「先生が下に見られる社会」「規制緩和で生じた問題を規制緩和で解決する矛盾」深刻化する教員不足を“特別免許状”で補う惨状
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 横浜市にある英理女子学院高等学校でプレゼンテーションの授業を行う上原正太郎さん。実は本職は大手外資系企業でクラウドサービスやAI製品のマーケティング責任者だ。

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 同校ではプログラミングや金融教育といった授業で現役のビジネスパーソンに講師を依頼してきた。高木暁子校長は「社会に出た時に必要になる力を育成できると考え、ビジネスの世界にいる方の講座を設定した」と説明する。上原さんも海外での勤務経験や経営学修士の学位を取得していることを買われ、月に数回の課外授業を受け持って4年になる。

■『情報Ⅰ』については特別免許状の有効活用を大胆にやるべきだ

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 このように、このように、教員の普通免許状を持たない人材が教育委員会からの「特別免許状」で教えることができる制度は30年以上前から用意されてきた。総理の諮問機関である規制改革推進会議では、これをさらに緩和、外部人材を採用するよう促している。

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 同会議の議長も務める近畿大学情報学研究所の夏野剛所長は「背景には、教える内容が時代と共に変化しているということがある。英語についてはネイティブな外国人を教員として迎えてるが、現役教員でプログラミングを教えられる人は少ない。そこで高校の『情報Ⅰ』については特別免許状の有効活用を大胆にやるべきだという議論をしている」と説明する。

 「日本の場合、教員は大学を出る際の就職先の一つになっていて、終身雇用的な“一生の仕事”として続いていく。小学校教員の"平均的な像"は48歳女性というのが、それを象徴している。本来なら社会でビジネスを経験し、“これからは教育に人生を捧げたい”という人が教壇に立てるようにリボルビングドアを推進した方がいいと思う。現時点ではそれが難しいので、暫定的に特別免許状で対応するしかない、という認識だ」。

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 テレビ朝日平石直之アナウンサーは「夏野さんはお金が目的ではなく、社会に貢献したい人がたくさんいるはずだと話をされたが、私も月に数回で良ければファシリテーションの話を学校でしてみたいと思う」とコメント。

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 プロデューサー・慶応大学特任准教授の若新雄純氏は「そういう需要はめちゃめちゃあると思う。僕も30代になってから中高生向けのキャリア講座などを行っているが、とにかく楽しいし、めちゃめちゃ張り切る。専任として働いている先生の仕事をデザインし直すこととセットで進んでいくと面白いと思う」と応じた。

■「教員不足を補うものとして常態化させるのは反対だ」

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 とはいえ、「特別免許状」は“人手不足”を補うために使われようとしている現状もある。文部科学省の調査では、全国の公立小中高で合計2500人あまりの欠員が出ていることが明らかになっている(去年4月の始業日時点)。

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 元中学校教諭の教育研究者で高知県土佐町の町議も務める鈴木大裕氏は「僕自身は特別免許状の制度そのものが悪いとは思わないし、逆に普通教員免許を持っていれば必ず良い先生だとも思わない。ただ、特例であったはずの特別免許状が教員不足を補うものとして常態化させるのは反対だ」と話す。

 「僕は28歳で教員になったが、それまでに得た様々な経験が役に立ったと思っている。色んな人が子どもに関わることの効果や閉塞感の打破、人手不足の解消のためにも、セカンドキャリアとして教員を目指す人が増えるのはいいことだと思う。ただ、問題の本質を理解せず、特別免許状をどんどん発行することによって人手不足を解消しようとすることには深刻な問題があると思う。

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 そう考えるのには理由がある。僕は16歳で海外留学して大学、大学院と学んで帰国、就職した。そして通信教育で教員免許を取って教壇に立ったわけだが、その頃、何度も同じことを尋ねられた。“なんで教員になったの?”と。そこには “もっといい職業があるのに?”という意図が含まれている。僕は、教員が尊敬されていない社会なんじゃないかと感じた。例えばフィンランドでは大学院を修了していないと教員になれず、採用試験も狭き門だ。給料もいい。だから高校生の間で人気ナンバーワンの職業だ。そんな環境だからこそ、子どもたちもスポンジのように吸収する。

 あるいは1980年代に瀕死だったクライスラー社を立て直したリー・アイアコッカはこんなことを言っている。“真に理性的な社会では、最も優秀な人間が教員になって、他の人間はその他の職業で我慢するしかない”と。それが日本では、教員が下に見られるような社会になっている。社会的地位の向上なしに真の教育改革はあり得ない」。

■「規制緩和で生じた問題を規制緩和で解決する矛盾」

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 鈴木氏は続ける。

 「そもそも日本は教育にお金をかけない国だ。そして教員の過重労働が社会問題化した途端に“じゃあ民営化”という議論になってしまう。例えば以前は中学に入った子どもたちの間では“部活、何やる?”という会話が当たり前に交わされていた。しかし、子どもたちが部活動に入れる権利を保障してきたのは国ではなく、搾取に耐えて支えてきた教員たちだった。なぜ“これからは地域に移行しますよ”の前に、“これからは国が支えますよ”という議論が出てこないのか。

 1988年からあった特別免許状の制度が最近になって話題になっているのも、やはり教員不足の解消に使われようとしているからだ。じゃあそれを生み出したのは何かといえば、政策だ。2000年代の小泉政権下で始まった地方分権改革、規制緩和による正規雇用の教員の削減、非正規教員への依存だ。

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 2001年に義務標準法が改正され、生徒40人に対して1人の正規雇用の教員という配置が義務付けられていたのが、複数の非正規教員で分割可能にした。2004年には義務教育費の国庫負担制度への総額裁量性が導入され、一定の範囲であれば教員の数や待遇を自治体が決められるようにした。さらに2006年に公立学校の教員の国庫負担分が2分の1から3分の1に減らされたことで、自治体は差額を埋めるために非正規雇用の教員を増やすことになった。結果、正規教員の数と給料が減る一方、非正規教員が激増した。

 つまり規制緩和によって生じてきた教員不足を、さらなる規制緩和で解決しようという矛盾がある。そもそも教える内容が時代とともに変わっていくことも分かっていたはずで、それに備えた教員養成をしてこなければならなかったはずだ。そこに国がお金をかけないから、英語やプログラミングを誰が教えるの?と話になるということだ」。(『ABEMA Prime』より)

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