【識者コラム】森保監督が戦術的な上積みができるかは大きなポイント

 日本代表がワールドカップ(W杯)で優勝する日はいつ来るのか。カタールW杯ではベスト16に進出したが、まだ優勝までは4試合で勝利を収めなければいけない。ここで歩みを止めず、さらにスピードを増さなければならないのだ。

 そのためにも次の4年間を誰に託すのか、非常に重要な決定となる。反町康治技術委員長は今回の日本代表について、チームに同行していた自身が書く「インサイドレポート」と、チームとは別行動のテクニカルスタディグループが提出する「アウトサイドレポート」を「合わせて検証」すると語っている。

 その過程の中で、次期監督に求められる資質が明らかになってくるはずだ。だが、それ以前にふんわりとした空気の中で「森保一監督の続投がいいのではないか」「外国人監督にすべきだ」という議論が進められ、いざ決まったあとに最初から反対意見の渦巻く中で次の日本代表をスタートさせるのは避けるべきだろう。

 ドイツ代表とスペイン代表という強豪国を破り、本大会での戦術的な幅を見せたことで森保監督の続投は既定路線のようにも見える。だがここで一度、森保監督への不安材料を挙げておくことは必要ではないか。そしてその懸案事項が本当に存在するのかどうかも考えておこうと思う。

 森保監督についての不安は大まかに次のとおりになるだろう。
1. 戦術的な上積みがあるのか
2. 海外でプレーする選手たちの信頼を勝ち獲ることができるか
3. 次の世代との融合を図れるか
4. スタッフの構成をどうするか

【1. 戦術的な上積みがあるのか】
 ドイツ戦後半からのシステム変更は劇的に試合展開を変えた。後半勝負というのは事前に共有されていて、その戦略どおりの勝利を収めたという点は高く評価されなければいけないだろう。

 また、スペイン戦では相手にシステムを読まれていたのにもかかわらず、選手交代で逆転勝ち。この試合での采配も見事と言わざるを得ないだろう。

 だが、問題はドイツ戦の前半だ。もちろんシステムは選手の構成とコンディションによってその機能が発揮できるかどうか決まってくるが、それにしても4年間作り上げてきた4バックがあれほどまでに混乱してしまうのは問題があった。

 できれば4バックにして守備に回る人数を減らし、少しでも中盤を支配したいという思いはあったはず。だが現実的な対応の中で3バックというよりむしろ5バックを選択し、カウンターに賭けなければいけなくなった。

 次の4年間で守備ラインを強化し、攻撃に特長のある選手を少しでも相手ゴールに近いところでプレーさせることができるようにすること、さらに中盤の構成力を上げてボール支配率を上げられるようにすることは必須だろう。

 そういう戦術の上積みが持てるかどうか、まずはきちんとしたコンセプトの説明が必要になるはずだ。

森保監督が「戦術の指示を与えていい」と見極められるかは未知数

【2. 海外でプレーする選手たちの信頼を勝ち獲ることができるか】
 現在、日本代表の中で主力になったのは海外組、しかも強豪チームで活躍する選手になってきた。選手たちはリーグ戦で相手をいかに圧倒して勝つかという戦いを続けている。

 ところが、日本代表で強豪と対戦する時は所属クラブでの戦い方とかけ離れた、耐えるプレーを余儀なくされる。当然のごとく選手にはストレスが溜まるはずだし、日頃自分が見せている良さを発揮したいと思うだろう。

 また、森保監督は8月2日にこんな発言をしている。

「日本人のほうがより規律があって、よりルールが明確で、とずっと思っていたが、ヨーロッパでプレーしている選手たちのほうがより役割を徹底するよう、監督やコーチからすごく指示を受けている」

「選手たちが普段やっていることに我々が近づいていくことで、選手たちは違和感なく戦いに臨める、そして我々が要望することを自然に受け止めて思い切ってプレーできるようにしていく環境作りはしていかなければいけない。日本人は何かやろうとしたらみんな察して自分ができることを見つけてやっていくことが多く、実はルール的には縛られていないことが多い」

 この発言の中には、海外での経験が長い選手に対しては、より細かく具体的な役割を指示したほうがやりやすいのではないかという点も含まれている。この点において全体の合意形成を行う森保監督の手法は戸惑いを生むのではないか。

 ただし、森保監督がこの4年間で取り組んできた「状況に応じて勝つためにどうしたらいいか、流れを掴むためにどうしたらいいかを選手が判断して選択できる」というチーム作りから言えば、森保監督の方法論を間違いとは言えない。

「選手は自分で判断ができるようになった」と「判断」し、より「戦術の細かいところの指示を与えていいのかどうか」を見極める力を森保監督が持っているか、その点については未知数だ。

次世代との融合、スタッフ構成も不安要素

【3. 次の世代との融合を図れるか】
 カタールW杯に向けたチームが発足した時に、最初の命題として存在したのは世代交代だった。

 その点で森保監督が恵まれていたのは、東京五輪の監督を兼任することで「1チーム2カテゴリー」というグループを形成することができたこと。いざ五輪世代の選手が日本代表に合流した時にそれぞれの特徴がすでに十分把握できていたのだ。

 だが、同時に2カテゴリーを兼任したせいで、スケジュールが重なった時は五輪代表の試合を指揮することができないなどの無理が生じていたのも事実だ。

 次期監督がパリ五輪にどのような形で関わっていくかは不明だが、開催が予定されている2024年にはアジアカップが日程を変更して開催される可能性もあり、深く関わることはますます難しくなるだろう。

 そういう状況のなかで世代の違う選手を融合させていくのは、今回以上に難しい仕事になる。

 また、かつては五輪をきっかけに海外を目指していた日本選手だが、現在は五輪前に海外移籍を果たしており、より選手の観察・発掘は難しくなる。むしろ日本代表監督はヨーロッパに滞在していたほうがチームの構想作りは進むかもしれない。

 つまり、今回のカタールW杯と、次回のW杯に向けて必要とされるスキルは違ってくることになりそうだ。その点も考慮するべきだろう。

【4. スタッフの構成をどうするか】
 クロアチアにPK戦で敗れた翌日、森保監督は報道陣から続投の可能性を問われて「この仕事は私1人でやってるわけではない」としてスタッフの重要性を強調した。

 だが、すでに上野優作コーチがFC岐阜の監督に就任するなど、それぞれが監督として指揮してもおかしくない。今回のコーチ陣が解体されるのは必至だろう。

 合意形成しつつチーム運営してきた森保監督にとって、このスタッフとどれだけの意思疎通が図れるか、そして役割分担ができるかは、成果を出すうえで必要条件となる。実際に海外から監督を招聘する時は、そのスタッフも全員連れてくることが多い。

 今後集めるスタッフで森保監督が思う存分に力を発揮できるか、新しい化学反応はどういう効能をもたらすのか、不透明だと言えるだろう。

 もっとも、全体合意を得意とする森保監督にとってみれば、ここで新しいスタッフを追加することでこれまでのチームに変化と進歩をもたらすというプラスの一面が生まれる可能性もある。

新監督を呼んでも不安要素はすべて解決できない?

【結論】
 ここまで森保監督の続投についての不安要素を挙げてきた。だがこの指摘は新たな疑問を生じさせることにもなった。

 それは「じゃあ、新監督を呼べばこの問題が全部解決できるのか」という点だ。特に重要なのは1と2になるだろうか。外国人監督に関して言えば、さらに「日本人の特性を知っているか」「コミュニケーションが上手くとれるか」という新たな懸念材料も出てくる。問題がなさそうだと考えられるのは、ハビエル・アギーレ監督ぐらいではないだろうか。

 そして、1と2についてのコンセプトがはっきりすれば、「森保監督の続投は難しい」という根拠は崩れてしまう。

 つまるところ、「未来は予想できないので森保監督続投でもいいんじゃないでしょうか」、という意見をぶつけられると否定できる材料はない。ドイツ、スペインに勝ってコスタリカに負けるという成績を予想した予言者だけが、この問題に決着をつけられる。

 ただ、それではこの記事の意味はなくなってしまう。ヤバイ。以上諸々考慮したうえで、続投は十分支持できると結論づけておく。(森雅史 / Masafumi Mori)