今や三笘はプレミアリーグの一つの目玉となっている。三笘が所属するブライトンがリーグの台風の目であり、そのブライトンの目玉が三笘だからだ。
【映像】三笘薫を止めることができるDFは存在するのだろうか
ブライトンは20節を終了した時点で7位につけている。首位のアーセナルとは勝ち点で17差。チャンピオンズリーグ出場圏内の4位ニューカッスルとは勝ち点8差だ。エリザベス女王の国葬と、鉄道ストライキの影響で2試合が延期されているブライトンは2試合少なく(延期の対戦相手は、12位のクリスタルパレスと17位のボーンマスだ)この2試合で確実に勝ち点を拾えばさらにこの差は縮まる。
残りの対戦相手に上位6クラブが全て残っているのも、可能性をさらに現実的にしている。28節~32節でのマンチェスター・U、トッテナム、マンチェスター・C戦の戦績次第で期待はさらに膨らんでいくだろう。その後36節に首位アーセナル戦が控える。
毎年プレミア残留を目標にしていたブライトンの今の順位が、決してフロックではないことをホームでのリヴァプール戦で証明して見せた。ホームの利や、ファンダイクの不在を差し引いても、その内容は圧倒的だった。ユニフォームの色が逆であれば、ブライトンがリヴァプールで、リヴァプールがブライトンだと見間違えても不思議ではなかった。
クロップは、試合前に「ブライトンは非常に厄介な相手だ。監督がデ・ゼルビに代わってポッターよりもポゼッションが上がるなんて誰が想像しただろうか?」と警戒のコメントを発していたが、懸念以上の出来をブライトンは90分間見せつけた。
ブライトンのポゼッションは独特だ。最終ラインがGKサンチェスと連携して後方からボールを回すのだが、対戦相手がそのパスコース全てを切る位置に立つと、ボールを動かさないのだ。ボールを動かすことで不利になるのなら、何秒でもボールを足元に置いておく。相手が焦れて少しでもボールを奪いに来ようとした瞬間にGKまで参加した数的有利を使って相手を剥がしていく。
もう一つの特徴は、わざと相手が食いつくようショートパスを自陣ペナルティー内で回すのだ。足元のテクニックに優れたマックアリスタやカイセドが降りてきて、ショートパスの楔に入る。そこにサラーやガクポが食いつこうとした瞬間に、ボールはダイレクトでサイドに回り、その後は高速でサイドのウインガーにフィードされる。
その後のボールの行先は右がソリー・マーチ。そして左が・・・、そう。三笘だ。もし両方のサイドを警戒された場合は、中央でララーナやファーガソンが楔として現れ、彼らを経由してサイドに渡る。一度三笘にボールが渡れば、あとは高い確率で相手DFを抜き去るので、中央はそれに備えてゴールマウスへ襲いかかればいい。
ボールが三笘に渡れば相手は危機に陥る。ボールを三笘に渡せばゲームを支配できる。三笘という存在がゲームのポイントであり、ブライトンの生命線となっている。ボールポゼッションの最終目標は三笘に渡すこと。
そして相手が三笘サイドに注意と警戒を置けば逆サイドのソリー・マーチが自由になる。リヴァプール戦でソリー・マーチが2得点あげたのもこの因果関係が成立している証拠と言えるだろう。
ハイプレスでボールを奪おうとして、薄くなったリヴァプールの後方ラインは、この独特のポゼッションでボールを運ぶブライトン相手に完全に翻弄された。チアゴ・アルカンタラは最後までゲームから消えていたし、ヘンダーソンやファビーニョはボールを触るよりボールを追いかけるためにピッチに存在していた。
分かり易く言えば「なすすべがなかった」のだ。
戦術家イタリア人監督デ・ゼルビが組み上げた、完全な勝利だった。
獲りにいけば剥がされ、引けば押し込まれる。どのやり方を取っても三笘にボールが渡ってしまう。
残りの20試合の対戦相手はこの戦術が完全に嵌っているブライトンにどう対処するのだろう?リヴァプールを崩壊させた戦術に対する策が無ければ・・・ブライトンはまだまだ勝ち点を積み上げるだろう。チャンピオンズリーグ出場(4位以上)はもちろんのこと、頂点を極めることも十分に考えられる。あの奇跡の優勝を遂げたレスターの再来となっても不思議ではないのだ。
それが実現したらなんと痛快なことだろう。レスターには岡崎がいた。そして今、ブライトンには三笘がいる。
(ABEMA/プレミアリーグ)