藤井聡太竜王、“元・天敵”豊島将之九段との力関係が変わり始めた「王位戦七番勝負」という期間
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 戦うごとに学び、そして強くなる。そんな若者の成長を感じられた5局だった。現在、将棋の棋士における序列1位の座についている藤井聡太竜王(王位、叡王、棋聖、19)。1年前の今頃は王位・棋聖の二冠で、2つのタイトルを防衛できるか、さらには1つでもタイトルを増やせるか、というのが周囲の見立てだった。そして6月末に始まったのが、当時竜王と叡王の二冠だった豊島将之九段(31)を迎えての、お~いお茶杯王位戦七番勝負だ。このシリーズ開幕まで、1勝6敗と大きく負け越していた“天敵”だったが、4勝1敗で退け防衛を果たす中で、この力関係にも変化が生じていた。

【動画】藤井聡太竜王が防衛を果たした王位戦七番勝負第5局

 6月29、30日に行われた第1局は、藤井竜王の完敗だった。相掛かりで始まると、1日目こそ互角と見られていたが、2日目に入って少しずつ豊島九段に傾いた形勢を戻すことができず、藤井竜王にとっては珍しく、持ち時間を残して投了という完敗劇。やはり豊島九段に分があるか、という声が改めて強くなるほど、一方的な負け方だった。

 同時期に行われていた叡王戦五番勝負でも戦い「十二番勝負」とも呼ばれた両者の対戦だが、この王位戦七番勝負第1局の後から、確実に藤井竜王がたくましくなっていく。他の相手であれば、序盤で少々失敗しても、中終盤で取り返せていたものが、豊島九段のレベルになると、そう簡単に逆転はできない。はっきりと「序盤」という課題が見えたことで、方針が固まった。年末に実施されたインタビューでも「(シリーズを)振り返ると、こちらが気づいていない構想で、リードされてしまう局が多かった印象がありました。強さを感じるとともに、自分の課題を突きつけられました。序盤における細かい違いが、以前より認識できている部分もあるのかなと思います。ただ、まだうまく判断できないところもあるので、引き続き課題です」と答えていた。

 2021年の藤井竜王の戦いぶりで注目されたポイントに「相掛かり」という戦型がある。王位戦七番勝負第1局で完敗した戦型だが、序盤から選択の幅が広く、「割と力戦になりやすいところがあった」ものが、将棋ソフト(AI)による研究もあり、最近では定跡化が進んだ。「やはり序盤から手が広いのは変わらないので、1つでも定跡手順を覚えるというより、全体としてどういった形が好形になるかを深めていくことが大事です」。研究と力勝負のどちらも必要とされるものが、終盤力に定評があり、かつ伸び盛り・学び盛りの藤井竜王にとっては、最適だったのかもしれない。結果、王位戦の5局では相掛かりを3局指して、2勝1敗。決着となった第5局は、77手という短手数で快勝を収めた。

 1局の勝負でも、大きな学びがあるという将棋の世界。豊島九段という好敵手との連戦により、成長が加速したのは自他ともに認めるところだが、2日制の長時間対局で鍛えられた王位戦七番勝負の夏は、後に最年少四冠となる藤井竜王にとって、かけがえのない大きなものになった。
ABEMA/将棋チャンネルより)

【動画】藤井聡太竜王が防衛を果たした王位戦七番勝負第5局
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