メトロはほとんど遅れることもなく人々を輸送

 カタール・ワールドカップ(W杯)で、世界中から集まったファンの主な交通手段になっているのが地下鉄「メトロ」だ。朝5時から深夜3時まで運航しているメトロは、W杯期間中にカタールに入国するために必要な「Hayya Card(ハヤカード)」を持っていれば、誰でも無料で利用ができる。

 試合が行われるスタジアムへ行く際は、メトロの駅は多くのファンでごった返し、駅の入り口へ誘導する係員の「メトロー・ディス・ウェイ!」という掛け声は、カタールW杯の名物の1つとなっている。どれだけ多くの人が詰めかけても、運転士のいない無人電車は、遅延もほとんどなく、淡々と人々を輸送し続けている。

 今回のW杯のために、数年をかけて整備されたメトロは、カタール発の鉄道。レッドライン(赤)、ゴールドライン(金)、グリーンライン(緑)の3路線で区別されており、非常に分かりやすい。もともとカタールの国土は秋田県と同じくらいの広さのため、メトロがあれば移動に不便はない。

 実はこのメトロ、車両などの製造は日本の企業が請け負った「メイド・イン・ジャパン」のものとなっている。ブラジルサポーターが大声で歌い、飛び跳ね出した時は、さすがに車体も多少は揺れて若干怖かったものの、それでもメトロは支障なく走り続けていた。

 カナダから13歳と15歳の息子と一緒に観戦に来たアルジェリア系カナダ人のケリファさんは、「最高だったね。揺れることもないし、すごく移動がスムーズに快適にできる。カタール政府はよくやってくれたよ。信じられない成果だ」と話した。そして、メトロが日本製だと聞くと、「素晴らしいね。私たちは同じ空の下にいる。地面も1つだ。異なる国籍、異なる顔、異なる言語、異なる宗教を持つかもしれない。でも、共同なんだ。日本が、このメトロを作ったと聞いて本当に嬉しいし、素晴らしい。『力を結集させる』という言葉を示すことだと思うよ」と、喜んだ。

W杯終了後もメトロは人々の生活を豊かに

 このメトロは多くの人に好意的に受け入れられている。ブラジルからやって来たサポーターのカルロスさんとルッソさんも、メトロに魅了された。カルロスさんは「本当に快適だったよ。メイド・イン・ジャパンなのか! さすがだね。素敵だし、椅子もとっても座り心地が良かった」と絶賛した。ルッソさんも「私も大好き。とても美しい。カタールの1つの魅力だと思うわ。メイド・イン・ジャパンとは知らなかったけれど、おめでとう!」と、絶賛した。

 世界中から集まっているファンにとって、重要な交通手段となっているメトロ。無人で運行されているため、先頭車両に座ると運転手になったような視点で見られることも、大きな魅力だ。

 カタールは、今回のW杯に向けてかなり力を入れており、W杯一色になっている。逆にW杯が終わったあとについて「FIFAフィニッシュ、カタール・フィニッシュ(W杯終了とともに、カタールも終わりだ)」と嘆く人もいるが、このメトロは人々の生活を豊かにしそうだ。

 フィリピンから来ているカタール在住の学生のノーイさんとマイさんは、メトロができたことで生活が便利になったと言う。ノーイさんは「W杯が終わったら、国としてかなり後退しちゃう気がする。でも、何かしらで盛り上げてほしい。それにメトロはとても素晴らしい。W杯の開催が決まる前までは、メトロがなくて移動が不便だったの。でも、メトロができてすごく便利になり、安価で移動できるようになったわ。毎日使っているわ」と、話す。マイさんは「私もメトロが好き。メイド・イン・ジャパンなのよね? 日本とは縁があって、私の両親はドラゴンボールが好きで、その登場キャラクター(ピラフ一味のメンバー)からマイって名付けられたの。だから、私もメトロが人々の生活を助けてくれて嬉しいわ」と、喜んだ。

 カタールW杯が終わってからも、メトロは人々の生活を支えていくことになりそうだ。(FOOTBALL ZONE特派・河合 拓 / Taku Kawai)