サッカーのポジションの1つであるサイドバックを解説します。過去の有名選手や、日本代表の選手紹介、さらにはサイドバックに向いている選手の特徴を紹介します。
サイドバックとは?
4バック、もしくは5バックの最終ラインの左右のサイドに位置するのがサイドバックです。ディフェンダーながら守備だけではなく、攻撃の役割も求められる重要なポジションとなります。
ディフェンスの役割としては、自陣のサイドを突破されないようにしたり、クロスを上げられないような対応を行います。1対1の状況を食い止めることはもちろん、背後のスペースを与えないポジショニングも重要となります。
一方、攻撃時にはビルドアップに関わりながら、相手陣内の深い位置にまで駆け上がって味方をサポート。また連係やドリブルを駆使してサイドのエリアを攻略し、クロスを上げるプレーなどを行います。
サイドバックに求められるのは運動量です。90分に渡ってライン際でアップダウンを繰り返すことのできるスタミナや走力が不可欠です。
また攻守において1対1となる状況が多いため、目の前の相手についていく、あるいは相手をかわしていくスピードも必要です。もちろん相手を食い止める対人能力や、味方のシュートチャンスを演出する正確なクロスも求められる能力です。
サッカーでは選手が密集しやすい中央のエリアよりも、人数が少ないサイドのエリアを攻略することが重要となります。試合の主導権を握るためにも、サイドの攻防がカギとなります。攻守においてその役割を担うサイドバックは、とても重要なポジションということができます。
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サイドバックは司令塔?
かつてサイドバックは相手のサイド攻撃を食い止める守備の役割に比重が置かれていましたが、攻撃時には味方を背後から追い越すオーバーラップを繰り出し、クロスを送り込む仕事もこなすようになりました。
しかし、戦術が進化した現代サッカーにおけるサイドバックはサイドに留まるだけの存在ではなく、中央でのプレーも求められるようになってきています。
ビルドアップ時には、GKやセンターバックの選手からのパスをサイドの位置で受け、そのまま同サイドの縦方向にパスを出すのが一般的ですが、最近では中に絞ったポジションを取ることでボランチのようにボールを引き出し、司令塔の役割も担います。逆サイドに展開したり、ゴールに直結するスルーパスを出す選手も増えてきています。
また味方を内側から追い越すインナーラップという動きも一般化されてきています。同サイドの味方がワイドに開いてボールを受けることで生まれた中央のスペースに侵入。そのスペースでボールを引き出すことで、ラストパスやフィニッシュワークにも関与していきます。
もはやサイドバックは、「サイド」でも「バック」でもなく、戦況に応じてあらゆるエリアに顔を出し、あらゆる役割をこなすことが求められる時代になりました。その背景には、パスをつなぐために常に最適なポジショニングを取り、数的優位の状況を生み出す“ポジショナルプレー”という概念があります。
マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督をはじめ、最先端の戦術を操る監督たちはこのポジショナルプレーを実践しており、そのなかでサイドバックでありながら、様々な役割をこなすサイドバックには“偽サイドバック”という俗称があります。
この“偽サイドバック”の象徴的な存在は、ダヴィド・アラバ選手(レアル・マドリー)やジョアン・カンセロ選手(マンチェスター・シティ)で、“偽サイドバック”のような役割は“アラバロール”や“カンセロロール”と呼ばれることもあります。
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サイドバックで有名な選手・歴代編
カフー選手(ブラジル代表)
多くの名サイドバックを生み出しているのがブラジルです。ブラジルのサッカーはサイドバックが果敢にオーバーラップすることで、攻撃的なスタイルを実現しています。そのためこれまでにも攻撃力を備えたサイドバックが次々に輩出されています。
そのひとりがカフー選手です。ブラジルのクラブだけではなく、イタリアのローマやミランでも活躍した右サイドバックの選手で、スピードと献身性を兼ね備え、“右サイドの支配者”の異名を取りました。
ワールドカップには1994年のアメリカ大会から2006年のドイツ大会まで4大会連続で出場。長年に渡って“セレソン”(ブラジル代表の愛称)の右サイドに君臨しました。
ロベルト・カルロス選手
そのカフー選手と同時代に活躍したのがロベルト・カルロス選手です。右のカフー、左のロベルト・カルロスは当時のブラジル代表の最大のストロングポイントのひとつとなっていました。
ロベルト・カルロス選手の特徴は、なんといっても強烈な左足です。クロスだけではなく、ミドルシュートでもその左足は猛威を振るい、直接FKも大きな武器。その弾丸シュートは多くのGKを震え上がらせました。
ワールドカップでは2002年の日韓大会で優勝に貢献したのを含め、1998年、2006年と3大会に出場。長年在籍したレアル・マドリードでも多くのタイトルを獲得しています。
パオロ・マルディーニ選手(イタリア代表)
ミラン一筋のキャリアを歩んだ元イタリア代表のパオロ・マルディーニ選手も、歴史に残るサイドバックのひとり。センターバックにも対応する屈強な左サイドバックは、守備力の高さはもちろん、果敢な攻撃参加も特徴で、チームをまとめ上げるリーダーシップも兼ね備えていました。
ワールドカップには1990年のイタリア大会から4大会連続で出場。1998年と2002年大会ではイタリア代表のキャプテンを務めました。またミランではセリエA優勝7回、チャンピオンズリーグ優勝5回と黄金時代を築き上げました。
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サイドバックで有名な選手・現代編
ジョアン・カンセロ選手(ポルトガル代表)
今大会に出場しているサイドバックのなかで注目なのは、ポルトガル代表のジョアン・カンセロ選手です。マンチェスター・シティでプレーする28歳の右サイドバックは、グアルディオラ監督の求める役割をハイレベルに体現。サイドに留まらず中央にポジションを取り、組み立てに関与しながら、決定的な仕事もこなします。ポルトガル代表ではクラブよりもサイドでプレーすることが多くなっていますが、守備力も高まり安定したプレーを見せています。
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ダニエル・カルバハル選手(スペイン代表)
スペイン代表のダニエル・カルバハル選手も世界最高の右サイドバックのひとり。高い技術とハードワークを兼ね備え、攻守両面で安定感をもたらしてくれます。所属するレアル・マドリーでは5度のチャンピオンズリーグ制覇に貢献するなど、代えの利かない存在となっています。
トレント・アレクサンダー=アーノルド(イングランド代表)
攻撃的なサイドバックとしては、イングランドのトレント・アレクサンダー=アーノルド選手が世界屈指と言われています。正確無比な右足を備え、鋭いクロスで多くのゴールを演出し、直接FKでもゴールを陥れることができます。ただし、所属するリバプールでは重要な役割を担っていますが、守備面に課題を抱えており、イングランド代表ではまだ立場を確立できていません。
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サイドバックで有名な選手・日本代表編
相馬直樹選手
日本でも多くのサイドバックが活躍してきました。歴代の日本代表のなかでまず名前が挙がるのが、相馬直樹(そうま なおき)選手です。タイミングの良い攻撃参加が売りで、右利きながら左サイドバックとして活躍しました。日本が初めてワールドカップに出場した1998年大会でもメンバー入り。大会では日本が3バックを採用したため左ウイングバックでしたが、全3試合にスタメン出場しています。
現役時代は長年鹿島アントラーズでプレーし、黄金時代を支えたひとり。現在は大宮アルディージャの監督を務めています。
駒野友一選手
2006年、2010年と二度のワールドカップに出場したのが駒野友一(こまの ゆういち)選手です。豊富な運動量を備えサイドでアップダウンを繰り返し、鋭いクロスからゴールを演出。右足でも左足でも正確なキックが蹴れるため、両サイドでプレーすることができました。
2010年の南アフリカ大会では、ラウンド16のパラグアイ戦でPKを失敗し、悲劇の主人公となってしまいました。
クラブではサンフレッチェ広島を皮切りに、ジュビロ磐田、FC東京、アビスパ福岡でプレー。2019年からFC今治に在籍し、今季限りで現役を引退しました。
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内田篤人選手
若くして日本代表に上り詰めたのが内田篤人(うちだ あつと)選手です。初代表は19歳の時。以来コンスタントにメンバーに選ばれ、通算74試合に出場しました。
スピード溢れる攻め上がりと、攻撃の起点にもなれるパス出しにセンスがあり、ドイツのクラブに移籍してからは守備の強度も身に付けました。
ワールドカップには2010年と2014年大会でメンバー入り。2010年大会では出番はなかったものの、2014年大会では全試合で先発出場。その後は怪我に苦しみ、2020年に32歳の若さで現役を退きました。現在は解説者などとして活躍しています。
現在の日本代表のサイドバック
今大会の日本代表のメンバーのうち、本職のサイドバックは3人のみ。長友佑都(ながとも ゆうと)選手、酒井宏樹(さかい ひろき)選手、山根視来(やまね みき)選手です。
長友佑都選手
長友選手は身長170センチと小柄ながら強靭なフィジカルとスタミナを併せ持ち、果敢な攻撃参加から鋭いクロスを供給。1対1を確実に封じる守備力の高さも備えています。 長年、欧州で活躍し、日本代表でも15年に渡ってメンバーに選ばれ続けています。ワールドカップは2010年大会から4大会連続の出場。代表キャップ数は100試合超と、日本史上最高のサイドバックと言えるでしょう。
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酒井宏樹選手
酒井選手は、今回で3大会連続のワールドカップ出場となりました。高さと力強さが売りのサイドバックで、対人プレーに自信を持っています。また豪快なオーバーラップも売りで、ピンポイントで合わせる鋭いクロスも武器。長友選手と同様長年欧州でプレーし、強靭な外国人選手を相手にしても、その身体能力は引けを取りません。昨年日本に復帰し、浦和レッズでプレー。Jリーグでもパワフルなプレーを示し、圧倒的な存在感を放っています。
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山根視来選手
山根選手は今回が初のワールドカップ出場です。持ち味は攻撃力。積極果敢な攻撃参加からクロスでチャンスを生み出すだけではなく、中央のエリアに顔を出し組み立てに参加しながら、決定的な仕事もこなす現代型のサイドバックです。
2020年に川崎フロンターレに加入すると、攻撃スタイルを標榜するチームにすぐさまフィット。連覇に貢献し、自身も3年連続でベストイレブンに輝いています。
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サイドバックに合うスパイクは?
攻撃にも守備にも幅広くかかわるサイドバックだけに、スパイク選びは重要です。正確なクロスが求められ、何度もスプリントを繰り返せるスピードや、90分間に渡ってピッチを走り続けるスタミナも必要となるため、蹴りやすく、走りやすく、疲れにくいスパイクが適していると言えます。
ボールを正確に蹴るのは、軸足の安定性がポイント。そのためスパイクにはかかとのサポート性が求められます。またカーブをかけやすくなるグリップ性も重要になります。
スピードにポイントを置けば、加速力が高く、スピードを維持できるソール設計のスパイクが適しています。スタミナを重視するなら、足に負担にならない軽量で、衝撃を和らげるクッション性の高いスパイクがいいでしょう。
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サイドバックは下手な人のポジション?
かつてサイドバックは、下手な選手がやるポジションと言われていました。ボールに触る機会が少なく、ミスをしてもピンチに直結しづらいのがその理由です。求められるのはスピードやスタミナで、技術よりも体力自慢の選手があてがわれるポジションでした。
しかし、これまでにも説明してきたように、サイドバックの役割は多岐に渡ります。フィジカル的な要素ももちろん大事ですが、常にボールに関われるような良いポジションを取り、ビルドアップをこなしながら、司令塔としての役割も担い、高い位置に攻め上がってクロスだけではなく、中央のエリアに侵入し決定的な仕事もこなす必要があるのです。
実際にはボールに触れる機会も多く、ミスをすればピンチにも直結するだけに、ボール扱いに優れていなければ務めることはできません。今では「サイドバックはチームで最も上手い選手がやるべき」と主張する指導者もいるほどです。
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サイドバックに向いている性格は
ゴールを取ることが仕事のストライカーは、自己主張の強いタイプが向いていると言われますが、サイドバックに向いている性格はあるのでしょうか。
サイドバックは戦術を理解したうえで、オートマティックに動くことが求められるポジションです。ある意味で組織の歯車となる必要があり、自己中心的ではなくチームを機能させるために役割をまっとうできる利他的な精神が求められます。
攻撃にも守備にも関わるために長い距離を走り、味方をサポートしながら、相手を封じることが必要です。安定感も求められるため、常に冷静なメンタルも備わっていなければいけません。
つまり献身性や勤勉性、忍耐力といった要素がこのポジションでは大事になってきます。その意味では日本人に向いているポジションと言えるかもしれません。
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まとめ
ゴールに関わるFWや中盤に比べるとサイドバックは地味に映るポジションですが、その役割を考えれば、チームで最も重要なポジションと言えます。タッチライン際でハードワークをこなすだけではなく、最近では攻撃にも違いを生み出すテクニカルなタイプも増えています。彼らのスタイルやパフォーマンスでチームの戦い方は大きく変わってきます。決して目立ちはしませんが、チームの命運を左右するサイドバックのプレーにも注目してみてください。