2022FIFAワールドカップカタール(カタールW杯)は、アルゼンチンの優勝で幕を閉じた。アルゼンチン代表のみならず、クラブでも個人でも数々のタイトルを獲得してきた「神の子」ことFWリオネル・メッシ(パリ・サンジェルマン)が長く手にできなかったW杯の頂点。自身最後のW杯と位置付けていた今大会で優勝トロフィーをようやく手にした姿は、世界中に大きな感動を与えたことだろう。
ここでは、そんなドラマチックなラストを迎えたカタールW杯の中でも、印象深い10の出来事についてまとめていく。
「神の子」メッシの笑顔
王者フランスと激闘の末のPK戦を制し、36年ぶりの世界王者に輝いたアルゼンチン。選手たちが感涙にひたる中、少年のような笑顔でサポーターに手を振るFWリオネル・メッシ(パリ・サンジェルマン)の姿が印象的だった。バロンドール史上最多7度の受賞を誇り、世界のサッカー界のトップに君臨し続けた選手にようやく訪れたW杯での歓喜の瞬間。間違いなく後世まで語り継がれるものだったと言えよう。
「怪物」ムバッペの意地
カタールW杯は準優勝に終わった、前回2018年ロシアW杯王者のフランス。しかし、決勝での戦いぶりは王者の名にふさわしい粘り強いものだった。中でも「怪物」と呼ばれるFWキリアン・ムバッペ(パリ・サンジェルマン)の活躍は群を抜いていた。フランスは2点ビハインドのまま試合終盤を迎えるも、ムバッペが挙げた2得点で追いつき、アルゼンチンの追加点後もプレッシャーの中落ち着いてPKを沈め、決勝でのハットトリックを達成している。敗れはしたが、間違いなくアルゼンチンのFWリオネル・メッシ以上の活躍を見せたこの試合。「神の子」から「怪物」へ、サッカー界の世代交代を告げるような象徴的な1戦だったとも言える。
アフリカ勢の奮戦
W杯の主役はいつも欧州と南米。そんな常識を覆すほど、今カタール大会ではアフリカ勢の奮戦が多く見られた。セネガルの決勝トーナメント進出はもちろん、カメルーンはブラジルを、チュニジアはフランスをそれぞれグループリーグで撃破するなど、サプライズを起こしている。そんな中、何といってもアフリカ勢の躍進を象徴する存在となったのが、大会4位となったモロッコだ。無尽蔵のスタミナと攻撃の創造性、加えて規律と強靭さを兼ね備えたプレスによって多くの欧州勢を苦しめた活躍は、アフリカサッカーの強さを改めて世界に知らしめる結果を生んだ。
アジア勢の躍進
2002年の日韓W杯以降、久々のアジア開催となった今大会。残念ながら開催国として初出場を果たしたカタールは、グループリーグで勝利を挙げることができなかった。しかし、その他のアジア勢5チーム(イラン、サウジアラビア、オーストラリア、日本、韓国)は、間違いなく各グループリーグを混戦にした一因となったと言えるだろう。中でも見事グループリーグ突破を果たしたオーストラリア、日本、韓国のうち、日本はドイツとスペインを、韓国はポルトガルを下しての決勝トーナメントの進出となっている。次の2026年大会では、出場枠が現在の4.5から8へ大幅に増加する予定のアジア勢。今大会同様にW杯を湧かせるチームが多く出ることに期待したい。
C・ロナウドの涙
サッカー界が誇る英雄、アルゼンチン代表FWリオネル・メッシが優勝という形で有終の美を飾った今カタールW杯。しかし、対照的なもう1人の英雄の姿も印象的な大会だった。メッシと同様に世界のサッカー界を牽引してきたポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドは、37歳を迎え今大会が最後となるとの見方も強い中でW杯出場を果たす。しかし結果は準々決勝で大会屈指のダークホース、モロッコに負け敗退。涙でフィールドから去る姿が印象的だった。一方で、グループリーグのガーナ戦ではゴールを決め、史上初となるW杯5大会連続ゴールをいう金字塔を打ち立てた。記録にも記憶にも残る姿を見せたロナウド。史上最高と呼ばれるにふさわしい選手であることの証明にもなった大会と言えるのではないだろうか。
ネイマールと少年
今カタールW杯優勝候補筆頭との呼び声も高かったブラジル。しかし、結果的には準々決勝でクロアチアにPK戦の末敗れ、2大会連続でベスト8敗退となった。敗退が決まった試合の直後、悲しみに暮れるブラジルのエースFWネイマール(パリ・サンジェルマン)に駆け寄るクロアチアのユニフォームを着た少年がいた。勝利チームの家族としてフィールドへ入っていたその少年は、クロアチアのFWイヴァン・ペリシッチの息子だったが、ネイマールは少年の伸ばした手に応え握手。軽い抱擁を交わして去っていった。敗戦直後でありながら心温まるこの対応は、W杯という舞台のすばらしさとネイマールの人間性が垣間見えたワンシーンとなった。
ムバッペとハキミの友情
パリ・サンジェルマンのチームメイトであり、親友と呼べるほど仲が良いことでも知られるフランス代表FWキリアン・ムバッペとモロッコ代表DFアクラフ・ハキミ。両者は今カタール大会、準決勝の舞台で敵として相まみえることとなった。決勝進出をかけたこの試合。激闘の末2-0でフランスの勝利に終わるが、2人の友情は決して揺らぐことはなかった。試合後、ユニフォームを交換し抱擁。健闘をたたえ合い、友人として同じサッカー選手として敬意を払うことを忘れない美しい光景だった。
1mmで得た勝利
グループリーグ初戦でドイツを破り、W杯のダークホースとして名乗りを上げた日本。残念ながら2戦目を落とし、3戦目の相手はまたも強敵スペイン。ドイツ戦と同様に先制を許し、日本は窮地に立たされた。しかし、交代選手の活躍もあり後半早々に追いつくと、立て続けにMF田中碧が2点目を決め逆転。今大会2度目の大金星でグループリーグ1位突破を決めている。だがこのスペイン戦の2点目は、ゴールライン上で折り返したFW三笘薫のアシストボールがラインを割っていたのではないかと、試合中のみならず試合後も物議を呼ぶこことなる。結果VAR判定が示す通り、わずかにゴールライン上にボールが残っており1mmの奇跡を生んだ。
笑顔の退場劇
残念ながらグループリーグでの敗退となったカメルーン。しかし、グループリーグ突破をかける大一番となった第3戦で、ブラジル相手に勝利を収める快挙を成し遂げている。ネイマールを欠いた影響もあってか、ブラジルがなかなか得点を奪えない中迎えた後半アディショナルタイム。カメルーンの10番、FWバンサン・アブバカル(アル・ナスル)のゴールで先制。粘り耐え続けた「不屈のライオン」カメルーンが「王国」ブラジルに牙を剥いた。ところが興奮のあまりゴール直後にユニフォームを脱いだことで、アブバカルはこの日2枚目のイエローカードを受け退場を言い渡される。だが、歴史的勝利に向け価値ある得点を決めた10番は、笑顔でレフェリーと握手を交わしてフィールドを後にするという感動的なシーンを作った。
ドイツの抗議行動
ドイツはグループリーグ初戦の日本戦前、集合写真を撮る場面で全選手が口を隠すという変わったジェスチャーを見せた。ドイツを含む欧州の7ヵ国は、キャプテンが「One Love」という文言とハートマークの入った「寛容さ」「多様性」「反差別」を意味する腕章を着けて試合に臨む予定だった。しかし、国際サッカー連盟(FIFA)が政治的なメッセージを禁止するという規定などを理由に、着用した場合は警告処分といった通達を出したことで各国は着用を断念。ドイツの初戦でのジェスチャーは、このFIFAに対する抗議の意思を込めたものと言われ、話題になった。