“新スーパーマンはバイセクシュアル”に賛否…時代ごとに社会問題や価値観を取り込んできたアメコミの“変わる力”
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 アメリカの出版社『DCコミックス』は11日、『スーパーマン』の最新号で“元祖”スーパーマンのクラーク・ケントの跡継ぎとなった息子のジョン・ケントがバイセクシュアルとして描かれていることを明らかにした。

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 本作を担当した作家のトム・テイラー氏は「オファーを受けたとき、DCユニバースに新しいスーパーマンを登場させるなら、白人のストレート(異性愛者)にしては好機を逃すような気がした」と説明、「DCコミックスが同性愛者のスーパーマンを作り出したのではなく、スーパーマンが自分自身に気づきカミングアウトしたという形にしたかった。これは重要な違いだと思う」とも話している。

 時代の空気を作品内容に反映し続けてきたアメコミ。12日の『ABEMA Prime』では、学生時代に『月刊スーパーマン』に投稿するなどアメコミに詳しいライターとしても活躍する杉山すぴ豊氏に話を聞いた。

■「アメコミは時代ごとの感覚を反映させやすい」

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 日本のアニメ・漫画の場合、原作者に著作権があるのが一般的だが、アメコミの場合は出版社が権利を保有しているため、作家を変更しながら長年にわたり続編や新シリーズが制作され続けるという特徴がある。

 日本でもメジャーな『スーパーマン』の初登場も第二次世界大戦前の1938年で、長年クラーク・ケントの敵の多くが悪の組織や人物だったのに対し、ジョン・ケントが立ち向かうのは気候変動が原因の森林火災や難民の強制送還阻止などの社会問題だ。

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 杉山氏は「20世紀の初め、新聞の印刷技術が発達したことで“輪転機を放っておくのはもったいない、雑誌を作ろう”ということになった。そして漫画は小説よりページ数が少なくて済むということから、安価で楽しめるものとして出てきたのがアメコミだ。アメリカは若い国なので、アーサー王のような伝説やヤマトタケルのような神話がない。そこをアメコミ、そしてスーパーマンが代弁してきたのだろうという見方もある。私もそういう側面があったと思う」と話す。

 「日本で言えば、例えば『鉄腕アトム』は手塚治虫先生、『サイボーグ009』は石ノ森章太郎先生の価値観や正義感で作られている。一方、『スーパーマン』に関しても“真実と正義を守る”というコンセプトは変わらないものの、第2次世界大戦時にはナチスを倒すこと、21世紀の今はマイノリティに対するヘイトクライムに立ち向かうことが、“真実と正義を守る”ということになってくる。アメコミの場合、そうした時代ごとの感覚を反映させやすい。

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 中にはスーパーマンがクリスマスに西側諸国で余っている食糧を貧しい国に届けるというエピソードもあった。その過程で、アメリカのことを嫌う国から攻撃を受けたスーパーマンが“1人の超人が頑張ったところで世界は変わらないんだ。みんなが飢餓とかで助け合いをしなければ絶対にダメなんだ”というセリフが私は大好きだ。また、『マーベル』のヒーローである『キャプテン・アメリカ』の場合は第2次世界大戦中に登場したが、現代に蘇った作品では“果たして今のアメリカは、僕が信じていたアメリカなのだろうか”と悩みながら活動する。

 そのようにしてアメコミは時代の価値観を反映させながらアップデートしてきたし、今も新しい流れを生み出そうということで、LGBTQの問題や環境問題と戦うことになっているのだと思う。例えば公開中の『シャン・チー』で出てくるアジア人のヒーローは、コロナ禍でアジア人へのヘイトクライムが多発しているということも意識しているのだと思う」。

■「“ガラスの天井”が存在するということだと思う」

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 アメリカ社会の変化がエンターテインメントに与える影響はアメコミだけにとどまらない。杉山氏が指摘する通り、すでにハリウッドでは様々な人種や性的指向の登場人物が登場するようになっている。あのアカデミー賞も、2024年からは作品賞の授賞作品に多様性を重視する新たな基準を設け、キャストやスタッフのうち、女性や性的少数者の占める割合も審査されることになっている。

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 専業主婦から外資ホテルの日本社長になった薄井シンシア氏は「私は娘と一緒にマーベルのコミックスを読んできたが、女性だけの島から出てきたキャラクターである『ワンダーウーマン』の設定が先に変わるのではないかと思っていた」とコメント、一方、ライターの中川淳一郎氏は「私は80年代後半〜90年代前半にアメリカに住んでいたが、同性愛者の男性のことを“fag”と呼んで蔑んでいた。それが変わってきたということだろうか」と疑問を投げかける。

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 杉山氏は「『ワンダーウーマン』は女性のスーパーヒーローの先駆けで、存在自体が画期的だったし、フェミニズムの象徴みたいなところがあった。ただ、子どもも触れる文化の中に同性愛が出てきてもいい、という風潮になったのは最近のことだと思う。例えば60年代に『バットマン』のテレビドラマが放映されたが、バットマンがロビンと同じベッドで寝ていることについて、不健全だと保護者に叩かれた。そういう時代には表立って表現しづらかったということもあると思うが、今ではテレビドラマで白人と黒人のカップルや同性愛のカップルが当たり前のように出てくるし、『007』のQも同性愛者だったりする。そういう時代になったんだなと感じている。

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 例えば“ブラック・ライブズ・マター”の運動があるが、『キャンディマン』というホラー作品を見ると、アメリカの黒人にとっては白人警官に尋問される方がモンスターに襲われるよりも怖い、というような描写も出てくる。アメリカに住む黒人の方々がどれだけ大変な思いをしているのか、日本人にはなかなか分からないし、男性であれば女性がどれだけ大変な思いをしているか、やはり分からない。その意味では、これくらいやらなければ変わらない、“ガラスの天井”が存在するということだと思う」との見方を示した。

■「今までのファンの方を裏切るということはない」

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 前出の作家、トム・テイラー氏は「数年後にはこういう内容がニュースの見出しになったりツイッターのトレンドになったりしないことを願う」とも話している。

 一方、一部のファンからは「テーマを前面に出しすぎていて楽しくない、疲れる」「LGBTQで過去の作品を塗り替えてるだけで新しくない」との声もあるという。番組の視聴者からは「バイセクシュアルはいいけどキスシーンは必要?」「やるなら別のヒーローでやればいいのに」「なんで既存の作品でやるんだろうね」「自分の好きな作品の主人公がある日突然、大きく変わってしまうのはある意味ファンへの裏切り」といった疑問の声も寄せられた。

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 フリーアナウンサーの宇垣美里は「シスジェンダーでヘテロセクシュアルの人がキスシーンをしていることに違和感を覚えたことはないし、何が問題なのか分からない。むしろクリエイターも含め、今まで自然にいた方々が作品に出てこなかっただけだ。スーパーマンの息子が青年になり、自分の性的指向を自覚するのは当たり前のこと。そんなに無理のある描かれ方かしら?と思った」とコメント。「スーパーマンが両性愛者だというだけでこれだけのニュースになるということが、一般の方がカミングアウトすることの大変さを表していると思うし、だからこそこうやって作品が描くことに意味があると思う」と話す。

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 アメコミを昔から読んできたというケンドーコバヤシは「僕が読み始めたのは30年ぐらい前だが、特に差別問題はマーベルもDCコミックスも描いていて、ヒーロー側が差別される対象だったり、逆にヴィランが差別されたからこうなったといった設定が盛り込まれていたりする。『アクアマン』や『サブマリナー』のように海をテーマにした作品は環境問題も描いている。一方で、こういう新しい価値観や多様化の話が出た時に違和感を覚えるのは、元々あった価値観を否定する、駆逐するような論調が出てくること。セクシーな女性が好きな男性、あるいはマッチョな男性に抱きしめられたい女性もいるはずで、そういう“王道”だった価値観を表明することで肩身が狭くなってしまうのはおかしいと思う」と指摘した。

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 杉山氏は「当然、今までのスーパーマンを好きだった人もいるので、変えてはいけない部分もある。その意味では、今までのスーパーマンはスーパーマンのままで、その子が両性愛者という話だ。これまでも平行世界には黒人のスーパーマンがいたり、ソ連に落っこちて社会主義のために戦うスーパーマンがいたりと、いろんなバージョンがあった。僕はその中の一つということだと思う。数年前、『スパイダーマン』に黒人のキャラクター、マイルズ・モラレスが登場した時にも“スパイダーマンが黒人になる”と大きなニュースになったし、今回も朝日新聞が取り上げているのを見て驚いたが、今までのファンの方を裏切るということはない。

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 そしてこれは受け売りだが、スーパーマン自体、宇宙からやってきた。つまりは移民や難民のメタファーだし、それをアメリカは受け入れていく、ということの象徴でもあると思う。その意味では、スーパーマンがその時代のアメリカの新しい希望を見せるということは間違ってない。もちろん、やっぱり活劇なので、恋愛要素がメインに描かれることを心配している人もいるとは思うが、それはこれからの話だ」。(『ABEMA Prime』より)
 

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