財務省の事務方トップ・矢野康治財務事務次官が『文藝春秋』に寄稿した『財務次官、モノ申す 「このままでは国家財政が破綻する」』が話題を呼んでいる。岸田政権の経済政策や与野党の選挙公約について、“バラマキ合戦”と批判する内容だ。
実際、多くの政党が6万円から20万円の給付金の支給を謳っている状況にあるが、私たちはどう受け止めればいいのか。議論した。
■「財源の問題もある中、さじ加減をどうするのか」
日本テレビの元政治部記者の青山和弘氏は「過去の選挙で、給付金がこれほど公約として上がってきたことは無かった。やはりコロナ禍にぶつかったということが大きいと思う。“困っている人がいるから”ということが、ある意味で“免罪符”のようになっているのだろう。10万円の定額給付金を再びやるべきだという議論はあったが、ここにきて各党が一斉に“自分たちだったらこうする”と言い出したのを見ると、やはり選挙対策だと言われても仕方ない」と話す。
「これまで消費税が争点になったことはあったが、“増税しない”あるいは“減税する”と言っていたところが勝ったわけではなく、結局は“増税する”と言っていた自民党が勝った。今回も消費減税を公約に入れている野党もあるが、一度下げてもまた上げなければならないし、その時には消費の冷え込みといった大きなハレーションが起こることになる。給付金についても、払うだけなので約束しやすいのだろうが、仕事を失った人が新たに仕事を得られるとか、生活を元に戻すということとは違う。実際にお金を必要としている人がいることは確かだが、本当に一律の定額給付金がいいのかどうか、国民もきちんと理解しないといけないと思う」。
定額給付金の再給付をめぐっては、麻生前財務相などがその効果を疑問視し、度々否定してきた経緯もある。
「振込先の口座に一斉に10万円を入れるのは簡単なので、給付までのスピードも速い。しかし困っていない人、むしろ儲かっている業界や、株価の上昇で儲けた人もいる。銀行に振り込まれた給付金が使われなければ、そのまま口座に残ってしまうことにもなる。これが例えば“年収400万円以下”などと基準を設けようとすると難しくなる。“410万円のうちには来ない”と不公平感が出るので線引きの難しさもあるし、収入が少なくても多くの資産があるという人はどうするのか、という話も出てくる。
自民党の場合、今回の公約では困っている人や子育て世代を対象にするなど、一定の制限を設けようとしている。一方、公明党は“高校生以下全員に10万円”としているので、それこそ親の年収が1億円ある高校生にも給付されることになる。財源の問題もある中、その辺りのさじ加減をどうするのか、そこも争点になると思う」。
■「中間層については何も論じるものがないのか」
フリーアナウンサーの宇垣美里は「個人的にも貰えるのは嬉しい気持ちもあるが、選挙前にニンジンをぶら下げられているみたいな感覚を覚える。本当に必要としている人に手を差し伸べたいと思うし、時間に余裕がなかったり、情報が少なかったりする人たちがきちんと申請できたのか、方法も含めて考えた方が良いと思う」と指摘。
ケンドーコバヤシは「前回の給付金の時にも思ったことだが、本当にお金が必要な方々と、全く必要がない方々のことばかりが語られて、中間層については何も論じるものがないのかと思う。その意味では線引きしてはいけないんじゃないかなと思うし、金額や対象について議論するなら、財源をどう確保するのかも同時に言ってもらわないと」と懸念を示す。
青山氏は「消費税を下げた場合に漏れる人はいないが、給付金の場合は漏れるケースが絶対に出てきてしまう。前回は自治体側がフォローしたということもあり、約95%の世帯に給付されたということだが、やはり住民票がない方、それこそ路上生活者のような方々をいかに手当てしていくのか、そうしたところも考えなければならない」とコメント。
また、「中間層という意味では、例えば立憲民主党が“消費税5%”や、年収1000万円以下の人は所得税を1年間無税にすることを掲げている。年収1000万以下ということは、給与所得者の95%に上るので、効果は非常に大きい。しかし結局の所財源は赤字国債じゃないか、借金じゃないか、というところがあまりクローズアップされないまま、目先のことだけに国民も目が奪われてしまうと、将来どうなるんだ、ということになってしまう」と警鐘を鳴らした。
■「ベーシックインカムの議論をするチャンスではないか」
一方、専業主婦から外資ホテルの日本社長に就任した薄井シンシア氏は「各党の公約の中で、違うなと思ったのが日本維新の会の“ベーシックインカム”だ。私は給付金の額の話などよりも、“ベーシックインカムって何?”ということも含め、議論をするチャンスだと思う。しかしそういう話が全く聞こえてこないのが不思議だ」と指摘する。
テレビ朝日の平石直之アナウンサーは「本来であれば衆議院議員の次の任期が満了する4年先のことまで考えなければならないはずなのに、選挙が終わった直後に一回お金がもらえるかどうか、という話だけに飛びつくのは違うかもしれない。その意味では、ベーシックインカムはずっと一定のお金を、という性質のものだし、各党がどう考えているのか、ということも見たほうがいいと思う。オリンピック・パラリンピック直前の東京都議選が開催の是非の話になったのと非常に似ている気がする」とコメント。
青山氏は「失業保険や生活保護などの代わりに一定の所得を保障しましょうという制度で、システム全体を変える提案だ。もちろん、本当に困っている人はそれで救われるのか、あるいは国民全員に配るとなれば財源の問題も出てくる。そういうことも含め、議論したほうがいいテーマだ。もっと言えば、日本が抱える課題は決してそれだけではない。中台関係や、日本はそこにどう対応していくのか。首都直下型地震にどう備えるのか。コロナ対策だって慌ててやっているが、もともと感染症の問題が起こるかもしれないという提言が出ていたのに政治が無視してきたということもある。そういう中長期的な課題も踏まえ、どの政党に託すかを考えていかないといけない」。
■「メディアはどうしても分かりやすい方に飛びつく」
東京大学に在学中で、大学院への進学を予定しているフリーアナウンサー岡田美里は「学生の立場としては、もらったお金をどう使えばいいのか、という気持ちもある。それ以上に、コロナ禍で失われた時間をどうするのかと思うし、中高生や苦しんでいる大学生への支援を手厚くしてほしい」、薄井氏は「メディアの皆さんに言いたいのは、少子高齢化で、本当に外国人労働者を入れないとやっていけない国になっているのに、そこら辺の政策はどうするのかと聞いてほしいとうことだ」と訴える。
ライターの中川淳一郎氏も「このままでは、“多くあげるのが偉い政党”みたいな論調になりかねない。それでも一時の10万円だけを争点にして報じてしまう。もっと大局観を持って、彼らが何を言いたいのか、というところをきちんと報じてあげなくちゃいけないと思う」と指摘した。
平石アナウンサーは「報じ方を見ていると、自分はいくらもらえるのかとか、どっちに票を入れた方がたくさんもらえるのか、みたいな話になってしまっていると感じる。元々は私たちの税金でもあるわけで、ただそれが戻ってくるだけという部分もある」、青山氏も「視聴者がシンシアさんのように様々な問題に関心を持っていなければ視聴率が上がらないので、メディアはどうしても中長期的で重要な政策よりも、分かりやすい方に飛びつく。メディアも関心を持つ。そうすれば政治家も関心を持つというようなボトムアップ型になるよう、国民のリテラシーも問われることになると思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側