熱戦が続くFIFAワールドカップカタール2022も佳境を迎え、ベスト4が出揃った。「アルゼンチンvsクロアチア」、「フランスvsモロッコ」の準決勝も楽しみだが、その前に4試合とも死闘となった準々決勝の戦いを振り返っておこう。
■堅守のモロッコが大躍進
モロッコの勢いが止まらない。グループステージでFIFAランク2位のベルギーを2-0で退けて36年ぶりに決勝トーナメントに勝ち上がった彼らは、ラウンド16でスペインをPK戦の末に下して同国史上初のベスト8に進出。そして現地時間10日に行われた準々決勝のポルトガル戦では1-0の完封勝利を収め、アフリカ勢として初めてW杯でベスト4に入った。
彼らの戦いの基盤となっているのは、統率の取れた守備だろう。今年8月にワリド・レグラギが監督に就任して以降、同指揮官の元では今大会を含めて8試合でわずかに1失点。それが、今大会のグループステージ第3戦のカナダ戦で喫したDFナイフ・アゲルドのオウンゴールだ。彼らは921分間で1点しか奪われていないのである。
準々決勝のポルトガル戦では、それまで4試合とも先発出場していた4バックのうち2名がケガで欠場し、キャプテンのロマン・サイスも試合中に負傷交代。それでも彼らの堅守が揺らぐことはなく、見事に勝利を収めてアフリカの歴史を塗り替えて見せた。
■201倍からベスト4
大会前、英国ブックメーカー『ウィリアムヒル』社の優勝オッズでモロッコは23番目(32チーム中)という低評価だった。彼らの優勝オッズは201倍。3戦全敗でグループステージ敗退となったカナダ(151倍)よりも低かったのだ。それでも下馬評を覆し、名だたる強豪を退けてベスト4まで勝ち上がってきた。
■エトーの予想的中?
現役時代にバルセロナで活躍した元カメルーン代表FWサミュエル・エトーは、今大会前に大胆な予想をしていた。出場したアフリカの5チーム(モロッコ、セネガル、チュニジア、カメルーン、ガーナ)が全てグループステージを突破すると予想したのである。
そしてベスト4にはモロッコ、セネガル、カメルーンのアフリカ勢3チームが勝ち上がり、最終的にはカメルーンとモロッコの決勝戦になることを予想した。これは予想というよりも、むしろ願望なのだが、モロッコの躍進によって彼の“予言”が注目を集めている。というのも、エトーはモロッコの勝ち上がりを的中させているのだ。
現カメルーンサッカー連盟会長は大会前、モロッコがグループステージを1位通過すると予想。そしてラウンド16でスペイン、準々決勝でポルトガルを倒すことまで予想していた。さらに準決勝ではフランスを退けると予想しており、そこでも彼の予言が的中する可能性がある。ちなみに、それ以外の予想は見当外れもいいところ。彼の予想ではカタールがベスト8に入っていたのだ。
■PK戦の明暗
準々決勝の残り3試合は、完全に“PK”の実力差が結果に現れた。
クロアチア対ブラジルでは“90分以降に強い”クロアチアの底力が存分に発揮された。準優勝に輝いた2018年大会から数え、クロアチアはW杯の決勝トーナメントで6試合を戦っているが、そのうち5試合が延長戦に突入。90分内での決着となった前回大会の決勝ではフランスに敗れたが、延長戦までもつれた残りの5試合は全て勝ち上がっているのだ。そのうち4試合がPK戦。今大会もラウンド16の日本戦に続き、準々決勝のブラジル戦もPK戦の末に勝利を収めた。これでW杯のPK戦は4戦全勝。ドイツと並び、PK戦の勝率100パーセント記録を4試合まで伸ばしている。
アルゼンチンもPK戦でオランダを退けた。アルゼンチンは、これがW杯で歴代最多となる6度目のPK戦。そして歴代最多の5勝目を挙げたのだ。彼らのPK戦での唯一の敗戦は、2006年ドイツ大会の準々決勝。その時の相手は、PK戦における“絶対王者”のドイツだった。PK戦は運の要素が強いはずだが、間違いなく優劣がつき始めている。
イングランドもそのPKに泣かされた。フランスとの準々決勝では試合中に2本のPKを獲得。エースのハリー・ケインが1本目を沈め、ワールドカップで歴代最多となる通算4本目(18年に3本、22年に1本)のPKによるゴールを決めた。しかし同選手は、1点ビハインドで迎えた84分に2本目のPKをバーの上に大きく外してしまい、チームもそのまま1-2で敗れることに。W杯の歴史において、1試合のうちにPKで成功と失敗の両方を経験した選手は、1990年大会のチェコスロバキア代表のミハル・ビーレクに続いて史上2人目だという。
イングランドが“PK”を外して敗退するのはお馴染みの光景だ。彼らはワールドカップとEUROを合わせて「PK戦」の戦績は2勝7敗。ガレス・サウスゲイト監督も現役時代に、1996年の欧州選手権でPKを失敗して敗退した経験があるのだ。
■ゴール記録
2本目のPKを決めることができなかったケインだが、1本目のPKによる得点がイングランド代表での通算53ゴール目。これでウェイン・ルーニーが持つ同国の歴代最多ゴールに並んだことになる。しかも、ルーニーが115試合で達成した記録に、わずか80試合で追いついて見せたのだ。
対するフランス代表FWオリヴィエ・ジルーも、イングランド戦での決勝点が代表通算53ゴール目だった。同選手は、既にティエリ・アンリが保持していたフランス代表の歴代最多ゴール(51点)を抜き去って記録を更新中だ。
ブラジルでは、ネイマールが準々決勝のクロアチア戦で代表通算77ゴール目をマークした。チームは惜しくもPK戦の末に敗れたが、これでペレの持つ同国の歴代最多ゴール記録に並んだことになる。
モロッコのFWユセフ・エン・ネシリも新記録を打ち立てた。ポルトガル戦での打点の高いヘディングによる決勝ゴールが、W杯での自身通算3ゴール目。同国のワールドカップにおける歴代最多ゴールを更新したのだ。
アルゼンチンのFWリオネル・メッシも偉大な記録に並んだ。オランダ戦のゴールが自身のワールドカップ通算10点目。これでガブリエル・バティストゥータが持つW杯におけるアルゼンチン人選手の歴代最多ゴール記録に並んでおり、準決勝以降で記録更新に期待が寄せられる。
さらにメッシはDFナウエル・モリーナのゴールをアシストしており、これでワールドカップの決勝トーナメントで通算5アシスト目。ペレが持っていた4アシストの記録を更新してみせた。
そしてメッシはW杯の歴代最多出場記録の更新も確実視されている。今回のオランダ戦が通算24試合目の出場となり、ドイツの英雄であるローター・マテウスが持つ25試合まであと1試合に迫っている。ケガさえなければ、準決勝で世界記録に並び、決勝戦、もしくは3位決定戦で新記録を打ち立てることになる。
(記事/Footmedia)