2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!

■初めての体験

 ラウンド16を終えて帰国したおかげで新しい体験ができた。「ワールドカップ生中継を初めて見た」のである。

 日本初のワールドカップ生中継は1974年の西ドイツ大会。当時の東京12チャンネル(現、テレビ東京)が、西ドイツ対オランダの決勝戦を生中継したのだ。実況・金子勝彦アナウンサーと解説・岡野俊一郎の名コンビだった。

 ヨハン・クライフのオランダが開始早々にPKで先制するが、西ドイツもPKをもらって同点とし、ゲルト・ミュラーのゴールで西ドイツが逆転して優勝を決めた。

 しかし、僕はこの試合はオリンピアシュタディオンのゴール裏で観戦していたので生中継は見ていない。その後、NHKでワールドカップ生中継が行われるようになり、1998年のフランス大会に日本代表が参戦すると、ワールドカップ中継は高視聴率が取れるキラーコンテンツとなっていった。

 だが、僕は全大会を開幕から決勝まで現地で観戦していたから、日本での生中継を見たことが一度もなかった。だから、カタール大会準々決勝の4試合は、僕にとって生まれて初めての生中継観戦ということになったのだ。

 日本時間24時キックオフのオランダ対アルゼンチンとモロッコ対ポルトガルはNHKの地上波放送で見たが、早朝4時からのクロアチア対ブラジル、そして大会屈指の好カードイングランド対フランスは地上波放送がなく、ABEMA配信を見た。

 僕にとっては別に地上波でなくてもよいのだが、せっかくの好カードだというのに、地上波でもっと多くの人に見てもらいたかった。早朝の時間帯、電波も空いているだろうに、もったいない話である。

■素晴らしい準々決勝

 午前4時開始では試合を見るのはサッカー・マニアだけ。「だから地上波は必要なし」ということなのだろうか。

 もし、そうだとすれば、ABEMAでの配信はサッカー・マニア向けに深い解説付きで本当の面白さを伝えてほしかった。しかし、イングランド対フランス戦は解説に慣れていない現役選手が担当だった。

 地上波での一般視聴者向けなら選手目線の解説もいいが、イングランド対フランスのようなカードの配信にはプロ解説者による、もっと深い解説を付けてもらいたかった。

 僕は現地でイングランドの試合を3試合、フランスを2試合で見てきたから、両チームのメカニズムはよく理解できているので、配信を通じてでもゲームを堪能できたが、果たしてどれだけの人がこの試合の本当の面白さを理解できたのか、ちょっと心配だった。

 イングランド対フランスはとてもレベルの高い試合だった。

 両チームの中盤での緻密な戦術的駆け引き。豪華な個性豊かな攻撃陣。そして、キックオフからタイムアップまで、ある時間帯にイングランドが支配したかと思うと、次の瞬間にはフランスが切り返すという息をつかせぬ目まぐるしい展開。インテンシティーが高く、激しくぶつかり合うのだが、悪質なファウルのないフェアなプレー……。ただただ、感心するばかりだ。

 そうだ、ワールドカップではこういう試合を見たいのだ。

 非伝統国のレベルが上がり、いくつものアップセットがあった。そして、モロッコというノーマークの国が快進撃を開始。粘り強いクロアチアはPK戦という武器を携えて1勝4引き分けという成績でベスト4の座をさらっていった。

 日本代表が活躍し、日本の敗退後もついつい「日本だってこれくらいならやれそう」と、ついつい日本視線で見てしまう。しかし、やっぱりワールドカップでは伝統国同士のハイレベルな攻防を見たいのだ。

 しかし、48か国参加の次回ワールドカップは、これまで以上に水増し感が強くなってしまうんだろうなぁ!