“自粛拒絶”は人々を脅し続けた一部の専門家・メディアへの不信が背景に? コロナ報道はどこへ向かうべきか
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 政府はきのう緊急事態宣言の対象に7府県を追加。営業時短要請やリモートワークの推進が要請されている地域は合わせて11都府県に拡大している。しかし前回の発出時に比べ人流の減少があまり見られず、“コロナ慣れ”といった、危機意識の足りない空気感を表す言葉も飛び交っている。

・【映像】 コロナ患者を診る医師がメディアの"煽り報道"に問題提起

 12日の『ABEMA Prime』に出演した沖縄県立中部病院感染症内科副部長の高山義浩医師は「緩んでいるのは一部の人々であって、多くの人、特に高齢者は緊張して備えておられるはずだ。ただし、若い人たちに対するリスク・コミュニケーションの失敗は認めざるを得ないと思う。日本人の悪い癖だが、他人を脅かすことで従わせようとするところがある。特に春から夏にかけて一部の専門家やメディアが若者をあまりに脅かしすぎたと思うし、正しい情報よりも、誇張した情報を伝えたことも多かった。最初はうまくいっても、そういう情報発信は信頼を失っていくと思う。人々の行動にも、そういう不信感への反動があると思う」と指摘する。

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 「“コロナは風邪”と言っている人たちがいるが、それは自分にとって風邪だということだろう。後遺症の問題があるのでなめてかかってはいけないが、確かに20代、30代が死亡することはまず無いし、その捉え方も決して間違ってはいない。そうしたことも含め、新興感染症というものは分からないことが多い。一方で、メディアにはそこで“即答“をしてくれるような専門家を求めがちだ。そして、そのコメントが研究によってひっくり返されていく。その様子を見ている視聴者は、何が本当なのか分からなくなってくる。現場の医療従事者、あるいは患者さんなどの声も活かした報道をしていただけると、リアルなコロナ像が見えてくるのではないか。

 加えて、“ダブル・スタンダード”が一番いけないと思う。旅行はダメだと言いながら、沖縄でのプロ野球キャンプは大丈夫だと言ったりと、わけが分からない。メディアは“両論併記”の報道をしがちだが、それをもって責任を回避することなく、“本当にプロ野球キャンプはやっていいのか”のような、真実に肉薄する調査報道のようなに、筋を通した報じ方を期待したい」。

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 エッセイスト・タレントの小島慶子氏は「メディアの報道は人々のネガティブな心理を煽っただけ、ということでは決して無かったと思う。例えばマスクについて、不織布、ウレタンなど、どの素材のマスクがどの程度のウイルスの出入りを抑制するのか、といったことが報じられていたのはとても良いことだと思う。それによって、なぜマスクが必要なのかを理解した上で人々が着けるようになったのは報道のプラスの効果だった。今後も“なるほど、テレビで見て納得した”という動機につながるような、科学的事実に基づく感染拡大防止のための報道を地道にやっていってほしいと思う」とコメント。

 一方、大王製紙元会長の井川意高氏は「民間病院グループの経営者2人に、政府が出してくれるインセンティブについて聞いてみた。すると、“いくつかの病院はコロナ専門に変えた。そうしたら、1年で借金がなくなるくらい収益が改善した”と教えてくれた。しかし、“残りの病院もコロナ専門にしないのか”と尋ねると、“医師や看護師に無理強いはできない。そこはトップがこうやるぞと言えばすぐに動く民間企業とは違う”と答えた。何が正しいかは私にはわからないし、コロナ病棟で日夜努力されている医師や看護師の方々もいるのは確かだ。しかし飲食店にしわ寄せが行っている中、病院経営者や医療従事者の現場、実情に密着した報道がしているだろうか。そこは地上波の番組を見ていて疑問に思う」と指摘。

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 また、慶應義塾大学特別招聘教授でドワンゴ社長の夏野剛氏は「中国もオーストラリアもニュージーランドも、日本よりも強いことをやった。もし同じことをしていたら、今頃は“なんで強いことやったんだ”とギャーギャー言っていたのだろうし、今よりも弱めたら、それはそれで大騒ぎしていたと思う。僕はクリスマス前に緊急事態宣言を発出すべきだったと思っているし、今回の拡大も年末にはやっておくべきだったと思っているが、そうだとしたら今頃は“感染者は増えていないじゃないか”“中小企業はどうなるんだ、かわいそうだ”といった大キャンペーンをメディアが打っていたのだろう。しかし実際にはお金がばらまかれた結果、潤っている中小企業、飲食業の方だっていらっしゃる。そういう人は取り上げず、悲しい、大変だ、という人だけを取り上げる。大局的に見れば、今の姿こそ、世論が望んでいた経済との両立戦略の結果なんじゃないか。今のままでいいのか、修正すべきなのか、もっと強くすべきなのかを論じる時なのに、それが分からなくなってきているんじゃないか」と話した。

 議論を受けて、作家の乙武洋匡氏は「事実を伝えることと、事態を改善に向かわせるということが相反する場面があると思う。今、メディアはその“踏み絵”を前にしているのではないか。例えば著名人の自殺を大々的に伝えることがさらなる自殺を生むことに繋がるという“ウェルテル効果”が昔から指摘されてきたが、ようやく日本のメディアも去年くらいから意識するようになってきた。コロナについても、経済学者の大竹文雄先生が“自粛を守ってない奴がいる”と報じることが“だったら俺も”という人を増やしてしまう、という行動経済学の知見を紹介されている。にもかかわらず、“街には人が溢れている”とか、“こういう飲み屋さんがある”と報道してしまっていると思う。もちろん事実を伝えるのがメディアの仕事だが、それでも答えを出さなきゃいけない時期にきていると思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

コロナ患者を診る医師がメディアの"煽り報道"に問題提起
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