『衆院選、若者が最も関心あるのは「ジェンダー平等」だった。』。
投開票を前に『ハフポスト日本版』が『NO YOUTH NO JAPAN』と共同で実施したアンケート調査を元に配信した記事のタイトルだ。30歳未満を対象に「特に積極的に取り組んでほしい社会課題」を尋ねたところ、「コロナ対策」を抑えて1位になったのが、「ジェンダー平等(選択的夫婦別姓など)」だったのだという。
【映像】「余裕ある人の趣味」? アンケートでの優先順位、なぜ結果と乖離?
一方、時事通信社の出口調査(全世代が対象)によれば、「投票で最も重視したこと」として上位に並んだのは「景気・雇用」「コロナ対策」「年金・介護・医療」で、ジェンダー平等や気候変動は入ってはいなかった(ただし選択肢にあったのかなど、設問の詳細は不明)。
加えて開票結果を見ても、立憲民主党などに比べてジェンダー平等を積極的に掲げたとはいえない自民党が絶対安定多数の261議席を確保。出口調査でも10〜20代の実に40%以上が比例代表の投票先として自民党を選択していることが分かっている。
こうしたギャップは、一体どこから生まれたのだろうか。
■心斎橋や道頓堀で“好きな野球チーム”を聞いたら、みんな“阪神タイガース”と答えた、というのと同じ
『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏は「ネット上では声の大きなマイノリティが騒いでいるので割と大きな問題に見えるだけで、一般社会の中ではジェンダーについて語っている人はそんなに多くはない。その違いが出たという、当たり前の結果だと思う」との見方を示す。
今回の衆院選で野党の推薦を受け初当選した元新潟県知事の米山隆一氏も開票後、「ジェンダー平等や気候変動も出し続けていいと思います。但し出す順番としては、(1)経済(2)福祉(3)ジェンダー・気候変動だと思います。(3)を1番に打ち出すと、「余裕のある人の趣味」に見られてしまうので。」、さらに「私は経済も福祉もジェンダー平等も気候変動も人権も等しく大事だと思いますが、自分の発する言葉がどう捉えられるかは意識して話すべきだと言っています」などとツイート、賛否両論を呼んでいる。
英キングス・カレッジ・ロンドンで学んでいる堀口英利さん(23)は、「ひろゆきさんと米山さんがおっしゃった通りだな、という肌感覚がある」と話す。
「“ジェンダー平等や気候変動対策が大事ではない”と考えている方はあまりいないと思う。ただ、残念ながらそれらがトップ・プライオリティの課題だと考える方は、やはり余裕のある方が多いというのが、自分が活動している中で感じている現実だ。新型コロナウイルス感染症によって苦しい方が増える中でジェンダー平等を持ってきても、“ちょっと待ってくれ”と思う人の方が多いと思う。やはり調査対象に偏りがある中でアンケートを取ればこうなるし、それは例えるなら、心斎橋や道頓堀で“好きな野球チームは?”と聞いたら、みなさんが“阪神タイガース”と答えた、というのと同じだと思う。
アンケートを取ったのはもともと米国で保守系メディアに対抗して作られたリベラルな媒体と、都市部の高学歴エリートのメンバー、お金のあるメンバーも多い団体だ。“あなたたち、意識が高いよね”と批判されることもあるが、誤解を恐れずに言えば、お金がなければ活動ができないのが現実だし、そのようなメンバーが情報を拡散すれば、必然的に“学費、税金よりもジェンダー”というような方々に浸透してしまうということだ」。
堀口さんの話を受け、歌舞伎町に集う若者への取材を続けている大学生ライターの佐々木チワワさんは「大学生のTwitterを見ると、確かにジェンダー問題に関心のある子もいるが、そういった子たちをフォローしていった結果レコメンドされていくものによって意見が偏ることもあるだろうなと感じている。一方、歌舞伎町の若者たちのTwitterを見ていると、ジェンダー平等などの話は出てこない。そういう分断が起きていると感じる」と指摘した。
■“就職で有利になるかもしれない”といった自己顕示欲、出世欲のある人がいないと言えば嘘になる
さらにひろゆき氏は「社会を良くしようと思っているはずだが、現実を見ていないような結果を出すことで、“おかしなことを言ってるぜ”、“この人たちの言うことを聞くのはやめよう”とマイナスの影響を与える方向になってるのでは?」と問題提起。「高学歴だから勉強はできているんだと思う。ただ、他の世論調査ではジェンダー平等の優先順位は低いという明確な事実がある。その事実を事実として受け止めることができないというのは、狂信的だ」と批判した。
堀口さんは「本音を申し上げると、先鋭化してしまっているというか、自分たちの言っていることが正しいから周りが反発しているんだ、みたいに強がっている部分がないと言えば嘘になるし、そういう“認知の歪み”が界隈で発生してしまっているという現実はある。そこに対して批判されたり、あいつら危ないよね、怖いから避けておこうといった意見が出てきたりするのも、それと自然なことなのではないか。そこに関しては率直に受け止め、勉強していかなければならない気がする」と応じた。
ひろゆき氏は一般論として続ける。「“進歩的なキャラ”であることを表に出すのが“おしゃれ”だ、という風潮もあると思うし、“ゲイに理解のある私って進歩的でしょ。ゲイの友達ほしいよね”と、人間をアクセサリーのように使おうとする人たちもいると思う。仲の良い人が友達なのであって、“ゲイの友達”などとカテゴライズしている時点でおかしいのに、それが分からないような人たちもいるのではないか」。
堀口さんは「もちろん、そうではない純粋な方々もいる。去年、BLM(ブラック・ライヴズ・マター)という運動が話題になった。黒人の方々も含めた有色人種の方々、人種的マイノリティの方々の人権は大事だ、生命は大事だ、という根底は共通しているはずだが、“BLMをやっている自分たちはかっこいい、すてきだ”、“就職で有利になるかもしれない”といった自己顕示欲、出世欲のある人がいないと言えば嘘になると思う。一定数、そういう方もいるだろうなというのが肌感覚だ」と明かした。
■謙虚に進めないと、“パンがなければケーキを食べればいいじゃない”みたいな物言いに聞こえてしまう
アイドルグループ「アンジュルム」の元リーダー・和田彩花は「確かにキラキラした、おしゃれな感覚でジェンダー問題を扱っている人もいると思うが、私は本気で取り組んでいるので、厳しい現実だなと思って聞いていた」と残念そうな表情を見せる。
「アイデンティティに関わる問題で、外に一歩出ただけで不自由さを感じている人もいるわけで、それを“余裕のある人の趣味”だとはどうしても思えない。ただ、“お金に困っていないからなんじゃないか”という部分は、私たちが気づいていなかった特権みたいなものがあったのかもしれないと思った。そこは自分も反省しつつ、反感を買っているという部分についての現状認識を考えていくことが必要だと思った。
ジェンダー平等の問題は今回の選挙期間の前から盛り上がっていたという感覚があったし、みんなが本を読んで勉強して、独特な言い回しや専門的な言葉も理解した人たちがSNSを通じて声をあげていったからこそ、大きくなっていったんだろうなとも考えていた。ただその根底には、“言葉にできる”という特権もあったと思う。言葉にできる立場の人たちは、言葉にしにくい立場にいる方の意見も取り入れて発信していく流れができていくといいなと思った」。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「社会運動に関わっている人たちのスタンスが本物なの?どうなの?という周りの視線に対してはちゃんと向き合わないといけないが、“余裕のある人の趣味”という言い方をするのはダメだ。社会問題と向き合う時に最も大事なのは、“他人の痛みを勝手に見積もるな”ということ」とした上で、次のように訴えた。
「それから政策に優先順位を付けなければならないという話に関して言うと、経済政策や福祉政策は難易度が高く、実現力が全てだ。特に経済政策なんてこの30年、誰も上手くやれなかったから今があるわけだ。実現力で言えば与党に比べて低くなる野党が分かりやすい対立軸を作ろうした結果、ジェンダー平等の話が出てきたんだと思う。実際、自民党はジェンダー平等の優先順位を下げていた。
加えて、時事通信の出口調査を見ると、3番目に「年金・介護・医療」、そして4番目には「子育て・少子化」が来ている。これは10年前、20年前の“意識が高い人”たちが指摘し続けた結果だと思うし、先々の最重要テーマになるかもしれない。つまり「ジェンダー平等」
の話も、1位になる前の論点について声をあげていくプロセスだと見ることもできると思う。
そしてジェンダー平等の話は、決してマイノリティだけの話ではない。ジェンダーというのは全員が関わる話だ。その意味では、声を上げている人たちが他の人々を巻き込めていない、手法の問題もあるかもしれない。当事者が当事者性を持って社会問題に関わる場合は極めて主観的で、バランスに偏りが生じがちだ。だからこそ第三者が関わり、調整することが大事になってくる」。
安部氏の話を聞き、テレビ朝日の平石直之アナウンサーが「マイノリティの問題をマジョリティの問題にするためには、あまり興味を持っていない人も巻き込む必要があるし、誰しもマイノリティの部分を持っているとも言える」と話すと、堀口さんは「ここにいる我々だって、こうして意見を言えるという意味ではマジョリティかもしれない」と賛同。
「逆に私は潰瘍性大腸炎を患っているし、群馬県高崎市という地方出身者なので、上京して最初に大学に入った時には苦労もした。そういう、それぞれの人が持ち合わせているマイノリティ性と同時に特権性、マジョリティ性、強者性というものを自覚し、謙虚に議論を進め、アクションしていかないと、“パンがなければケーキを食べればいいじゃない”みたいな、単なる上からの物言いに聞こえてしまうと思う」。(『ABEMA Prime』より)
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