FIFAワールドカップ・カタール2022(カタールW杯)のグループステージ最終節が日本時間12月2日に行われ、サッカー日本代表はスペイン代表に2-1で勝利。戦前の予想では「2強2弱」とも言われたグループEだが、同グループを首位で突破したのは日本となり、世界中の予想を覆してみせた。

これで日本は、初めてとなるW杯2大会連続での決勝トーナメント進出を達成。前回大会(2018年ロシアW杯)ではベルギーを追い詰め初のベスト8にあと一歩まで迫りながら、最終的に3位となる強豪に屈した。4年の時を経て、あの悔しさを覆し歴史を塗り替えるチャンスを掴んでいる。

次なる対戦相手は、前回大会準優勝のクロアチア(日本時間12月5日24:00キックオフ)だ。ここではカタールW杯グループリーグでの日本代表の戦いぶりを振り返り、これまでとの違いを考察したい。


【カタールW杯】日本16強は必然か幸運か?過去との大きな違い
日本代表 森保一監督 写真:Getty Images

ドイツ戦とスペイン戦に見る日本の成長

グループリーグ初戦のドイツ戦(11月23日2-1)、そして第3節のスペイン戦(12月2日2-1)、日本はともに圧倒的にボールを握られた。シュート数でも上回られ、はた目には強国相手に善戦しながらも結局は敗れてしまう、これまでの日本と同じように映ったことだろう。

だが今大会では反対に、優勝候補の一角に挙げられていたどちらの国からも後半に2得点を挙げ、勝ち点3を掴んだ。相手に押し込まれ仕方なく守備に奔走しているように感じてしまうが、森保一監督が選んだメンバーを考えるとベストな戦い方ではないだろうか。

日本は個々の総合力では、スペインやドイツには及ばない。ただし、三笘薫のドリブル、前田大然や伊東純也のスピード、冨安健洋の対人守備など、それぞれの選手の強みに関しては十二分に通用していた。守備面でもバランスさえ崩れておらずブロックを作った状態であれば、被決定機は多くない。

長年、強豪相手には技量の差を運動量でカバーしようとしていた日本だが、今回はいわゆる質的優位で上回る部分をみせている。その姿に、日本は個々を適切に起用すれば強豪相手にも一定の勝機がある「サッカー中堅国」になったのだと実感した。これまでとは異なる一定以上の個があったからこその、そしてその個を活かすための戦術を採用したがための首位通過だった。


【カタールW杯】日本16強は必然か幸運か?過去との大きな違い
日本代表 DF冨安健洋 写真:Getty Images

これまでになかった質的優位とは

具体的な日本の質的優位の例を挙げよう。スペイン戦の後半23分、日本にリードを許したスペインは、ジョルディ・アルバとアンス・ファティを投入した。左サイドを活性化させ、そこから得点を生み出そうとしていた。どちらもバルセロナに所属する、抜群の個を有する選手だ。

それに対して日本は、冨安健洋を投入。スペインの左サイドに対抗すべく、右WBの位置にアーセナルで高い評価を得る守備のユーティリティプレーヤーを起用した。すると冨安は期待に応え、同サイドを完全に封印。スペインの名手2人を自らの「ポケットに入れた」のだった。スペインは何度か攻略を試みたものの結局は左から攻めることを諦め、右からの攻撃を増やしていくことになる。

【カタールW杯】日本16強は必然か幸運か?過去との大きな違い
日本代表 写真:Getty Images

「勝ちにいく」の意味に変化

過去のW杯においても、日本は強豪に対して勇敢に戦ってきた。試合前には選手から「勝ちにいく」という発言が出て、実際スコアにおいて僅差であったことも少なくない。1998年フランスW杯ではアルゼンチンに0-1、2010年南アフリカW杯ではオランダに0-1、2018年ロシアW杯ではベルギーに2-3。いずれも1点差だが、ただしいずれも敗れている。

今回も同様に「勝ちにいく」という発言があったうえで、実際にドイツ、スペインに対して勝利した。1試合であれば1996年アトランタオリンピックでブラジルに勝利した「マイアミの奇跡」のような奇跡も起こり得るが、2試合となると奇跡ではない。成長に加えて「勝ちにいく」の意味合いが、過去のものとは異なっていたのだろう。

以前の日本は多くのメンバーがJリーグでプレーする国内組で、頻繁に戦う機会のあるアジアの国を除き、力量の差をは正確に把握できていなかった。未知なものに対して勇気を持って挑むという「勝ちにいく」だった。しかし、現在は多くが欧州でプレーしており、各国の代表選手と日常的に対戦している。相手の技量を把握したうえで、自分が積んできた経験から自信を持って発する「勝ちにいく」へと変化しているように感じられる。


【カタールW杯】日本16強は必然か幸運か?過去との大きな違い
川崎フロンターレ DF谷口彰悟 写真提供: Gettyimages

谷口が示したJリーグの成長も

もちろんJリーグ全体の成長も、日本の強化に大いに貢献している。スペイン戦では、川崎フロンターレでプレーする谷口彰悟がW杯デビュー戦を迎えた。普通ならば固くなってもおかしくないが、前半から安定した守備を見せるとともにボール奪取から縦パスを入れるなど、普段Jリーグでみせているようなプレーを披露。金星に貢献してみせた。

近年のJリーグは急激に強度が増しており、現在の海外組もJリーグで成長してから欧州に羽ばたいた選手ばかり。3部リーグ制となり昇降格があることで、選手数が増えかつ競争意識を高めることに成功している。


【カタールW杯】日本16強は必然か幸運か?過去との大きな違い
クロアチア代表 写真:Getty Images

クロアチア戦の難しさ

史上初のW杯ベスト8以上を達成するには、日本は次戦でクロアチアに勝たねばならない。

クロアチアはルカ・モドリッチを筆頭に中盤の構成力が非常に高く、経験値や総合力ならば日本より上だ。また、守備のバランスが良く、グループリーグでは3試合で1失点と堅守を誇る。ドイツやスペインのようなネームバリューはないが、献身性もプレーの強度も高く、スピードをいかした速攻以外の攻め手を欠く日本としては戦いにくい相手だろう。

ただしクロアチアはグループリーグ3試合をほぼ同じスタメンで戦っており、前半を同点以上で終えれば、日本は多彩な控えメンバーを駆使できる。勝機は十分。どちらが先手を取るかが、勝敗に大きな影響を与えることだろう。難敵を退け、日本代表が初のベスト8を達成することを強く願っている。