FIFAワールドカップ・カタール2022の決勝トーナメント1回戦が12月4日(日本時間)に行われ、オランダ代表とアメリカ代表が対戦した。
前半10分に、オランダ代表が自陣からのパスワークでアメリカ代表のプレスをいなすと、右ウイングバックのデンゼル・ダンフリースのクロスにFWメンフィス・デパイが右足で合わせ、先制ゴールをゲット。同アディショナルタイムにもダンフリースの右サイドからのクロスに左ウイングバックのデイリー・ブリントが反応し、追加点を挙げた。
後半31分に、コーナーキックからの2次攻撃でアメリカ代表のFWハジ・ライトに追撃のゴールを奪われたものの、同36分にダンフリースがブリントのクロスから加点し、勝負あり。最終スコア3-1で、オランダ代表が準々決勝に駒を進めている。
守勢に回ったキックオフ直後の時間帯をやり過ごし、勝機を見出したオランダ代表。アメリカ代表のパスワークをいかに封じたのか。今回はこの点について解説する。
守備面で奮闘した3人のMF
[3-4-1-2]の守備隊形で臨んだオランダ代表は、デパイとコーディ・ガクポの2トップを起点に、アメリカ代表の最終ラインや中盤へのプレッシングを試みる。
基本布陣[4-1-2-3]のアメリカ代表の2センターバック、ウォーカー・ジマーマンとティム・リームから両サイドバック(セルジーニョ・デストとアントニー・ロビンソン)へのパスコースを、オランダ代表の2トップが遮断。このデパイとガクポによる“外切りプレス”で、アメリカ代表のセンターバックからのパスを中央に誘っていた。
トップ下のデイヴィ・クラーセン、及びフレンキー・デ・ヨングとマルテン・デ・ローンの計3人も、アメリカ代表の3セントラルMF(タイラー・アダムス、ウェストン・マッケニー、ユヌス・ムサ)をマンツーマン守備で捕捉。相手のセンターバックからサイドへのパスを封じ、縦パスを奪おうとしたオランダ代表と、マッケニーとムサの2インサイドハーフがクリスチャン・プリシッチとティモシー・ウェアの両ウイングFWに近づき、細かいパスワークでサイド攻撃を成立させようとしたアメリカ代表。両者によるせめぎ合いがキックオフ直後より繰り広げられた。
前半3分にプリシッチが相手最終ラインの背後を突き、ペナルティエリア内でシュートを放ったものの、GKアンドリース・ノペルトの好セーブに救われたオランダ代表が試合の主導権を手繰り寄せる。
同代表のマンツーマン守備が威力を発揮し始めたのが、前半9分の攻撃シーン。ここでもクラーセンがアダムス、F・デ・ヨングがムサ、デ・ローンがマッケニーをそれぞれ捕まえており、自陣でボールを保持したリームのパスコースを限定している。デパイがサイドへのパスコースを塞ぎきれていなかったが、リームからデストへのパスをブリントが察知し、ボールを奪ったことで、オランダ代表のロングカウンターが発動された。
この速攻で勢いづいたオランダ代表はセカンドボールを回収し、GKノペルトから再度攻撃を組み立てる。フィルジル・ファン・ダイクとF・デ・ヨングを中心に自陣でパスを回し、アメリカ代表の3トップや2インサイドハーフを釣り出すと、中盤の底アダムスの脇のスペースにデパイが降り、ブリントからのショートパスを受ける。センターサークル付近でデパイがボールを捌いたことでオランダ代表のサイド攻撃が始まり、これが先制点に繋がった。
失点直後もアメリカ代表は自陣後方からのパスワークでオランダ代表の守備を崩そうとしたものの、先述の通りアダムスを含む3セントラルMFがオランダ代表のMF陣による密着マークに遭い、ジマーマンとリームの2センターバックがパスの出しどころに困る場面がしばしば。攻撃のリズムを掴めないうちに喫した前半終了間際の2失点目が、重くのしかかる展開となった。
F・デ・ヨング、デ・ローン、クラーセン、トゥーン・コープマイネルスなど、足下の技術と球際での強さを併せ持つMFが揃っているオランダ代表。彼らが攻撃面のみならず、相手のビルドアップのキーマンを抑え込むマンツーマン守備も精力的にこなせるのが、今の同代表の強みだ。今大会で異彩を放っているマンツーマン守備集団が、準々決勝でリオネル・メッシ擁するアルゼンチン代表とどれほど渡り合えるかに注目したい。