どこの世界にも「古き良き時代」と表現されるエピソードがある。将棋の世界でいえば、対局中の棋士はかつて自由に外出もし、戦いの最中に会話することもあった。何かとおおらかな時代だったからこそ、後々語られるおもしろい話もたくさんある。初代の竜王となった島朗九段(58)が今でも鮮明に覚えているのが、第2期竜王戦七番勝負で、羽生善治九段(51)と戦った時のこと。持将棋もあり、七番勝負ながら第8局にまで及んだ激戦は、当時の羽生六段が19歳3カ月で初タイトルを獲得することになったが、この名勝負の裏では、対局者の2人を含めて関係者たちで「モノポリー」に興じる、といったことがあった。
タイトル戦となれば、対局者や立会、主催の関係者など多数が、全国各地の対局場を移動する。竜王戦は2日制だが、対局者同士が必要以上に接することはなかったという。ただ、この島九段と羽生九段による第2期竜王戦、対局の前日や、封じ手・指し掛けとなった1日目の夜に、2人や取材の記者、立会の棋士などで不動産を売買するテーブルゲーム「モノポリー」で遊んでいたというから驚きだ。島九段も「対局が終わった後じゃなくて、封じ手の後もやっているんですから、今の子が聞いたら絶句するでしょうね」と笑って振り返る、そんな様子だった。
このモノポリー話、過去にも語られているが、話す度にいろいろと要素が出てくる。たとえば、第8局が終わり、羽生新竜王が誕生した後、ここでもモノポリー対決があった。「羽生さんにタイトルを取られたのは、全然ショックじゃなかった。(羽生九段が)挑戦となった時から覚悟は決めていましたから」。ただ、20代半ばだった島九段は「自分も若者でかっこつけたかったのか、いつものようにゲームを始めたんですよ」と、またモノポリーを始めた。
将棋界最高峰の賞金額を誇る竜王戦。その決着がついた後に、不動産ゲームをしているというギャップは、やっていた本人たちからしてもおもしろい。「羽生さんと交渉するんですよね。『ニューヨーク通りを10ドル高くしてくれ』とか。今、何千万という勝負に負けたばかりなんだけどなあ、と思いました」。このエピソードはABEMAの放送対局で披露されたが、コメント欄は「対局者同士でゲームしてたのか」「決着したあとゲームはすごいな」「竜王戦の直後にモノポリーかよ」と大いに賑わった。
今でもモノポリーだけでなく、チェスや麻雀をはじめ、数々のゲームを楽しむ棋士は多くいる。ただ対局直後、しかも最高峰のタイトル戦直後に、対局者同士がゲームをするというのも、他の競技を見渡してもなかなかないことだろう。今、その時に戻れたとしたら島九段と羽生九段は、どんな顔をしてモノポリーをしていただろうか。
(ABEMA/将棋チャンネルより)





