アメリカ出版社のDCコミックスは11日、「スーパーマン」の最新号で元祖スーパーマンのクラーク・ケントの息子、ジョン・ケントがバイセクシュアルだと明らかにした。公式サイト上では、すでにジョン・ケントが男性記者のジェイ・ナカムラと愛しげに見つめあう姿や、2人のキスシーンが公開されている。
この展開について、漫画「スーパーマン」の作者であるトム・テイラー氏は「この仕事のオファーを受けたとき、DCユニバースに新しいスーパーマンを登場させるなら、また白人の異性愛者にするのは機会の損失のような気がした」とコメント。「スーパーマンが自分自身に気づき『スーパーマンになる』という内容にしたい。これは本当に重要な違いだと思う」と語っている。
LGBTQ+の人たちを支援する「国際カミング・アウトデー」だった10月11日。今回の発表にどのような意味があるのだろうか。ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト・猿渡由紀さんは「理にかなっていると思う」と話す。
「以前のスーパーヒーローものは、主役は白人のストレート男で絶対に決まっていました。それ以外は考えられない、と。でも、ハリウッドの中でダイバーシティ、多様化、インクルージョンがどんどん進んでいく中で、そういう古い常識を壊していかなければいけないといった動きが、スタジオの中でも起こっているんです。そういった意味で、スーパーマンの息子がバイセクシュアルと聞いても驚きませんでした。ポリコレではなく現代のトレンドとして、理にかなっていると思います」
一方で、ネット上では「既存の人気キャラクターでやるのではなく、新しくそういうキャラクターを作ればいいのに」といった声も寄せられている。この意見について、猿渡さんは「ゲイのキャラクターを出すために新しいキャラクターを作ると、最初からみんなそこしか見なくなってしまう」と言及。
「人の中にはいろいろな要素があって、その中にゲイという部分がある。誰かの父親だったり、素晴らしい友人だったり、仕事ができたり、いろいろなことができる中の一つの要素。ゲイを出すために新しいキャラクターを作ってしまうと、最初からみんなそこ(ゲイの要素)しか見なくなっちゃう。私たちの中にすでになじみがあって『そんな側面があったんだ』と思うくらいが一番自然です」
また、作品を通じて、さまざまな人種、性的指向を持つ人たちを身近に感じることに、猿渡さんは「意味がある」と話す。
「黒人の子どもたちだってスーパーマンになりたい。『触らないで』というのではなく、スーパーマンが有名だからこそ、どんな子どもたちでもあこがれるものだからこそ、その子どもたちに『自分でも(スーパーマンに)なれるのかな』と思ってもらえることに意味があると思います」
BuzzFeed Japan News副編集長・神庭亮介氏は「多様性を意識したキャラクターの登場は良いこと」とコメント。その上で「ただ、ニュースとして『すごいでしょ!』とドヤ感を出さない方が良かったのではないか」と話す。
「タイミング的に国際カミング・アウトデーを意識した告知だと思うが、本来は“当たり前”であるべき内容。漫画を読んでいたら、さりげなくバイセクシュアルのキャラクターが登場して、『へえ、そうなんだ』と読者が気づく、というぐらいでいい。大々的なニュースとして『すごいでしょ!』感を出さない方が、むしろ良かったのではないか」
また、最近盛んに言われるようになった「価値観のアップデート」という言葉についても、こう指摘した。
「考え方の違う相手を『遅れてますね』『ついて来られないんですか?』と見下して、置き去りにするような『アップデート』は望ましくない。いたずらに分断を煽ることなく、みんながゆっくり、半歩ずつでも前に進んでいけるような材料を、エンタメが提供できるといい」
1938年に初登場し、多くの人に愛されながら、時代に合わせて、アップデートし続ける漫画「スーパーマン」。作者であるトム・テイラー氏も「数年後にはこれがニュースのヘッドラインにならない、Twitterのトレンドにならないことを祈るよ」と、“当たり前”のこととして認識される日が来てほしいと語っている。 (『ABEMAヒルズ』より)
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