカは21歳で、チーム初得点を挙げたベリンガムはなんとまだ19歳だ!得点を挙げていないが、チャンスメーカーとして一流の能力を持つネイソン・マウントが23歳。中盤後方で冷静にゲームをコントロールするデクラン・ライスが23歳。右サイドの疾風、アレクサンダー=アーノルドが24歳。そして残念ながら今大会の召集メンバーから外れたものの、アーセナルの攻撃の担い手、スミス・ロウは22歳。ミランのダイナモ、フィカヨ・トモリは24歳。

生まれたときからプレミアが存在していたプレミアネイティブ世代は、まさに明日からが彼らの未来なのだ。このカタールW杯は、そんな未来のイングランド達の夜明けの大会になるのかもしれない。

文:橘高唯史

(ABEMA/FIFA ワールドカップ カタール 2022)