両親の前やYouTubeでは笑顔で話せても、大好きな友達に話しかけられない…「場面緘黙症」に悩む母子
話したくても話せない"場面緘黙症"とは?
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 「またね〜!ゆっチャンネルまた見てね〜!」。YouTubeチャンネル「ゆっチャンネル未来へ向かって」で快活に語りかける、ゆいちゃん(6)。しかし家族以外の場所では言葉が出てこない不安障害「場面緘黙症」を抱えている。

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 話す能力はあるものの、学校や職場など、特定の場面で不安や恐怖を感じて話せなくなる場面緘黙症。実際、『ABEMA Prime』の番組スタッフが自宅を訪ね、年齢や将来の夢などについて話を聞こうと語りかけるが、ゆいちゃんの表情は固く、返答はない。ところがスタッフが部屋から離れ、母・鈴木さん(仮名)と二人きりになると、YouTubeで見せていたように「モデルさんになりたいの。だって、人前でダンスできたもん」と笑顔を見せた。

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 幼い頃から誰かが遊んでいるところへは行かなかったり、誰かが来ると逃げてしまったりするような傾向があったというゆいちゃん。保育園の卒園式のときに撮影した映像でも、他の園児が大きな声で歌う中、全く口を開かないゆいちゃんの様子が収められている。今でも親と離れた瞬間、話ができなくなってしまうといい、それは祖父母など、親戚の家であっても同じだという。

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 「私がそばにいれば多少はいいが、やはり家から一歩出た瞬間から、緊張が顔や体に出てくる。学校で友達を作りたいと言っているが、お喋りができていない状況だ。先生にも配慮してもらって、教室での席を友達になりたいと言っている女の子の隣に移してもらった。その子も“ゆいちゃんは私の友達だよ”と言ってくれたらしく、嬉しくなって付いて行っているが、やはり自分からは話しかけられない。2人の様子を見ていても、本当に友達なのかなと思ってしまう」(鈴木さん)。

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 鈴木さんが場面緘黙症という症状を知ったのは、3年前、『ABEMA Prime』が当事者を取り上げた映像を見てからだという。それまでも娘に“恥ずかしがり屋”以上の違和感を感じていたといい、診察を受けた結果、場面緘黙症と診断される。「それまで、“ちゃんと喋ってくれ”とか“なんで喋んないの?”とか言っちゃったこともあった。プレッシャーを与えてしまっていたと思う」。

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 少しでも早く子どものSOSに気付いて欲しいと始めたYouTubeチャンネル。最近ではこうしたオンラインでのコミュニケーションが、ゆいちゃんにとって一つの突破口になるのではないかと考えている。「私がZoomとかで喋っていると、初対面の人にも“こんにちは”と言える。YouTubeも含めて、オンラインを通して喋るということを探っている状態だ。話せないだけで未来が決まってしまうとは思っていないので、いろんなことをやらせてみて、そのなかから何か広がっていき、生きていける道を見つけられたらいいなと思っている」。

■理解と同時に、適切な関わり方を

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 場面緘黙症について研究している長野大学の高木潤野教授は、小学生の500人に1人、もしくはそれ以上が当事者ではないかと推計。早い段階から対応していくことが大切だと指摘する。

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 「幼稚園、保育園に入学した後など、おおむね幼児期に発症することが多いので、早ければ早い方が良いと思っている。それによって、適切な対応も可能になる。
ただ、すごく恥ずかしがりの子や、人見知りの延長みたいな子もいるので、場面緘黙なのかどうか、明確に分けづらい部分があると私も感じている。ただ、鈴木さんの話にもあったように、周囲の大人がなんとか挨拶させようとしてしまったり、何かをもらった時などについ“ありがとうは?”などと言ってしまったりする場面が出てくる。しかし子どもとしては怠けているわけではないし、親が子育ての責任を放棄しているわけでもない」。

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 元経産官僚の宇佐美典也氏は「小学校の時、今から思えば場面緘黙症ではないか、という同級生がいた。しかし当時は“あいつは何なんだろう”と、いわば“異物扱い”をするのが卒業まで続いてしまったし、今でも同級生と会うと、“あいつ何なんだったんだろうな”という話になっていた。そういう意味で、番組で取り上げてくれたこと、こうして鈴木さん母子が出演してくれたことに本当に感謝したい。その上で、なんらかの依存症の場合、当事者やその家族たちが苦しみを共有したり、解決策を模索したりするために、自助グループのような形で集まることがある。場面緘黙症の場合はどうなのだろうか」と質問。

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 高木教授は「10年ほど前までは、当事者のグループや、親の会のようなものが全国でも片手で数えられるぐらいだったのが、ここ数年で急速に増えてきている。それでも全ての都道府県にあるわけではないので、身近に話し合える仲間がいないという方もいっぱいいらっしゃるかなと思う。それでも保護者同士で話ができたり、アドバイスをもらったりできるとすごく安心できるし、一緒に頑張っていこうと勇気づけられる。そのような力はすごく大きいなと思う」と回答。

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「場面緘黙症に限らず口下手な人というのはどこにでもいるし、逆にオンラインやテキストでのコミュニケーションではものすごく饒舌になるという人もいる。コミュニケーションのあり様そのものが多様化しているわけだし、同じ場面緘黙症でも、当事者によって症状に様々な違いがあると思う。それらも多様性の一つとして、社会が受け止めていけばいいのではないか。大切なのは、このような症状を抱えている人がいるということを、まずきちんと認識することだ。それがないから、“なんで喋らないの?”と無理強いをして、どんどん苦しくさせてしまうわけだ」と指摘。

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 高木教授は「これまでも支援の必要性などが認識されてこなかったというわけではないが、現時点でも一般の方にあまり知られていないということもあり、やはり“大人しいし、迷惑はかけないから”とか、“教室から出て行ってしまうこともないし”ということで教育の現場でも後回しにされてしまっていた部分はあると思う。また、場面緘黙の症状といっても本当に多様で、担任の先生とは話せるという子もいれば、先生とは話せないが友達とは話せるという子もいる。本当に違いがあるということだ。そして、話せなくても許容する社会であってほしいというのはそのとおりだと思う。ただ、場面緘黙というのは、適切な関わり方をしていくことで改善させていくことができる。ゆいちゃんの場合も、家ではいっぱいお喋りできるというのが本来の姿であって、それが発揮できなくなってしまっている状況を解消するためには、少しずつ計画を立てて練習していく。そのようにして、話せる場面を広げていくというアプローチをして行って欲しい」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
 

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