スマートフォンに搭載されたカメラ機能や小型化など、デジタル技術の進展に伴って増加の一途をたどっている盗撮事犯の検挙件数。
9月に出版された『盗撮をやめられない男たち』の著者で大船榎本クリニックの斉藤章佳氏(精神保健福祉士)によれば、中高生が加害経験について相談に訪れるケースも増えているという。「親御さんが被害届を出して表面化するケースもあるが、氷山の一角ではないか。多くは学校内で被害者側と加害者側による話し合いの結果、“泣き寝入り”という結果になってしまう」。
りすさん(仮名)は、SNS上で知り合った6人とともに、盗撮などの犯罪行為を未然に防ぐためネットパトロールをするボランティアグループ「ひいらぎネット」を立ち上げた。きっかけは、校内での同級生の盗撮について投稿しているTwitterアカウントを目にしたことだったという。
「小さいが娘がいるので、このままで大丈夫なのかな、私にできることはないかなと。高校生による加害など、若年化が気になっている。被害者を生まないことも大切だが、加害者を作らないことも重要だと思っている。どこか別世界の話かなと考えている方もいらっしゃると思うが、気づかないうちに自身や大切な方が被害に遭ってしまうリスクのある問題だ」
また、盗撮には常習性が伴う一方、初犯では実刑に至らないケースも多く、再犯率は36.4%と、分かっているだけでも、実に3人に1人が再び犯行に及んでいる。
前出の斉藤氏は「学校のスクールカースト上位の子たちに“隣のクラスの女の子を撮ってほしい”と依頼された下位の子が、“言うことを聞かないと仲間外れにされてしまう”という思いから従ってしまい、撮影してしまった。そして、写真がLINEグループで共有される。それによって“男として認められた”という、承認の感覚が得られた。そういう相談を受けたこともある。中高生のホモソーシャルの中で承認欲求を満たされる経験をすると、常習化、さらに行動を亢進させてしまう場合もあると思う。また、逮捕に至ったり、被害者にバレたりしても回数を重ねない限り刑事手続きに行かないので、その間に歪んだ成功体験を積み重ねてしまうケースが多い」と明かした。
元加害者の田中さん(仮名)も、10年あまりにわたって、“逆さ撮り”などの盗撮行為を断続的に続けてきた。きっかけは、やはり携帯電話、スマートフォンを手にしたことだったという。
「よく“ストレスのはけ口で”という話も聞くが、私の場合、それは大きな理由ではない。それまでも少し関心があったが、カバンの中にカメラを仕込んで盗撮するような、そこまでの勇気はなかった。しかしカメラ付きの携帯を手に入れたことで環境が整ってしまった。最初のうちはゲーム感覚に近いというか、もっと枚数を増やしたいということで、チャンスがあると“この瞬間を逃してはいけない”という“スイッチ”が入るというか…。そして次第に歯止めが効かなくなっていって、条件が合うと強迫的に“盗撮せざるを得ない”と。
変な言い方だが、良く写っているかどうかというような、変なこだわりも出てきてしまった。ただ、そういう行為そのものが目的、魅力だったので、撮影した写真をSNSなどにアップすることはなかったし、盗撮に没頭する時期が1カ月くらい続くと、その後は1カ月くらいギャンブルなど、全く違うことにハマり、という感じで10年が経っていた。ただ、精神科などにかかろうとは考えなかった」。
気がつくと“依存状態”に陥っていた田中さん。ある日、電車内での犯行が乗客に見つかる。
「ニュースを見ていて、“明日は我が身”だと感じてはいた。“この秘密は、墓場まで持って行く覚悟でないといけないのだ”と。それがまたプレッシャーになり、紛らわすために行為がエスカレートしていく部分があったと思う。捕まる1カ月半くらい前から特にエスカレートしていて、1日1回が2回になり、通勤中に2回とか、乗り換えの度とか、回数も、撮り方も大胆になっていた。捕まった時には、“それ絶対バレるじゃん”というような撮り方をしていたのに、自分ではなぜか、“捕まらない”という変な自信があった。自分でやめることはできなかったので、捕まった時は“これでやめられるな”、と思った」。
警察の捜査の結果、同僚女性への加害も発覚。示談が成立し、不起訴にはなったものの、職場は去らざるを得なかった。その後は依存症の自助グループに参加しているというが、街を歩いていると、「あの人は撮れそうだ」といった“軽い衝動”は無くならないと明かした。「被害を受けた方のための“厳罰化”という議論は分かるが、それが加害の抑止になるかと言えば、そうではないと思う」。
一方、慶応義塾大学特任准教授の若新雄純氏は「早く罪を重くした方がいいと思う。盗撮の罪の軽さはデジタルがない時代から変わっていない。今の時代では、内容が内容であればネットに公開されると人生のすべてが失われる。仮に衝動が出ても、見つかったら懲役何年だと、仕事を失う程度じゃないと、よほどのブレーキがないと(止められない)最初の成功体験を得やすいというのは、かなりの構造的な問題だと思う」と”厳罰化”を主張。
しかし斉藤氏は「今までに521名の盗撮加害者のヒアリングをしてきたが、ほぼ全員が“逮捕されなければずっと続けていた”と語っていた。やはり衝動のスイッチが入ると、自分では制御ができなくなってしまうほど常習化した方に関しては、やはり逮捕されることが行動変容のきっかけになるというか、“もうこういう生活を続けなくていいんだ”と安心できる。これは薬物依存症の方が逮捕されたときの心情に似ているのかもしれない」とした上で、問題の解決のためには、単なる厳罰化だけでは不十分だと指摘した。
「盗撮の罪は迷惑防止条例の枠内なので、自治体によっても対応が異なること、また、罰則が軽いために“この程度で済んだ”という成功体験を繰り返してしまうという構造的な問題があると思う。そこで法務省の法制審議会でも、“撮影罪”として迷惑防止条例から刑法へ格上げする議論が行われているが、田中さんがおっしゃったことには一理あって、厳罰化には潜在的な層や常習化していない層に対する啓発という意味では効果がある一方、常習化した人の依存行動を亢進させてしまう側面もある。やはりプラスアルファとして、再発防止プログラムを義務化するというのが適切ではないか」。(『ABEMA Prime』より)
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