ウクライナから国外へ避難する人が相次ぐ中、深刻な影響を受けているのが病気の子どもたち。小さながん患者と向き合うドイツ在住の医師に現地の状況を聞いた。
「『高いステージのがんと闘っている子たちを受け入れてくれないか』という依頼があって、0〜6歳くらいまでのがんと闘っている5人の子どもたちを初めてのウクライナ難民患者として受け入れました」
こう話すのは、日本で過ごしていた時期もあり日本語が堪能で、将来は日本での医師免許取得も考えているというドイツ人医師のTobiさん。いま、ウクライナから避難してきた患者がポーランドやドイツといった周辺国の病院を頼ってやってきている状況だという。
「3〜4日間、ほぼ寝ずにただ歩き、電車に乗って移動し続け、自分を守るために動き続けたお母さんたちが救急外来に来ました。(病院に)着いた時、『もう自分の子どもがケアしてもらえる、もう安全だ』とほっとしている状態が目に見えて、どれほど大きな力をこの期間で尽くしていたのかがすごく印象的でした」
ウクライナでは、男性は国内にとどまることが多く、避難して病院にやってくるのは子どもと母親だけ。ただでさえ心細いはずの子どもが採血で泣いてしまった際、Tobiさんの心を揺さぶる出来事があったという。
「採血が終わった後に、お母さんが慰めるための歌を歌い始めたんです。診察の時は問診のため通訳者にお世話になっていたのですが、みなさんが歌い始めたときに『これはウクライナの国歌だ』と教えてくれました。子守唄として国の歌を歌うことはあまり想像していなかったので、この状況でも……いや、この状況だからこそ、愛国心を忘れていないのだなと、感動しました」
そんな患者との架け橋となってくれるボランティアの通訳者の半数以上がロシア人だという。
「ドイツに住んでいるロシア人たちが口をそろえて言っているのが、『僕たちの私たちの戦争ではなくて、プーチンの戦争だ』ということ。『せめて通訳である自分たちだけでも、ウクライナの人々のためになれたら嬉しい』という心の持ち方に驚きました。今回の助け合いは、悲劇の中で見えた人間性の良い部分であるように思います」
ウクライナ国内の病院も攻撃されるなど、安心して治療が受けられず、国外への避難を余儀なくされる子どもたち。小さな患者と向き合う中、Tobiさんが今思うことを明かした。
「すでに弱い立場にいる子ども、それもがんと闘っている最中の子ども。他の同年代の子たちとは違う人生を歩んできた子どもたちが、難病と闘う勇気も出しているのに更に勇気を出さなきゃいけない、耐えないといけない状態。この無意味な戦争と向き合わないといけない。医師としては(身体を)健康に戻せても、トラウマはそう簡単には治せません。そのケアは何日間とか何週間とかじゃなくて何年間もかかりそうです。そして、この戦争の無意味さを感じます。私は平和な時代に生まれて、そこまで考えたことはなかったですけど、ウクライナや他の難民をみると、民主主義と平和を守る価値の大事さをすごく近く感じます」
この状況を受けて、実際に小児病棟で実習したことのある現役看護師でタレントの荒川真衣は「病気を持ちながら避難するのはかなりリスクやストレスがある」と話す。
「(小児がんの子たちは)他の子どもと違って制限されるものが多いです。痛かったり、苦しかったりするので、その中で自分の精神状態を保つことすら難しいです。それなのにこの状況で避難することになって、かなり心も身体もストレスがかかっていると思います。小児がんの子たちは免疫力が下がっている中で、こうやって感染リスクもあるなかで外に出るということは、病気の進行に繋がったり、重篤な状態になる可能性も高いのでリスクを負いながら避難しているんだと感じました」
(『ABEMAヒルズ』より)
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