これがかつて将棋界を震撼させた伝家の宝刀「光速の寄せ」だ。「第1回ABEMA師弟トーナメント」予選Bリーグ2位決定戦、チーム谷川とチーム中田の対戦が2月12日に放送された。この第3局で、チーム谷川・谷川浩司九段(59)がチーム中田・佐藤天彦九段(34)と対戦し、最終盤で切れ味抜群の手を繰り出し逆転勝利。この鮮やかな寄せに関係者やファンからは「鳥肌が立ちました」「これは永世名人!!」と、驚きと興奮の声が相次いだ。
通算タイトル27期にして、永世名人の有資格者でもある谷川九段。1980年代後半から1990年代にかけて次々とタイトルを獲得したレジェンド棋士の強さについたのが「光速の寄せ」だ。他の棋士よりも攻めに踏み込むタイミングが早く、周囲から無理筋と見えるような攻めでも成立させてしまう強さ。最年少21歳2カ月という若さで名人を手にした原動力だ。
この大会、さらに団体戦「ABEMAトーナメント」では、若手有利と言われる超早指し(持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールール)に苦戦することもあったが、佐藤九段との一局で見せた逆転劇は、逆にルールを味方につけたような戦いだった。
先手の佐藤九段が矢倉に構えたところ、谷川九段は急戦調の将棋を選択。ところがこれが失敗した。「序盤があまりにもお恥ずかしい。時間がある将棋だったら、もう投了というぐらい大差だった」と対局後に振り返るほど大劣勢になってしまったが、弟子の都成竜馬七段(32)が見る前で、早々と勝負を投げるわけにもいかない。粘りに粘ると、大優勢を意識しすぎたのか佐藤九段に緩んだところが生まれ、ここを一気に攻め立てた。
残り時間もわずかとなり大接戦となった最終盤。ここで谷川九段のはなった△4五桂という一手が光り輝いた。ここから完全に流れを掴むと、そこからはまさに「光速の寄せ」。解説していた戸辺誠七段(35)が「フィッシャールールの時間のない中でビシッと輝きました」と称えれば、聞き手の村田智穂女流二段(37)も「鳥肌が立ちました」と絶賛。さらにファンからも「谷川先生かっこいい!」「光速流炸裂!」といったコメントが殺到した。
劇的な勝利に谷川九段は「偶然、詰みが発見できました。やっぱりこのルールは投げなければ何が起こるかわからないことを改めて感じました」と、ホッとしたようなため息。ただファンからすれば窮地に追い込まれたからこそ再び輝いたその寄せが堪能できたことが、この試合一番のご褒美だったようだ。
◆第1回ABEMA師弟トーナメント 日本将棋連盟会長・佐藤康光九段の着想から生まれた大会。8組の師弟が予選でA、Bの2リーグに分かれてトーナメントを実施。2勝すれば勝ち抜け、2敗すれば敗退の変則で、2連勝なら1位通過、2勝1敗が2位通過となり、本戦トーナメントに進出する。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで、チームの対戦は予選、本戦通じて全て3本先取の5本勝負で行われる。第4局までは、どちらか一方の棋士が3局目を指すことはできない。
(ABEMA/将棋チャンネルより)