「後継者求む」。持病の悪化により、48年間続く定食屋の営業継続が困難になってしまったことを訴える店主のツイート。近年、SNS上で後継者不足に悩む声に触れる機会も増えたのではないだろうか。一方、昔は承継するのが当たり前だと思われていた家業に思い悩む子どもたちもいる。ときには家族からの“圧”を“継ぐハラ”と呼ぶこともあるようだ。
■「“結婚しないのか”と言われるのも嫌だ」
新潟県で70年続く工場の長男として生まれた希さん(36)も、家業に興味を持つことができず就職活動をしていたところ、両親や親類からプレッシャーをかけられてしまったという。
「数社から内定を頂いたと親に説明したら、涙を流して、叫ぶような感じで“なんで家が嫌なの。なんで継いでくれないの”みたいな…。親戚からも、“本家の長男が家を継がずに何をしてるんだ”とか、“この家は大丈夫だねと思っていたのに”とか、プレッシャーを感じるようなことを何度も言われた」。
跡継ぎになることに消極的なのは、自身がゲイであることも大きいという。「私は3代目だが、4代目の子どもは残せない。だから“女性と付き合わないのか”、“結婚しないのか”と言われるのも嫌だ」。古い価値観を持った親にカミングアウトすることもできず、話し合いは平行線のままだ。
地元では有名だという建設会社の家庭に長男として生まれたミヤギさん(23)。家族経営のしがらみに嫌気がさし、縁もゆかりもない遠方の会社に就職した。そしてステップアップを求めて転職しようとしていたときのこと。引っ越し先も決まったにも関わらず、強制的に実家に引き戻されてしまった。
「専務である父を中心に会社が回っていて、他の建設会社の社長さんなどに挨拶回りをしていると、“ゆくゆくは3代目として継がせる”という話もされるし、父も現場で“3代目がおるから頑張っていけるやん”みたいに言われている。そういうことがほぼ毎日だ。自分も“3代目だから頑張らないといけない”と言われるし、周りの人たちからも、“(後継者なんだから)これくらいできて当然だろう”“できて当たり前だ”というプレッシャーが常にかかっている」。
それだけではない。趣味についても横槍が入ったという。「“社長の孫であり専務の息子でありながら、女装のコスプレをしているのは何事だ。恥ずかしいから止めてくれ“と言われた。パートナーについても、周りの社長さんや従業員の人たちからも突っ込まれる…」。
■「やりたいことがあると言ってきたら、それは尊重するが…」
一方、創立62年を迎える自動車部品会社・セキネシール工業の2代目・関根堅司さんは、家業を息子(三男)に継がせることを決めている。
「私も父親から“継いでほしい”ということを言われていたが、大学を出た後はサラリーマン生活を5年やった。すると父親の方から改めて戻ってきてほしいと言われた。ちょうどその頃、新製品に関わる仕事をやっていて、それが世の中に出たタイミングだったので、今なのかなと思って…という感じだ。だからといって、私は父にいわゆるハラスメントをされているとは思わなかった。やはり子どもが次ぐのが一番素直な流れなのかなと思うし、借金するときに連帯保証人になるといったことは、本当の覚悟がないとできない。社員の中でも、納得感が一番あると思う」。
ただ、もし息子が夢を追いたい、やりたいことがあると言ってきたらどうするのか、と尋ねると、「長男の場合、自分から“継いでみたい”と言ってきたので、嬉しかった。ただ、会社に入って1年経つと、“ちょっと自分には合わない”と言ってきた、私としても強要はできないと思った。次男もサラリーマンをやっている。三男に対しては“継いでほしい”とは言ったが、そのあたりのことも理解した上で入ってきてくれたと思う。もちろん、やりたいことがあると言ってきたら、それは尊重する。ただ、すごく辛い部分がある…」と話した。
関根さんの話を受け、福井県出身の慶応義塾大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は「僕の地元は“経営者率”が高いことで有名だが、実はほとんどが家と一体となった零細企業だし、後継者問題で悩んでいる人たちも多い。背景には、事業を継承するだけじゃなくて、家や親戚も継承しなきゃいけないというところがある。特に製造業の場合、従業員が親戚だったりするからだ。しかし今の時代、実家に妻を迎えて住むかどうかだけでも悩むのに、そこと一体となった事業を守ろうとすると、まさに“嫁をもらう”という格好になる。そういうことにポジティブな人、家族との関係が良好な人だったとしても、子どもの問題も出てくる。男の子でなければ、こんどは“婿入り”だ」とコメントした。
■「その時々に応じて誰が継いだ方がいいかは違う」
第三者に事業継承を行わせるためのマッチングを行っている株式会社バトンズの大山敬義氏は「本当に、若新さんのおっしゃる通りだ。昭和22年までは旧民法下の家督相続という制度があり、長男が家名と財産と家業を一体で引き継ぐことになっていた。その代わり、お墓、仏壇、あるいは親戚ご一同を全て守るという義務があった。それが当たり前だよね、という時代の名残、常識みたいなものが今もあり、大きな意識のギャップが生まれているのだと思う」と話す。
こうしたことから、日本は諸外国と比べても“家族経営”が多いようだ。「これは関根社長がおっしゃっていたとおり、“すわり”がよく、みんなが納得してくれる。それから、銀行の問題だ。私自身、建設会社の3代目だったが、家の借金の連帯保証人になっていた。やはり覚悟や情熱、資力の点で、従業員が継ぐのは難しいのは難しい。そういう中で、2012年頃からは、本当にダメだというときは第三者に譲ったっていい、という流れが出てきた。今はインターネットがあるので、全国から公募するということもできる。それもあって、当時は後継者が親族というケースが85%くらいだったが、今は40%くらいにまで低下してきた。もちろん、私も継がなかった」。
その上で大山氏は「例えば店舗だけ、事業の一部だけ、という具合に、一部分だけを切り出して譲るということも多い。例えば日本で最も古く、1400年ぐらい続いてきた金剛組という建設会社の場合、金剛家の経営は39代目で終わり、今は別の会社が経営している。それでも四天王寺を建てた宮大工の伝統や技術は受け継がれている。つまり金剛家が継ぐことが大事なのではなく、その時々に応じて誰が継いだ方がいいかは違うということだと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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