【インタビュー#3】ドイツ人指導者を直撃、カタールW杯で苦戦したドイツ代表を分析

 ドイツのケルンでさまざまな年代の育成指導者を歴任し、U-14までの育成統括部長を務めていたドイツ人指導者クラウス・パプストを取材。現在もケルンで育成指導者として数多くの選手と向き合っているパプストとともに振り返るカタール・ワールドカップ(W杯)の第3回のテーマは「ドイツ代表」だ。(取材・文=中野吉之伴/全4回の3回目)

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 2018年ロシアW杯で史上初となるグループリーグ敗退を喫していただけに、ドイツ代表がカタール大会に懸けた気合いは相当なものがあったはず。それが上位進出を果たすどころか、2大会連続でW杯グループリーグ敗戦になるとは、夢にも思わなかったことだろう。パプストはそんなドイツ代表の戦いぶりをどのように見ていたのだろうか。

「チームとして、何もかもが酷かったというわけではない。ピッチ上での現象を振り返ってみると、素晴らしいプレーが随所にあったのも確かだ。ただ、僕らは実際に起こったことを正直に、真摯に見なければならない。決勝トーナメントに突破できなかったのは事実だ。そして今大会ベスト4に進出した国と比肩しうるだけのレベルにあったかというと、そこまでではなかった。だから『たら』『れば』話をするのはフェアではない。メディアはそんな話ばかりだけどね」

 決勝トーナメント進出を果たせなかった最大の要因は、グループリーグ初戦の日本代表戦で1-2の逆転負けを喫したことだ。前半から圧倒的に試合を支配していたはずのドイツが、同点ゴールを献上後にあそこまでバタバタしてしまったのはなぜなのか。

「疲れはあったとは思う。自分たちで満足いく試合だったらそこまで疲れは感じないものだが、あの試合は悪くはないけどストレスが溜まる試合展開だったということはある。そしてあの試合において、どこまで圧倒的だったのかと言われたら、あれほどの決定機を生かせなかったことを含めて、実はそこまでではなかったんだ。

 試合ではいろんなことの兼ね合いで、いろんなことが起こる。試合終盤へ向けて心身の疲れが出てきていたところで、(DF)ニクラス・ズーレの個人戦術ミスが重なった。普段からCL(UEFAチャンピオンズリーグ)でプレーしているレベルの選手だが、日本陣内でのフリーキックでドイツの4バックが準備できていないというのはあり得ない。

 その直前にマヌエル・ノイアーがファインセーブを見せたシーンがあったよね。あのシーンでもドイツの反応が少し遅れ出していたのが窺えたけど、ドイツは対応できなかった。1秒でも足を止めたらああいうことが起こってしまうのがサッカーだ」

ドイツ代表の希望となる3人は? 「ワールドクラスの選手になれる資質がある」

 ミスからの失点は当然あり得る。ただ日本戦で堂安律による同点ゴールが生まれたあと、持ち直せないまま浅野拓磨に逆転弾を許したことがドイツサッカー界に重くのしかかっている。今後に向けて議論の1つとなっているのが中盤の構成だ。ドイツ代表には、アルゼンチン代表におけるエンソ・フェルナンデスやモロッコ代表のソフィアン・アムラバトのような選手がいない。

「ヨシュア・キミッヒは間違いなく素晴らしい選手だが、ボランチではない。バランスプレーヤーではなく、もっとオフェンシブな選手。最高レベルのインサイドハーフだ。バイエルン(・ミュンヘン)でもそうなんだが、彼のサポートができる選手が出てきてほしい。レオン・ゴレツカも素晴らしい選手だが、彼にしてもボランチではないんだ」

 ではドイツ代表で候補に挙がってくる選手はいるのだろうか。

「難しいね。現時点では…いや、いない。CLに常時プレーしているドイツクラブでこのポジションでプレーしているのは、ほとんど外国籍選手だ。挙げるとしたら、レバークーゼンのロベルト・アンドリヒ。ただ、彼にしてもワールドクラスと言えるかどうか。

 大きな問題だな。これも育成における取り組みに反映されなければならないところだ。子供たちはさまざまな特徴やキャラクターを持っている。時に枠をはみ出ているような子供たちもいるが、それを煙たがるのではなく、彼らの持つ特性をどうやったらポジティブに生かせるのかという視点で考えることがとても大切だと思うのだ」

 2024年にはドイツで開催される欧州選手権(EURO)が控えている。ドイツサッカー界にとって希望となるのはなんだろう? 忘れてはいけないのはドイツには優れた選手が確かにいるということ。ハンジ・フリック監督は、そうしたドイツ代表として起用できる選手の中でチーム作りをしていかなければならない。

「希望となるのはフロリアン・ビルツ(レバークーゼン)。彼が負傷から完全に復調してきたら、大きな戦力補強になる。ジャマル・ムシアラ(バイエルン)とともに、違いを生み出せるハイクオリティーの選手だよ。資質で言えば、カイ・ハフェルツ(チェルシー)もそこに加わってくるのだが、チェルシーでの現状は望ましいものではない。出場機会が十分ではない。いずれにしてもこの3人はトップレベルのワールドクラスの選手になれるだけの資質があるのは間違いない。それだけに彼らを中心としたバランスの取れたチーム作りを進めていくことが求められるだろう」(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)