感染防止対策のため、観客数の制限などを行った上で試合を開催しているスポーツ界。そんな中、プロ野球の試合中、選手に対してかけられた厳しい言葉がクリアに響き渡ったことで、改めて競技とヤジの問題がクローズアップされている。
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■子ども時代からの習慣になっている?
サッカースクールを運営する傍らYouTuberとしても発信しているタツヤさんは、子どものころからスタジアムに足を運んできたサッカーファンの一人として、人格否定、悪口でなければ、ヤジも欠かせない文化だと主張する。「サポーターはお金や時間を削って応援に行くくらい人生を預けているから、“それかよ”となってしまっているんだと思う。サッカーが強い国ではヤジが激しいなと思うし、それも含めてやっぱり応援というのがプロのサッカー文化かなと思うし、それで選手がクソ!と思っても良いと思う」と主張。
一方、広島カープのファン歴37年で、娘たちとの親子観戦を楽しみにしているという角田千鶴さんは、「娘たちもカープファンに育ったが、後ろから怖いおじさんの“おどりゃー、すどりゃー”という声が聞こえると、怖くて観戦どころじゃなくなってしまう。それではもったいない」と話す。角田さんの子どもたちも、近頃では応援に行きたがらなくなってしまったといい、「頑張っている人を応援しに行っているはずなのに、個人的な見解で選手を責めるというのは本当に失礼だと思う。強く言うのは愛があるからだよと言ったところで、受け取る側の感じ方。バカとか、そういう汚い言葉はやっぱりダメだと思う」と指摘した。
大の阪神タイガースファンでピン芸人の山田スタジアムは「甲子園球場の場合、本当にベタな定番のヤジがある。7回の攻守交代のときにジェット風船を飛ばし、外野を守っている選手に向かって“おーい、お前も拾え”というものだ。周りの客にアピールしてウケを狙いに行くというヤジもあり、その時は選手に聞こえるかどうかはどうでもいい。そして、人を傷つけるものはヤジではなく罵声だと思っている。ちょっと笑えるというか。ちょっとひねったのがヤジだ」と話す。
また、テレビ朝日の平石直之アナウンサーは「小学校の頃に野球をやっていたが、みんなで相手を罵ったり、“バッタービビってる”などとプレッシャーをかけて結果を出せるか、みたいなところがあったし、そういうやりとりも面白味のようなところがあった。プロ野球でも、珍プレー集や好プレー集にそれでケンカになるようなシーンが入っていることもあったし、醍醐味のようになっていた」と振り返る。
■駒田氏「“過去にはあった”、と言わせてほしい」
では、ヤジを受ける側はどう感じているのだろうか。
元プロ野球選手の荻野忠寛さんは「僕もこんな顔なので、“笑ってんな!”とか“ふざけてるな!”みたいなことをずっと言われていた。気分的には良いものではないが、パフォーマンスが上がることも下がることもなかった」と振り返る。
しかし指導者となった今、懸念するのは子どもたちへの影響だ。高校野球やアマチュア野球でも厳しいヤジが飛び交う現状があるからだ。「“野球ってこういうものなのか”と思った子どもたちがヤジを言い始めるかもしれない。その循環をどこかで断ち切ることができれば、野球の価値、スポーツの価値ももっと上がると思う。やっぱりスポーツの根本、スポーツマンシップがないところにはスポーツはないと思っている」。
現役時代の観客との口論が語り草となっている元プロ野球選手の駒田徳広さんは「観客席までの距離が短い球場なら、ヤジは全部聞こえる。とくに僕は一塁を守っていたので、僕一人でヤジを担当していたようなものだ。“お前がいるから優勝できないんだよ。頼むから君だけはやめてくれ。もう引っ込んでくれ。次、打席立たないでくれ”とか、バントでストライク出したら“何で打たないんだよ。早く引っ込め”と毎日言われ、結果を残せなくなってしまうようになる。だから休みにテニスを見に行って、打つ瞬間に何も声が出ないのを、すごく羨ましく思っていた」と明かす。
「僕の場合は味方からのヤジが辛く、むしろ敵方にヤジられる分には奮起できるタイプだった。それでも甲子園球場でエラーすると、若い頃は外野と内野のトランペットがハモるような形になり、お客さんたちが何分間も“下手くそ、下手くそ”とコールする、あの孤独感。あれは敵であってもへこむ。ただ、荻野さんの話ではないが、小学校からの習慣のようなもので、傷つけようと思って言っているのではないと思う。“オラ、次もボールだよ”と言ってフォアボールをとったり、指導者が率先してヤジってしまったり。かわいそうなことだけれど、そういうことに子どものときから慣れてしまっていて、当たり前になっていた。
自分自身、お互い様だからと、相手をヤジっていた。35、6のベテラン選手のとき、21、2の相手のキャッチャーに怒ったこともあった。 かつてのヤジ合戦も、びっくりするくらい傷つくものだが、球場全体がそういう空気になっているので許せてしまう。今ここでバカと言われたら傷つくが、不思議なもので、あそこで何か言われている分には許してしまえる幅があった。ただ、“過去にはあった”、と言わせてほしい。最近では、“そういう環境でやるものではない”と教育しているので、今はずいぶんおとなしくなった。時々ヤジっている人がいると“敵に言うのはやめよう”という話が出てくる。だからコロナ禍で無観客になって聞こえてしまうことについては、あまり音を拾って欲しくないなと思っている」。
■「野球場というのは、“陽の空気”が流れているところだ」
一方、競技会場でヤジのないスポーツであるフィギュアスケートの安藤美姫は「曲が始まる前までにはシーンとしなければならないという暗黙の了解がある。逆にそこで声を出した人が叩かれるくらいだ。ただ、17の時から手紙やSNSでは“そんな容姿でリンクの上で身体の出る衣装を着るな”などの容姿の問題から入り、オリンピックで結果を残せなかったことについて、“日本の恥だ”“スケートをやめた方がいい”みたいなことを言われた。“死ね”という言葉も日常茶飯事で、周りでサポートしてくれる人や家族まで傷つけていた。失敗したということは自分でも分かっているので、そこについての意見はまだ受け入れられる。でも“分かってるよ”というもどかしさもあるし、それ以上のことを書かれると傷つく」と話す。
「野球も何回も世界一になっている競技だし、フィギュアもそうだ。強い競技の選手が多ければ多いほど、“勝つのが当たり前でしょ?”みたいな感じになり、誹謗中傷もより過激になると思う。愛があるからと言うかもしれないが、選手がどう受け取るか。それによってホームランを打てる、ゴールを決められる選手もいるかもしれないが、心が疲れてしまってベストパフォーマンスができなくなる選手もいる。誹謗中傷によって、命を落としてしまった選手もいる。やっぱりポジティブな応援の方が力に繋がるというのは、私自身がオリンピックを通して経験していることだ」。
元経産官僚の宇佐美典也氏は「まさに駒田さんに対して聞こえるようにヤジを飛ばしていた。満塁のときに駒田さんに出てこられると困る。だから頼むから出すなという意味で、“出てくるなー”“バカヤロー”と言って、とにかくモチベーションを下げようとしていた。今思うと、申し訳なかったなと思う」と明かすと、駒田氏は「敵からのそういうヤジは心地いいところもある」とした上で、次のように語った。
「野球だけではなくて日本全体がそうだが、“このミス許してやろうよ、みんなで”というのが下手くそになってきていると思う。許す、ということに対して、もうちょっとみんなの心が広くなって欲しいなと思っている。日本ハムが最初にやった、ストライクが入らないピッチャーに対して拍手してあげるというのはすごくいいことだと思った。やはり野球場というのは、日本もアメリカも“陽の空気”が流れているところだ。この空気感だけ大事にしてもらえればいいと思うし、笑えるようなヤジなど、ちょっとは緩くてもいいじゃないと思っている。ただし、許してはいけないものはこれから先もダメだ。そこはサッカーなどに倣い、他の人達が気を悪くするようなものは排除してもらった方が、みんなも気持ちよく応援できると思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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